171 / 396
第三章 暴風のコロッセオ
第171話 メルアの弟子入り
しおりを挟む「ねえねえ、リーフ大先生! うち、次は『煌く星空の指輪』を作りたいんだけど」
僕が錬金術を教えることを承諾したとあり、メルアが早速リクエストを口にする。
「え? なんで……」
メルアの言う『煌く星空の指輪』というのは、『優しき一角獣の腕輪』と同じく、前世の僕の作品だ。メルアがグラスの作品の名を挙げたのは、果たして偶然だろうか。もしかすると女神の罠ではないかと勘ぐってしまうほど、偶然としては出来すぎている気がした。
「なんでって、これ、すっごくキレイだから」
そう言ってメルアが取り出したのは、『煌く星空の指輪』の本物だった。
『煌く星空の指輪』は、漆黒の闇を凝り固めたような鮮やかな黒に星の瞬きのように細かな魔石をあしらった黄金製の指輪だ。指輪の表面に彫り込んだルーン文字は、そのまま装飾として見ても美しいように工夫した作品でもある。
『煌く星空の指輪』を身に着ければ、闇を見透す力が備わり、そこにあるものが必要充分程度に判別出来るようになる。通常、暗い場所から急に明るい場所へ出たり、眩い光を浴びれば、目が眩むような感覚に陥るのだが、それを避けることも出来る代物だ。
「でもそれ、大した機能はないよね?」
「いやいや、すっごく便利だよ! これがあれば、夜中にエステアを見ても眩しっ! ってならなくていいし」
ああ、両目が浄眼だと、無意識にエーテルの流れを見ることになるのか。エステアほどの優秀な生徒ならば、きっとエーテルの量もかなりのものなのだろうな。
「それに、リーフ大先生もかなり眩しい金色のエーテルでしょ。マチルダ先生に返す前に、同じ感じのを作っておいたら役立ちそうじゃん」
材料の解析が不足していたとはいえ、『優しき一角獣の腕輪』をほとんど完成に近づけていたメルアなら、問題なく出来そうなものだけれど、どうして僕に相談するのだろう。
「……言いたいことはわかるけれど、それよりアルフェに魔法を教えるのが先だよ。僕はもう『優しき一角獣の腕輪』を作ったわけだし」
「それはそれでやるからさ。うちがアルフェちゃんに教えてる間に、ぱぱぱーって作ってくれない?」
メルアが顔の前で手を合わせながら、僕に頼み込んでくる。
「リーフ大先生なら、朝飯前っしょ!」
まあ、これも前世で量産していたので一時間もかからずに作れるとは思うけれど。それにしても、『リーフ大先生』と呼ばれるのはどうにも落ち着かないな。
「あのさ、メルア。僕のことはリーフでいいよ」
「ムリムリ! 弟子がなんで師匠を呼び捨てにするのさ!」
僕の提案にメルアがぶんぶんと首を横に振る。
「弟子にするつもりはないんだけど……」
「いやいや! 特級錬金術師のうちを弟子にするなんて、お買い得だよ! だってさ、まずこのアトリエが使い放題だし、そもそも、錬金術師っちゅーのは、弟子を取って後世に技術を伝えるのが使命じゃん! で、うちはリーフ大先生の一番弟子ってやつになりたいワケ!」
メルアがここぞとばかりに畳みかけてくる。まあ、確かにメルアの言う通り、錬金術師は師弟関係と後世への技術継承が重んじられる世界ではある。前世の僕は誰も信用できなかったから、生涯孤独を貫いたし、自分の研究は神人の目を欺くためにアトリエにあったものは全て燃やしてしまった。
今世で錬金術を続けると決めたからには、そろそろ錬金術の世界において他者と関わる覚悟も持つ必要があるのかもしれない。
「……確かにそうかもね。先輩を弟子に取るっていうのは気が引けるけれど、その方がメルアにとって都合がいいならそうするよ」
このアトリエをメルアを弟子にする特典のように言われたが、僕が私的に利用するつもりはない。これから武侠宴舞・カナルフォード杯に向けて、ホムとアルフェのために機兵をカスタマイズするのも、僕のアーケシウスを改造するのも、工学科の施設が使えるからだ。
「やったぁ! じゃあさ、うちが一番弟子ね! でもって、弟子の証に『煌く星空の指輪』もお願い、リーフ大先生!」
メルアがちゃっかりと『煌く星空の指輪』を僕に念押しして頼んでくる。まあ、これを作っている一時間をアルフェのために確保できるなら、悪くない条件だろう。
「……そのリーフ大先生っていう呼び方を改めてくれるならいいよ」
「じゃあ、師匠って呼ぶね!」
ああ、どうあってもリーフと名前では呼んでくれないらしい。これ以上呼び名で押し問答するのも面倒なので、師匠を許容することにした。まあ、メルアが僕を師と仰ぐなら、僕がメルアに対して普通に接しても文句もないだろうし、コミュニケーションで気負う必要がなくなるのは良いのかもしれない。
「……ちゅーことで、アルフェちゃん! 早速だけど、魔法の特訓ってさ、なんのためにやるの?」
僕の承諾を得たことで、さらに上機嫌になったメルアがアルフェと向かい合う。
「ワタシ、武侠宴舞・カナルフォード杯で勝ちたい。そのために、強くなりたいの」
「……あ、もしかして、魔法の特訓みたいなことをしたいってコト? ちゅーことは、師匠、魔装兵を作っちゃうの!?」
アルフェの話でピンときたのか、メルアがまた僕の方に向き直ってしまった。
「魔装兵というか、魔法が使えるようにカスタマイズするつもりだよ」
「ひゃぁー! さっすが師匠! さらっと凄いこと言っちゃってるよ~! F組なんて使用機体がもう化石みたいなやつなのに、それを改造しちゃうなんて、まさに魔改造! シビレちゃう!」
ああ、A組とは機体が違うと思っていたが、やはり機体の段階で差別されていたんだな。亜人差別は昨年からというから、二年生のメルアもそれを目の当たりにしてきたのだろう。
「詳しいんだね、メルア」
「ちゅーても、うち、去年の優勝チームで、今年もシード枠だからね♪」
「えっ!?」
メルアのことは生徒会というより、エステアのルームメイトとしか認識していなかったが、どうやらライバルだったらしい。驚く僕とアルフェに、メルアは涼しい顔で続けた。
「敵に塩を送る趣味はないけど、師匠の頼みっていうなら話は別だよ。アルフェちゃんがどれだけ強くなるか、うちも楽しみ~♪」
0
あなたにおすすめの小説
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる