アルケミスト・スタートオーバー ~誰にも愛されず孤独に死んだ天才錬金術師は幼女に転生して人生をやりなおす~

エルトリア

文字の大きさ
146 / 396
第三章 暴風のコロッセオ

第146話 アルフェへのサプライズ

しおりを挟む

「アルフェとホムが部屋を交換するんだね! ファラも承諾してるなら、いいに決まってるよ!」

 翌朝、ウルおばさんに相談すると、笑顔で快諾してくれた。

「あたしとしては、いつ来るんだろうって指折り数えてたんだよ。それがもう二か月じゃないか! あんたたち、よく頑張ったね」

 どうやら三人部屋の抽選に漏れたことで、かなりがっかりしていたアルフェのことが気懸かりだったらしい。ウルおばさんは、大きな毛むくじゃらの身体を揺らしながら本当に嬉しそうに僕とホムに許可を出してくれた。

「お気遣いありがとうございます。それで、その――」
「ああ、申請とかそういうのはいらないよ。みんなあたしの可愛い子どもたちだし、信頼してるからね」
「ありがとうございます」

 なにか手続きが必要かと早めに部屋を出たのだが、どうやらその必要はないらしい。部屋を交換したり行き来すること自体は禁じられているわけではなく、良くあることではあるようだ。

 それならば、定期的に部屋を交換するのも良いだろうな。幸いこの学園の警備はしっかりしているし、ホムも僕の身の危険を感じてはいなさそうだ。

「アルフェにはもう話したのかい?」
「いえ、これからなんですが――」
「きっと泣いて喜ぶだろうね」

 感受性がとても豊かなアルフェのことだ、それくらい喜んでくれれば僕も嬉しい。アルフェの涙を見るのは避けたいけれど、嬉しくて泣いている姿を見るのは嫌いじゃない。

「リーフ!」

 ウルおばさんと立ち話をしていると、アルフェが大きく手を振りながらやってきた。

「おはようございます、ウルおばさん」
「おはよう、アルフェ。良い知らせがあるから、聞いておくれ」
「良い知らせって?」

 ウルおばさんの発言にアルフェが不思議そうに目を瞬く。

「ほら、リーフ。話しておあげ」

 ウルおばさんが目配せしながら僕に促す。僕はアルフェを見上げ、

「今度の週末、久しぶりに一緒に過ごさないかい?」
「え?」

 反射的に問い返したアルフェの目に輝きが宿る。アルフェの頬が嬉しそうに緩むのを感じながら、僕は続けた。

「今、ウルおばさんに許可をもらったんだ。明日の夜から、アルフェは僕の部屋に泊まれる」
「いいの!?」

 そう言いながらもアルフェはもう僕の手を取って、強く握りしめている。

「ホムはアルフェ様のお部屋で過ごさせていただきます」

 アルフェの一瞥を敏感に読み取ったホムが、柔らかな口調で補足した。アルフェはそれに二度瞬きし、改まったように僕の顔を覗き込んだ。

「……もしかしなくても、ワタシ、リーフと二人きり?」
「そうだよ」
「リーフ、大好き!」

 応えるのと同時にアルフェに強く抱き締められる。触れ合う頬の熱さから、アルフェの頬が薔薇色に染まっているのが想像出来て、僕も頬が緩んだ。

「ホムちゃんも、ありがとう!」

 アルフェが手探りでホムを抱き寄せながら、僕たちを抱き締めている。その様子を見守っていたファラがアルフェの背後で噴き出した。

「にゃはっ! 朝からアツイなぁ~」
「だって大好きなんだもん」
「知ってるよ。毎日リーフのことばっか話してるもんな」
「えへへっ」

 アルフェが照れたように笑いながら僕たちからゆっくりと身体を離す。

「そういう訳だから、仲良くしようぜ、ホム」
「わたくしも楽しみにしております」

 ファラがホムに握手を求め、ホムが微笑んで応じる。ファラの瞳に一瞬だけ魔眼の光が宿り、ホムの微かな表情の変化を読み取ったように見えた。

 こういう細やかな制御が出来るファラは、かなり自分の魔眼の性質を知り尽くしているようだな。とはいえ、ホムの表情を読み取るのに魔眼を使うなんて、凄いことを思いつくものだ。

「……あれ? ファラちゃんは知ってたの?」

 ホムとファラの交流を嬉しそうに眺めていたアルフェが、ふと思い出したように問いかける。

「昨日ホムから相談されてさ。まあ、あたしも同じ軍事科同士、ホムとはゆっくり話してみたかったんだよ。だから丁度いいかなって」
「そうだったんだ……。ありがとう、みんな」

 どうやらアルフェにはサプライズになったようだ。全然気がつかなかったとばかりにアルフェが嬉しそうな照れ笑いを浮かべている。その笑顔を見ると、みんなが幸せな気持ちになるような、そんな笑顔だ。ウルおばさんも嬉しそうに僕たちを見守ってくれている。

「どういたしまして」
「寮の醍醐味みたいなもんだよな。これからもちょいちょいやろうぜ。良いだろ、ウルおばさん」
「もちろんだよ。相談さえしてくれれば、ダメとは言わないからね」

 入学して二か月と少し、やっと寮の過ごし方もわかってきて快適になってきたな。これからもっとプライベートに使う時間も気にすることにしよう。きっと専攻ごとの科目に分かれてからは、かなり大変なことも多くなるはずだから。
しおりを挟む
感想 167

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

おせっかい転生幼女の異世界すろーらいふ!

はなッぱち
ファンタジー
赤ん坊から始める異世界転生。 目指すはロマンス、立ち塞がるのは現実と常識。 難しく考えるのはやめにしよう。 まずは…………掃除だ。

処理中です...