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第三章 暴風のコロッセオ
第161話 ライル・グーテンブルクの懸念
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午後の選択授業の後、夜食の材料の下見のために商店街へと向かった。
今日の選択授業は、先週自分たちが提出したレポートを名前を伏せてランダムに査読し合うというもので、なかなか興味深い知見が得られた。僕の飛雷針についてコメントしてきた生徒は、簡易術式のルーン文字に最新の『新字』を提案した上、簡略化と威力の増強について考察してくれていたのには驚いた。前世の手癖もあって、つい旧字を使ってしまうところがあるので、もう少し新しい研究結果は採り入れておきたいところだな。
アルフェとホムはそれぞれ模擬戦がメインになったらしく、二人ともクレイゴーレムを相手に魔法と機兵でそれぞれ戦ったそうだ。
アルフェはリリルルとまた一番にクレイゴーレムを倒したらしく、次からはリリルル以外と組むことになったらしい。リリルルは二人一組から離れることを断固拒否したので、三人一組のところを二人一組というハンデを負うことになったそうだ。
それでもリリルルのことだから、あっさりとクレイゴーレムを倒せるようになるんだろうな。
ホムはファラとの模擬戦でコツを掴んだらしく、クレイゴーレムを一番に倒したと喜んでいた。二番目にクレイゴーレムを倒したのは意外にもヴァナベルだったそうだ。ファラは、模擬戦で魔眼の力を使いすぎてかなり消耗したようだが、それでも三番目にクレイゴーレムを撃破したらしい。
機兵適性値は、やはり数値だけでは見えて来ないものも、かなりあるようだな。機体との相性も強くかかわってくるだろうし、ここはホム専用機を作るのも良さそうだ。
「楽しみだね、武侠宴舞・カナルフォード杯」
「そうだね。あの適性値なら、ホムとファラはまず選抜されるだろうし」
武侠宴舞・カナルフォード杯は、全学年で三人一組、14チームが選抜される。慣習として生徒会がシード枠で入るため、合計15チームによるトーナメント戦で優勝を決めるのだ。
「去年は、エステアさんとメルアさんたちのチームが優勝したんだって」
「前年度の優勝者で現生徒会長か、きっと手強い相手になるだろうね」
「どんな相手であろうとも、マスターのために負ける訳には参りません」
ファラとの戦いでホムは手応えを感じている様子だ。三人で談笑しながら歩いていると、見覚えのある人影が向こうから走ってくるのが見えた。
「おーい! リーフ!」
「あ、ライルくんとジョストくん!」
ああ、誰かと思えばグーテンブルク坊やとジョストか。入学式から結構経つが、こうして顔を合わせるのは久しぶりだな。
クラス対抗の模擬戦では、もしかすると僕のフレアレインで再起不能にした可能性があるから、こうして顔を合わせるのは少々気まずい気もするが……。
「レギオンの模擬戦、凄かったな!」
クラス対抗模擬戦のことなど、すっかり忘れているかのようにグーテンブルク坊やは、開口一番そう言って息を弾ませた。
「ホムが機兵に乗れるなんて知らなかったぞ」
「まあ、実際に機兵に乗るのは今日が初めてだからね」
僕の答えにグーテンブルク坊やが目をまんまるに見開く。こういう顔に出やすいところは、大きくなっても変わらないものらしい。
「嘘だろ……。初めてであんなに動かせるもんなのか……?」
「マスターがそのように造ってくださいましたので」
「そうなのか!?」
グーテンブルク坊やがそう言いながら、僕を見つめてくる。
「錬成過程で調整出来るんだよ。まあ、それ相応の錬成陣は、必要だけれど」
そう。僕はホムの錬成時にかなりこだわって外見などもしっかりと作り込んだのだ。かなり時間はかかってしまったが、ホムの出来には我ながら満足しているし、ホムの成長もとても嬉しい。
「昔っから変わったヤツだと思ってたけど、やっぱり凄いんだな、お前……」
おやおや。普通に振る舞っていたつもりだったが、グーテンブルク坊やはそんなふうに僕を見ていたらしい。なんだか複雑な気分だ。
「ライル様のご発言は、褒め言葉ですので」
僕が戸惑っているのが伝わったのか、ジョストが補足してくれた。褒めたつもりだったのだとわかって、少しほっとした。
「……で、なんの用だい?」
「いや、間近であの模擬戦を見たら、なんかこう感想っていうかさ、なんか伝えておかないといけない気がしたんだよ」
グーテンブルク坊やは相変わらず興奮した様子で僕とホムを見比べている。ファラがもしここに居たら、握手でも求めかねない勢いだな。それくらい、衝撃的だったということなのだろう。だとしたら、僕たちへの注目度はどれほどのものなのだろうか。
