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第三章 暴風のコロッセオ
第231話 ヴァナベルの応援
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「本ぉおおおおおん日つぅううううううううはぁああああああっ! 武侠宴舞・カナルフォード杯のぉおおおおおおおおおおっ、決!! 勝!! 戦ぇええええええええええんんでぇえええええええありまぁああああああああああああああああすッッッッッ!!!! 会場にお越しの皆々様はぁあああああああ――――」
武侠宴舞・カナルフォード杯決勝――
晴れ渡った空の下、大闘技場の周辺一帯はかつてないほどの混雑に見舞われているようだ。
「今日はジョニーさん、朝からいるんだね」
「この混雑の中でもアナウンスとして意味を成せる人がいるとしたら、彼だけだろうね」
早朝にバックヤードに入るように指示された僕たちは、食堂の人たちから差し入れられた温かな朝食を摂りながら外の様子を映像盤で眺めている。
昨日の僕たち――つまり無名の1年F組の準決勝の戦いが大いに話題になり、深夜には映像魔導器で異例の再放送が行われたらしい。その影響は主催者たちの予想を大きく上回り、大闘技場のみならず、周辺一帯を巻き込む大混雑へと発展したのだ。
放送局の取り計らいで急遽用意された大型の映像盤が、クレーンや従機を用いて急遽設置されていく。既に人で溢れかえった道を避けてか、建物の屋根の上に複数の映像盤が並ぶという不思議な光景が出来つつある。
試験放送で昨日の準決勝の様子が映像盤に流されると、人々のエステアやメルアを称賛する声やアルタードとレムレスの活躍にどよめく声がバックヤードにまで聞こえて来た。
「みんなワタシたちの決勝戦を楽しみにしてくれているんだね」
「わたくしも楽しみです。この日を待ち望んできましたから」
アルフェに相槌を打ちながら、朝食を食べ終えたホムが立ち上がる。ホムはそのままアルタードの足許まで歩を進め、ゆっくりとその機体を仰いだ。
「本当にありがとうございます、マスター」
「もう何度も聞いてるよ」
「それでも伝えきれないと思っているのです」
ホムは穏やかな声でそう応えると、僕を振り返って頬を緩めた。表情からは極度の緊張は窺えない。昨晩一緒に眠ったのが良かったのだとすれば、僕としても嬉しい。
「アルタードもアーケシウスは万全の状態だからね。アルフェのレムレスには、秘密兵器のエーテル遮断ローブを着せておいたよ」
「ありがとう、リーフ」
メルアとの戦いを想定してアルフェから頼まれたエーテル遮断ローブは、決勝戦まで取っておいた切り札でもある。メルアの浄眼に見破られずに多層術式を繰り出せるエーテル遮断ローブは、アルフェにとって強い武器になるだろう。
「……絶対勝つよ。ワタシ」
エーテル遮断ローブに身を包んだレムレスを仰ぎ、アルフェが熱い紅茶でゆっくりと喉を潤す。いつになく甘い香りが湯気に混じっているところを見るに、かなり多くの魔力消費を想定しているのだろうな。魔力切れにならないように効率良くエネルギーを摂取しようと心がけているあたりも、さすがはアルフェだ。
「にゃははっ! レムレスもいよいよ最終形態だな!」
「応援に来たよぉ~!?」
バックヤードに人の気配が加わったかと思えば、ファラとヌメリンだった。メカニックのアイザックとロメオですらバックヤード入場に苦戦しているのに、彼女たちの方が早く来たのには少し驚いた。
「ファラちゃん! ヌメリンちゃん!」
アルフェが立ち上がって駆け寄り、二人の手を取ってくるくると踊る。ファラもヌメリンもアルフェに合わせてステップを踏んだ。どうやら、リリルルが始めた儀式めいた踊りはF組全体にすっかり浸透しているようだ。こうして見てみると、アルフェの緊張を和らげるのに役立っているのは有り難い。
