アルケミスト・スタートオーバー ~誰にも愛されず孤独に死んだ天才錬金術師は幼女に転生して人生をやりなおす~

エルトリア

文字の大きさ
140 / 396
第三章 暴風のコロッセオ

第140話 反撃開始

しおりを挟む

「……リーフ。ワタシに頼みたいことって、なに?」

 一通りの作戦を伝え終わったところで、アルフェが口を開いた。囮になってもらう三人は、攻撃よりも防御に重きを置いてもらうことになる。逆転のためには僕たち三人の攻撃が不可欠だ。

「アルフェには、ホムと雷鳴瞬動ブリッツレイドの準備をしてほしい」
「そうくると思ったよ。頑張ろうね、ホムちゃん」

 アルフェはもう分かっていたようだ。タオ・ラン老師のもとで修行したあの技を、ここで使わない手はない。

「ん? その、ブリッツなんとかっていうのは、なんだ?」
「端的に言えば、人間を大砲の弾のようにして撃ちだす魔法だよ。発射台に雷魔法のエネルギーを充電する必要があるからアルフェと一緒じゃないと撃てないんだ」

 ヴァナベルの質問に、出来るだけ平易な言葉を使って説明する。ヴァナベルはわかったようなわかっていないような顔をし、ヌメリンに「大砲みたいなヤツだよぉ~」とさらに略された説明を受けて理解したようだ。

「しかし、お言葉ですがマスター。わたくしの雷鳴瞬動ブリッツレイドでは、A組全員を一度に撃破することはできませんが――」
「そう。だから、ホムには僕を抱えて飛んでもらう」

 ホムの問いかけに頷き、僕は自分の役割の説明を始める。僕のこの身体では、単に真なる叡智の書アルス・マグナを使っただけでは、決め手になる攻撃手段に限りがある。かといって、殺傷能力を上げるのは失格になる可能性が高く、僕自身もそれを望まない。

 使う魔法はもう決めてある。

「僕は上空からA組の配置を確認し、火炎魔法フレアレインで攻撃する」

 この魔法は詠唱によって形成した炎の渦を花開かせ、無数の熱線を雨のように地上に降り注がせる炎魔法だ。

 着弾する相手の位置を上空から観測することで精度を上げ、たった一度の攻撃機会を最大限に活用できる。

「ハッ! 炎には炎をってヤツだな!」
「にゃはっ。あたしらは、それが発射される時間稼ぎの囮ってわけだ」

 作戦を端的に表現したヴァナベルとファラが愉快そうに笑う。ここにきて笑える余裕があるというのが、二人の強みだな。

「そうなるね。出来るだけA組を攪乱してから退いてほしい。雷鳴瞬動ブリッツレイドの動きを悟られなければ、僕たちの勝ちだ」
「……オレたちは囮で、てめぇらがこの作戦の肝ってわけだな」
「不満かい?」

 確かめるように訊いてくるヴァナベルに、念のため聞き返してみる。ヴァナベルは首を左右に振り、長い耳をぴんと立ててにやりと笑った。

「いや。オレたち三人を囮にするんだから、しくじるんじゃねぇぞ」
「勿論だ。勝つための作戦なんだからね」

「F組に告ぐ――」

 拡声魔法で、リゼルの声が上空から響いてくる。

「そろそろ再開だな。ここまで猶予があったことに感謝しよう」

 それこそがA組の余裕であり、慢心でもある。だから僕たちは、この状況からでも逆転出来る。

「さて、弱虫リーダーのヴァナベル。いつまでそこに隠れているつもりだ?」
「うっせぇ! てめぇらこそ、遠くから魔法でボンボン狙いやがって、てめぇの持ってるその剣は飾りかぁ!?」

 言い返すヴァナベルは、地声だけでかなりの声量だ。

「うふふっ。やぁっと動きが出て来たわね♪」

 ヴァナベルとリゼルの言い合いに触発されたのか、マチルダ先生が箒に乗って近くまでやってきた。

「膠着状態じゃつまらないから、ちょぉっとお手伝いしてあげる♪」

 マチルダ先生がそう言って、爆裂魔法イクスプロージョンを炸裂させる。熱風が駆け抜けたかと思うと、燃え残っていた森が跡形もなく消え失せた。

「ははっ、意外と近くまで来てんじゃねぇか」

 舞い散る灰の向こうにA組の隊列が見える。ヴァナベルが高らかに笑うと真紅の魔剣をリゼルの方に向かって突きつけた。

「今からそっちに行ってやるから、首を洗って待ってろ! 行くぞ、ヌメ!」
「あ~~い!」

 ヌメリンが巨大な戦斧を掲げてA組に向かって突進を始める。

「来るぞ! 引きつけて迎え撃て!」

 リゼルの命令に、A組の魔法科の生徒たちが魔法の杖の照準をヌメリンに合わせる。

「そぉーーーーーれっ!」

 ヌメリンが戦斧を振り上げて跳躍したかと思うと、地響きととともに地面が揺れ、辺りは一瞬にして灰と土煙に覆われた。

 僕とアルフェ、ホムがいる高台には、風向きが味方してそれらは届かない。土煙と灰の舞う中で、A組の影がよく見える。

 どうやら運が向いてきたようだ。

しおりを挟む
感想 167

あなたにおすすめの小説

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...