「適性値100ってことは、今度の武侠宴舞への出場は確実だろ?」
「まあ、そうなるだろうね」
「そのことなんだが――」
そこまで言って、グーテンブルク坊やがふと押し黙った。
「ちょっと待ってくれ」
話を遮り、グーテンブルク坊やはいそいそと身体の向きを変えて僕たちから離れる。
「……マスター、あれを」
視線を感じると思えば、A組のリゼルがこちらを蔑むような目で一瞥して通り過ぎていくところだった。幸い、同じクラスのグーテンブルク坊やには気づいていない様子だ。
「……悪かったな」
リゼルが去るのを待ってから、グーテンブルク坊やが、こちらに向き直った。
「構わないよ。クラス対抗戦のこともあるだろうし、僕たちと話をしているのをよく思わない相手もいるだろうからね」
「ああ……」
実際、グーテンブルク坊やがこうして話しかけてくるとは僕自身思ってもみなかったのだから、僕の攻撃を食らった生徒の反感もかなりのものだろう。
「実はそれで、俺はともかく、クラス委員長のリゼルは、かなり根に持ってるんだよ。取り巻きの中には、F組の亜人たちをこの学園から追い出すなんて、言ってるヤツらもいる」
グーテンブルク坊やが、周囲を伺いながらそっと教えてくれる。
「武侠宴舞を雪辱戦の舞台だと考えてるかもしれないし、そもそも出場出来ないようになにかされるかもしれない。とにかく、気をつけてくれよ」
「ご忠告ありがとう。でも、僕には目的があるからここを出て行ったりはしないよ。もちろん、追い出されたりもしない」
そもそも前世の僕はちょっとやそっとの嫌がらせには慣れているし、仲間はずれにされたところでなんとも思わない性格なのだ。今は、大切なアルフェと家族のホムがいるからまた違うものの、そもそも他人からどう接されようと結果を出せば良いと思っている節がある。まあ、その結果でさえ、以前の中間成績発表のように教頭に捏造されるようでは困ってしまうのだけれど。
「マスターはわたくしがお守りしますので」
「そうだな。ホムが強いことは証明されてるわけだし、下手に手出しはしてこないか」
ホムの落ち着いた発言を聞いて、グーテンブルク坊やは少し安心したように胸を撫でた。
「よし、行くぞ、ジョスト」
「はい、ライル様」
伝えたいことを言い終えたグーテンブルクが、ジョストを伴って去って行く。A組や他の貴族の目があるだろうし、あまり目立ちたくはないんだろうな。
ふと周囲を見れば、生徒会長のエステアとルームメイトのメルアが、この前と同じようにカフェのテーブルでシフォンケーキと紅茶を優雅に楽しんでいた。
今日の選択授業は、先週自分たちが提出したレポートを名前を伏せてランダムに査読し合うというもので、なかなか興味深い知見が得られた。僕の飛雷針についてコメントしてきた生徒は、簡易術式のルーン文字に最新の『新字』を提案した上、簡略化と威力の増強について考察してくれていたのには驚いた。前世の手癖もあって、つい旧字を使ってしまうところがあるので、もう少し新しい研究結果は採り入れておきたいところだな。
アルフェとホムはそれぞれ模擬戦がメインになったらしく、二人ともクレイゴーレムを相手に魔法と機兵でそれぞれ戦ったそうだ。
アルフェはリリルルとまた一番にクレイゴーレムを倒したらしく、次からはリリルル以外と組むことになったらしい。リリルルは二人一組から離れることを断固拒否したので、三人一組のところを二人一組というハンデを負うことになったそうだ。
それでもリリルルのことだから、あっさりとクレイゴーレムを倒せるようになるんだろうな。
ホムはファラとの模擬戦でコツを掴んだらしく、クレイゴーレムを一番に倒したと喜んでいた。二番目にクレイゴーレムを倒したのは意外にもヴァナベルだったそうだ。ファラは、模擬戦で魔眼の力を使いすぎてかなり消耗したようだが、それでも三番目にクレイゴーレムを撃破したらしい。
機兵適性値は、やはり数値だけでは見えて来ないものも、かなりあるようだな。機体との相性も強くかかわってくるだろうし、ここはホム専用機を作るのも良さそうだ。
「楽しみだね、武侠宴舞・カナルフォード杯」
「そうだね。あの適性値なら、ホムとファラはまず選抜されるだろうし」
武侠宴舞・カナルフォード杯は、全学年で三人一組、14チームが選抜される。慣習として生徒会がシード枠で入るため、合計15チームによるトーナメント戦で優勝を決めるのだ。
「去年は、エステアさんとメルアさんたちのチームが優勝したんだって」
「前年度の優勝者で現生徒会長か、きっと手強い相手になるだろうね」
「どんな相手であろうとも、マスターのために負ける訳には参りません」
ファラとの戦いでホムは手応えを感じている様子だ。三人で談笑しながら歩いていると、見覚えのある人影が向こうから走ってくるのが見えた。
「おーい! リーフ!」
「あ、ライルくんとジョストくん!」
