アルケミスト・スタートオーバー ~誰にも愛されず孤独に死んだ天才錬金術師は幼女に転生して人生をやりなおす~

エルトリア

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第三章 暴風のコロッセオ

第171話 メルアの弟子入り

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「ねえねえ、リーフ大先生! うち、次は『煌く星空の指輪』を作りたいんだけど」

 僕が錬金術を教えることを承諾したとあり、メルアが早速リクエストを口にする。

「え? なんで……」

 メルアの言う『煌く星空の指輪』というのは、『優しき一角獣の腕輪』と同じく、前世の僕グラスの作品だ。メルアがグラスの作品の名を挙げたのは、果たして偶然だろうか。もしかすると女神アウローラの罠ではないかと勘ぐってしまうほど、偶然としては出来すぎている気がした。

「なんでって、これ、すっごくキレイだから」

 そう言ってメルアが取り出したのは、『煌く星空の指輪』の本物だった。

 『煌く星空の指輪』は、漆黒の闇を凝り固めたような鮮やかな黒に星の瞬きのように細かな魔石をあしらった黄金製の指輪だ。指輪の表面に彫り込んだルーン文字は、そのまま装飾として見ても美しいように工夫した作品でもある。

 『煌く星空の指輪』を身に着ければ、闇を見透す力が備わり、そこにあるものが必要充分程度に判別出来るようになる。通常、暗い場所から急に明るい場所へ出たり、眩い光を浴びれば、目が眩むような感覚に陥るのだが、それを避けることも出来る代物だ。

「でもそれ、大した機能はないよね?」
「いやいや、すっごく便利だよ! これがあれば、夜中にエステアを見ても眩しっ! ってならなくていいし」

 ああ、両目が浄眼だと、無意識にエーテルの流れを見ることになるのか。エステアほどの優秀な生徒ならば、きっとエーテルの量もかなりのものなのだろうな。

「それに、リーフ大先生もかなり眩しい金色のエーテルでしょ。マチルダ先生に返す前に、同じ感じのを作っておいたら役立ちそうじゃん」

 材料の解析が不足していたとはいえ、『優しき一角獣の腕輪』をほとんど完成に近づけていたメルアなら、問題なく出来そうなものだけれど、どうして僕に相談するのだろう。

「……言いたいことはわかるけれど、それよりアルフェに魔法を教えるのが先だよ。僕はもう『優しき一角獣の腕輪』を作ったわけだし」
「それはそれでやるからさ。うちがアルフェちゃんに教えてる間に、ぱぱぱーって作ってくれない?」

 メルアが顔の前で手を合わせながら、僕に頼み込んでくる。

「リーフ大先生なら、朝飯前っしょ!」

 まあ、これも前世で量産していたので一時間もかからずに作れるとは思うけれど。それにしても、『リーフ大先生』と呼ばれるのはどうにも落ち着かないな。

「あのさ、メルア。僕のことはリーフでいいよ」
「ムリムリ! 弟子がなんで師匠を呼び捨てにするのさ!」

 僕の提案にメルアがぶんぶんと首を横に振る。

「弟子にするつもりはないんだけど……」
「いやいや! 特級錬金術師のうちを弟子にするなんて、お買い得だよ! だってさ、まずこのアトリエが使い放題だし、そもそも、錬金術師っちゅーのは、弟子を取って後世に技術を伝えるのが使命じゃん! で、うちはリーフ大先生の一番弟子ってやつになりたいワケ!」

 メルアがここぞとばかりに畳みかけてくる。まあ、確かにメルアの言う通り、錬金術師は師弟関係と後世への技術継承が重んじられる世界ではある。前世の僕グラスは誰も信用できなかったから、生涯孤独を貫いたし、自分の研究は神人カムトの目を欺くためにアトリエにあったものは全て燃やしてしまった。

 今世で錬金術を続けると決めたからには、そろそろ錬金術の世界において他者と関わる覚悟も持つ必要があるのかもしれない。

「……確かにそうかもね。先輩を弟子に取るっていうのは気が引けるけれど、その方がメルアにとって都合がいいならそうするよ」

 このアトリエをメルアを弟子にする特典のように言われたが、僕が私的に利用するつもりはない。これから武侠宴舞ゼルステラ・カナルフォード杯に向けて、ホムとアルフェのために機兵をカスタマイズするのも、僕のアーケシウスを改造するのも、工学科の施設が使えるからだ。

「やったぁ! じゃあさ、うちが一番弟子ね! でもって、弟子の証に『煌く星空の指輪』もお願い、リーフ大先生!」

 メルアがちゃっかりと『煌く星空の指輪』を僕に念押しして頼んでくる。まあ、これを作っている一時間をアルフェのために確保できるなら、悪くない条件だろう。

「……そのリーフ大先生っていう呼び方を改めてくれるならいいよ」
「じゃあ、師匠って呼ぶね!」

 ああ、どうあってもリーフと名前では呼んでくれないらしい。これ以上呼び名で押し問答するのも面倒なので、師匠を許容することにした。まあ、メルアが僕を師と仰ぐなら、僕がメルアに対して普通に接しても文句もないだろうし、コミュニケーションで気負う必要がなくなるのは良いのかもしれない。

「……ちゅーことで、アルフェちゃん! 早速だけど、魔法の特訓ってさ、なんのためにやるの?」

 僕の承諾を得たことで、さらに上機嫌になったメルアがアルフェと向かい合う。

「ワタシ、武侠宴舞ゼルステラ・カナルフォード杯で勝ちたい。そのために、強くなりたいの」
「……あ、もしかして、魔法の特訓みたいなことをしたいってコト? ちゅーことは、師匠、魔装兵を作っちゃうの!?」

 アルフェの話でピンときたのか、メルアがまた僕の方に向き直ってしまった。

「魔装兵というか、魔法が使えるようにカスタマイズするつもりだよ」
「ひゃぁー! さっすが師匠! さらっと凄いこと言っちゃってるよ~! F組なんて使用機体がもう化石みたいなやつなのに、それを改造しちゃうなんて、まさに魔改造! シビレちゃう!」

 ああ、A組とは機体が違うと思っていたが、やはり機体の段階で差別されていたんだな。亜人差別は昨年からというから、二年生のメルアもそれを目の当たりにしてきたのだろう。

「詳しいんだね、メルア」
「ちゅーても、うち、去年の優勝チームで、今年もシード枠だからね♪」
「えっ!?」

 メルアのことは生徒会というより、エステアのルームメイトとしか認識していなかったが、どうやらライバルだったらしい。驚く僕とアルフェに、メルアは涼しい顔で続けた。

「敵に塩を送る趣味はないけど、師匠の頼みっていうなら話は別だよ。アルフェちゃんがどれだけ強くなるか、うちも楽しみ~♪」
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