「それにしても、よく来られたね」
「にゃはっ! あたしにはこの魔眼があるからな」
「人波をすいすいーって掻き分けてきたんだよ~」
ああ、なるほど。ファラの魔眼はそういう使い方も出来るんだな。
「ヴァナベルは?」
「えっとねぇ、ベルはぁ~~~」
僕の問いかけにヌメリンがきょろきょろとバックヤードを見回す。
「おっ! 間に合ったな!」
ヴァナベルは昨日の敗戦からすっかり立ち直った様子で、歯を見せた笑顔で僕たちに近づいて来た。
「いやぁ~、超超超ッッッッッ! 大混雑でさぁ~! 朝イチで出たっていうのに、賭け札買うのに時間食っちまったよぉおおおおお~」
待ち時間の間にさんざん司会のジョニーの語りを聞いたのだろう。ヴァナベルの口調に若干の影響が見られる。
「にゃはっ! ちょっとジョニー入ってるぞ」
ファラにつられて小さく噴き出してしまった。
「仕方ねぇだろ! アイツ滅茶苦茶クセが強いからなぁああああ~~。っていうか、約束通り、オレの全財産をリインフォースに賭けてきたからな!」
そう言うとヴァナベルは、手にしていたトランクを満面の笑みで広げた。
蓋が開いた弾みで、紙製の賭け札の束が幾つか零れる。トランクにぎゅうぎゅうに詰まっているのは、全てこの武侠宴舞・カナルフォード杯決勝戦の賭け札だ。
「にゃはははははっ! 本気で全財産賭けてるな、これ!」
「ベルの今年のお小遣い全部だよ~~」
「ヴァナベル、正気かい……?」
約束とはいえ、いくらなんでも滅茶苦茶過ぎる。昨日の戦いで頭を強く打っていたとかではないといいのだけれど。
「正気に決まってんだろ! っていうか、オレ様がここまで応援してるってこと、お前らに手っ取り早くわからせるにはこれしかねぇしな!」
ヴァナベルはにかっと歯を見せて笑い、ヌメリンに助けられながら大量の賭け札をまたトランクに押し込んだ。
「……その応援と心意気を無駄にしないよう、全力を尽くすよ」
「勝利をお約束します」
「がんばるね!」
僕の言葉にホムとアルフェも続く。ヴァナベルは大きく頷くと手を振り、僕たちを送り出した。
「さあ、行ってこい! お前らの待ちに待った晴れ舞台だ!」
武侠宴舞・カナルフォード杯決勝――
晴れ渡った空の下、大闘技場の周辺一帯はかつてないほどの混雑に見舞われているようだ。
「今日はジョニーさん、朝からいるんだね」
「この混雑の中でもアナウンスとして意味を成せる人がいるとしたら、彼だけだろうね」
早朝にバックヤードに入るように指示された僕たちは、食堂の人たちから差し入れられた温かな朝食を摂りながら外の様子を映像盤で眺めている。
昨日の僕たち――つまり無名の1年F組の準決勝の戦いが大いに話題になり、深夜には映像魔導器で異例の再放送が行われたらしい。その影響は主催者たちの予想を大きく上回り、大闘技場のみならず、周辺一帯を巻き込む大混雑へと発展したのだ。
放送局の取り計らいで急遽用意された大型の映像盤が、クレーンや従機を用いて急遽設置されていく。既に人で溢れかえった道を避けてか、建物の屋根の上に複数の映像盤が並ぶという不思議な光景が出来つつある。
試験放送で昨日の準決勝の様子が映像盤に流されると、人々のエステアやメルアを称賛する声やアルタードとレムレスの活躍にどよめく声がバックヤードにまで聞こえて来た。
「みんなワタシたちの決勝戦を楽しみにしてくれているんだね」
「わたくしも楽しみです。この日を待ち望んできましたから」
アルフェに相槌を打ちながら、朝食を食べ終えたホムが立ち上がる。ホムはそのままアルタードの足許まで歩を進め、ゆっくりとその機体を仰いだ。
「本当にありがとうございます、マスター」
「もう何度も聞いてるよ」
「それでも伝えきれないと思っているのです」