ああ、誰かと思えばグーテンブルク坊やとジョストか。入学式から結構経つが、こうして顔を合わせるのは久しぶりだな。
クラス対抗の模擬戦では、もしかすると僕のフレアレインで再起不能にした可能性があるから、こうして顔を合わせるのは少々気まずい気もするが……。
「レギオンの模擬戦、凄かったな!」
クラス対抗模擬戦のことなど、すっかり忘れているかのようにグーテンブルク坊やは、開口一番そう言って息を弾ませた。
「ホムが機兵に乗れるなんて知らなかったぞ」
「まあ、実際に機兵に乗るのは今日が初めてだからね」
僕の答えにグーテンブルク坊やが目をまんまるに見開く。こういう顔に出やすいところは、大きくなっても変わらないものらしい。
「嘘だろ……。初めてであんなに動かせるもんなのか……?」
「マスターがそのように造ってくださいましたので」
「そうなのか!?」
グーテンブルク坊やがそう言いながら、僕を見つめてくる。
「錬成過程で調整出来るんだよ。まあ、それ相応の錬成陣は、必要だけれど」
そう。僕はホムの錬成時にかなりこだわって外見などもしっかりと作り込んだのだ。かなり時間はかかってしまったが、ホムの出来には我ながら満足しているし、ホムの成長もとても嬉しい。
「昔っから変わったヤツだと思ってたけど、やっぱり凄いんだな、お前……」
おやおや。普通に振る舞っていたつもりだったが、グーテンブルク坊やはそんなふうに僕を見ていたらしい。なんだか複雑な気分だ。
「ライル様のご発言は、褒め言葉ですので」
僕が戸惑っているのが伝わったのか、ジョストが補足してくれた。褒めたつもりだったのだとわかって、少しほっとした。
「……で、なんの用だい?」
「いや、間近であの模擬戦を見たら、なんかこう感想っていうかさ、なんか伝えておかないといけない気がしたんだよ」
グーテンブルク坊やは相変わらず興奮した様子で僕とホムを見比べている。ファラがもしここに居たら、握手でも求めかねない勢いだな。それくらい、衝撃的だったということなのだろう。だとしたら、僕たちへの注目度はどれほどのものなのだろうか。
「適性値100ってことは、今度の武侠宴舞への出場は確実だろ?」
「まあ、そうなるだろうね」
「そのことなんだが――」
そこまで言って、グーテンブルク坊やがふと押し黙った。
「ちょっと待ってくれ」
話を遮り、グーテンブルク坊やはいそいそと身体の向きを変えて僕たちから離れる。
「……マスター、あれを」
視線を感じると思えば、A組のリゼルがこちらを蔑むような目で一瞥して通り過ぎていくところだった。幸い、同じクラスのグーテンブルク坊やには気づいていない様子だ。
「……悪かったな」
リゼルが去るのを待ってから、グーテンブルク坊やが、こちらに向き直った。
「構わないよ。クラス対抗戦のこともあるだろうし、僕たちと話をしているのをよく思わない相手もいるだろうからね」
「ああ……」
実際、グーテンブルク坊やがこうして話しかけてくるとは僕自身思ってもみなかったのだから、僕の攻撃を食らった生徒の反感もかなりのものだろう。
「実はそれで、俺はともかく、クラス委員長のリゼルは、かなり根に持ってるんだよ。取り巻きの中には、F組の亜人たちをこの学園から追い出すなんて、言ってるヤツらもいる」
グーテンブルク坊やが、周囲を伺いながらそっと教えてくれる。
「武侠宴舞を雪辱戦の舞台だと考えてるかもしれないし、そもそも出場出来ないようになにかされるかもしれない。とにかく、気をつけてくれよ」
「ご忠告ありがとう。でも、僕には目的があるからここを出て行ったりはしないよ。もちろん、追い出されたりもしない」
そもそも前世の僕はちょっとやそっとの嫌がらせには慣れているし、仲間はずれにされたところでなんとも思わない性格なのだ。今は、大切なアルフェと家族のホムがいるからまた違うものの、そもそも他人からどう接されようと結果を出せば良いと思っている節がある。まあ、その結果でさえ、以前の中間成績発表のように教頭に捏造されるようでは困ってしまうのだけれど。
「マスターはわたくしがお守りしますので」
「そうだな。ホムが強いことは証明されてるわけだし、下手に手出しはしてこないか」
ホムの落ち着いた発言を聞いて、グーテンブルク坊やは少し安心したように胸を撫でた。
「よし、行くぞ、ジョスト」
「はい、ライル様」
伝えたいことを言い終えたグーテンブルクが、ジョストを伴って去って行く。A組や他の貴族の目があるだろうし、あまり目立ちたくはないんだろうな。
ふと周囲を見れば、生徒会長のエステアとルームメイトのメルアが、この前と同じようにカフェのテーブルでシフォンケーキと紅茶を優雅に楽しんでいた。
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