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第三章 暴風のコロッセオ
第234話 対エステア用機兵
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----ホム視点----
マスターの氷魔法が大闘技場の中心を十字に区切った。
わたくしとエステア様は必然的に実況席の前へと押しやられたが、セレーム・サリフはそれすら想定していたかのように刀を振るい続ける。
「さあ、これで二人きりですね」
チームメイトから隔てられたことを寧ろ喜ぶようにエステア様が声を発する。イグニスの邪魔が入る余地がないというのは、彼女にとって朗報なのだろう。
「お互い、周囲を気にしなくて済みそうです」
「ええ」
風の刃を纏った刃をエステア様のセレーム・サリフが軽やかに操る。
「セレーム・サリフ! 風の魔剣晴嵐を華麗に操り、アルタードに一騎打ちを挑んでいるぅうううううううっ!!!!」
「参ります」
エステア様の声が聞こえた次の瞬間には、もう目の前にその一太刀が迫っていた。
「……くっ!」
アルタードの手甲の装甲板で受け止め、機体を屈めて衝撃を緩和しながら右脚を突き出す。
「良い機体ね。でも、私のセレーム・サリフについてこられるかしら?」
――あなたの本気はこんなものではないでしょう?
エステア様の口調は、アルタードの本質を見抜いている。だが、今はまだ奥の手を使うわけにはいかない。もっとエステア様の手の内を見なければならない。注意深く目を凝らし、針の穴のようなその一瞬の隙を見つけなければならない。
「エステア! エステア!」
「エステア! エステア!」
会場の魔導映像盤の映像が追いついたのか、観客たちの大歓声が響き渡る。
「エステアの目にも留まらぬ斬撃が続いているぅううううううっ!!! しかぁああああしぃいいいいいい!!! アルタードも負けじと打撃で応戦を続けておりまぁああああああす……! 両者一歩も譲らない!!!! 剣術と打撃の応酬はぁあああああっ! 果たしてぇえええええ!!!! どちらにッ!!! 軍配が上がるのでしょうかぁああああああっ!!!!!????」
「さすがだわ」
エステア様には私の動きを賛美する余裕すらある。一撃一撃は素早く重くアルタードの装甲板に響くのに、その動きは舞うように優美だ。美しくありながら全く隙がない。右からの斬撃が降ったかと思えば、アルタードが受け止めたその衝撃さえ利用して返す刀で下から上へと薙いでくる。
わたくしはそれを注意深く受け止めながら、多段蹴りを繰り出し、セレーム・サリフの胴と脚部を狙い続ける。
「随分腕を上げたようね」
「この二ヵ月、あなたに勝つことだけを考えて鍛錬してきました。あの時の雪辱を晴らさせていただきます!」
渾身の力を込めてアルタードの拳を突き出す。エステアはそれを刀の柄で受け流そうとしたものの、勢いに押されて一歩後退した。
「旋煌刃、壱ノ太刀――颯!」
――来る……!
両腕を機体の前で構え、しっかりと脇を締める。この技で二連撃がくることはわかっている。それを防げるようにアルタードの装甲はしっかりと対策されている。
「出たぁああああああああっ! エステアの旋煌刃ッ!!! 激しい二連撃がアルタードの腕の装甲を破壊――」
「していない!」
司会が言葉を失い、エステアが動揺の声を上げた。アルタードの両腕は、盾に匹敵する防御に特化した装甲で覆われている。この装甲はマスターが錬成した強靱な錬金金属で出来ている。アルタードで最も頑丈な部位なのだ。
「なぁああああんとぉおおおおおおおおっ!!! エステアの二連撃を耐え忍んだぁあああああっ!!! 素晴らしい防御力ッ!!! まさに規格外の機兵だぁああああああっ!!!!!!!」
そう、この装甲であればエステア様の攻撃を受け流すことが出来る。それがたとえ、彼女の得意とする旋煌刃であっても、受け止め、次の一手を放つことが出来る。
「肆ノ太刀――清龍舞!」
「させません!」
エステア様が連撃を繰り出すことは想定していた。アルタードの魔晶球による視覚補正が繰り出される風の刃を機兵に備えた第三の目で捉えさせてくれる。
――見えます、あなたの動きが!
以前は動きを追うことすら困難だったエステア様の剣技の軌跡を、わたくしはしっかりと捉え、装甲でその連撃を受け流す。それと同時に腕部装甲を展開し、手甲に内蔵された噴射推進装置を噴射させ、鋭い打撃を放った。
「!!」
エステア様のセレーム・サリフが素早く反応し、刀を構える。けれど、機兵頭部への打撃は囮だ。わたくしが狙っていたのはこの一瞬の隙。
「はぁあああああっ!!!」
軸足に力を込め、回し蹴りを繰り出す。
――捉えた!!