ホムは穏やかな声でそう応えると、僕を振り返って頬を緩めた。表情からは極度の緊張は窺えない。昨晩一緒に眠ったのが良かったのだとすれば、僕としても嬉しい。
「アルタードもアーケシウスは万全の状態だからね。アルフェのレムレスには、秘密兵器のエーテル遮断ローブを着せておいたよ」
「ありがとう、リーフ」
メルアとの戦いを想定してアルフェから頼まれたエーテル遮断ローブは、決勝戦まで取っておいた切り札でもある。メルアの浄眼に見破られずに多層術式を繰り出せるエーテル遮断ローブは、アルフェにとって強い武器になるだろう。
「……絶対勝つよ。ワタシ」
エーテル遮断ローブに身を包んだレムレスを仰ぎ、アルフェが熱い紅茶でゆっくりと喉を潤す。いつになく甘い香りが湯気に混じっているところを見るに、かなり多くの魔力消費を想定しているのだろうな。魔力切れにならないように効率良くエネルギーを摂取しようと心がけているあたりも、さすがはアルフェだ。
「にゃははっ! レムレスもいよいよ最終形態だな!」
「応援に来たよぉ~!?」
バックヤードに人の気配が加わったかと思えば、ファラとヌメリンだった。メカニックのアイザックとロメオですらバックヤード入場に苦戦しているのに、彼女たちの方が早く来たのには少し驚いた。
「ファラちゃん! ヌメリンちゃん!」
アルフェが立ち上がって駆け寄り、二人の手を取ってくるくると踊る。ファラもヌメリンもアルフェに合わせてステップを踏んだ。どうやら、リリルルが始めた儀式めいた踊りはF組全体にすっかり浸透しているようだ。こうして見てみると、アルフェの緊張を和らげるのに役立っているのは有り難い。
「それにしても、よく来られたね」
「にゃはっ! あたしにはこの魔眼があるからな」
「人波をすいすいーって掻き分けてきたんだよ~」
ああ、なるほど。ファラの魔眼はそういう使い方も出来るんだな。
「ヴァナベルは?」
「えっとねぇ、ベルはぁ~~~」
僕の問いかけにヌメリンがきょろきょろとバックヤードを見回す。
「おっ! 間に合ったな!」
ヴァナベルは昨日の敗戦からすっかり立ち直った様子で、歯を見せた笑顔で僕たちに近づいて来た。
「いやぁ~、超超超ッッッッッ! 大混雑でさぁ~! 朝イチで出たっていうのに、賭け札買うのに時間食っちまったよぉおおおおお~」
待ち時間の間にさんざん司会のジョニーの語りを聞いたのだろう。ヴァナベルの口調に若干の影響が見られる。
「にゃはっ! ちょっとジョニー入ってるぞ」
ファラにつられて小さく噴き出してしまった。
「仕方ねぇだろ! アイツ滅茶苦茶クセが強いからなぁああああ~~。っていうか、約束通り、オレの全財産をリインフォースに賭けてきたからな!」
そう言うとヴァナベルは、手にしていたトランクを満面の笑みで広げた。
蓋が開いた弾みで、紙製の賭け札の束が幾つか零れる。トランクにぎゅうぎゅうに詰まっているのは、全てこの武侠宴舞・カナルフォード杯決勝戦の賭け札だ。
「にゃはははははっ! 本気で全財産賭けてるな、これ!」
「ベルの今年のお小遣い全部だよ~~」
「ヴァナベル、正気かい……?」
約束とはいえ、いくらなんでも滅茶苦茶過ぎる。昨日の戦いで頭を強く打っていたとかではないといいのだけれど。
「正気に決まってんだろ! っていうか、オレ様がここまで応援してるってこと、お前らに手っ取り早くわからせるにはこれしかねぇしな!」
ヴァナベルはにかっと歯を見せて笑い、ヌメリンに助けられながら大量の賭け札をまたトランクに押し込んだ。
「……その応援と心意気を無駄にしないよう、全力を尽くすよ」
「勝利をお約束します」
「がんばるね!」
僕の言葉にホムとアルフェも続く。ヴァナベルは大きく頷くと手を振り、僕たちを送り出した。
「さあ、行ってこい! お前らの待ちに待った晴れ舞台だ!」
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