アルタードの右脚がセレーム・サリフの胴部に命中し、薙ぐ。セレーム・サリフは後方に吹き飛ぶが、わたくしの感じた打撃の感触は驚くほど軽かった。
「素晴らしいわ」
セレーム・サリフの機体を風が包み込んでいる。旋煌刃の応用で自ら機体を後方に飛ばし、衝撃を逃がしたのだ。だが、その間合いは、わたくしにとって好機でしかない。
「雷鳴瞬動!」
プラズマバーニアで機体を加速させ、鋭く蹴りを放つ。けれど、それはエステア様も全く同じ考えだったようだ。
「伍ノ太刀――空破烈風!」
噴射推進装置で速度を上げながらエステア様が斬撃を繰り出す。わたくしの蹴りと斬撃は空中で激突し、激しい衝撃とともに反対方向に弾かれた。
「まだです!」
体勢を崩したセレーム・サリフに追撃すべく、プラズマバーニアで一気に距離を詰める。
アルタードは、エステア様に勝つためだけにマスターが用意してくれた機体だ。
――戦える。
わたくしは確信していた。このアルタードなら彼女と互角に戦えることを。
マスターの氷魔法が大闘技場の中心を十字に区切った。
わたくしとエステア様は必然的に実況席の前へと押しやられたが、セレーム・サリフはそれすら想定していたかのように刀を振るい続ける。
「さあ、これで二人きりですね」
チームメイトから隔てられたことを寧ろ喜ぶようにエステア様が声を発する。イグニスの邪魔が入る余地がないというのは、彼女にとって朗報なのだろう。
「お互い、周囲を気にしなくて済みそうです」
「ええ」
風の刃を纏った刃をエステア様のセレーム・サリフが軽やかに操る。
「セレーム・サリフ! 風の魔剣晴嵐を華麗に操り、アルタードに一騎打ちを挑んでいるぅうううううううっ!!!!」
「参ります」
エステア様の声が聞こえた次の瞬間には、もう目の前にその一太刀が迫っていた。
「……くっ!」
アルタードの手甲の装甲板で受け止め、機体を屈めて衝撃を緩和しながら右脚を突き出す。
「良い機体ね。でも、私のセレーム・サリフについてこられるかしら?」
――あなたの本気はこんなものではないでしょう?
エステア様の口調は、アルタードの本質を見抜いている。だが、今はまだ奥の手を使うわけにはいかない。もっとエステア様の手の内を見なければならない。注意深く目を凝らし、針の穴のようなその一瞬の隙を見つけなければならない。
「エステア! エステア!」
「エステア! エステア!」
会場の魔導映像盤の映像が追いついたのか、観客たちの大歓声が響き渡る。
「エステアの目にも留まらぬ斬撃が続いているぅううううううっ!!! しかぁああああしぃいいいいいい!!! アルタードも負けじと打撃で応戦を続けておりまぁああああああす……! 両者一歩も譲らない!!!! 剣術と打撃の応酬はぁあああああっ! 果たしてぇえええええ!!!! どちらにッ!!! 軍配が上がるのでしょうかぁああああああっ!!!!!????」
「さすがだわ」
エステア様には私の動きを賛美する余裕すらある。一撃一撃は素早く重くアルタードの装甲板に響くのに、その動きは舞うように優美だ。美しくありながら全く隙がない。右からの斬撃が降ったかと思えば、アルタードが受け止めたその衝撃さえ利用して返す刀で下から上へと薙いでくる。
わたくしはそれを注意深く受け止めながら、多段蹴りを繰り出し、セレーム・サリフの胴と脚部を狙い続ける。
「随分腕を上げたようね」
「この二ヵ月、あなたに勝つことだけを考えて鍛錬してきました。あの時の雪辱を晴らさせていただきます!」
渾身の力を込めてアルタードの拳を突き出す。エステアはそれを刀の柄で受け流そうとしたものの、勢いに押されて一歩後退した。
「旋煌刃、壱ノ太刀――颯!」
――来る……!
両腕を機体の前で構え、しっかりと脇を締める。この技で二連撃がくることはわかっている。それを防げるようにアルタードの装甲はしっかりと対策されている。
「出たぁああああああああっ! エステアの旋煌刃ッ!!! 激しい二連撃がアルタードの腕の装甲を破壊――」
「していない!」
司会が言葉を失い、エステアが動揺の声を上げた。アルタードの両腕は、盾に匹敵する防御に特化した装甲で覆われている。この装甲はマスターが錬成した強靱な錬金金属で出来ている。アルタードで最も頑丈な部位なのだ。
「なぁああああんとぉおおおおおおおおっ!!! エステアの二連撃を耐え忍んだぁあああああっ!!! 素晴らしい防御力ッ!!! まさに規格外の機兵だぁああああああっ!!!!!!!」
そう、この装甲であればエステア様の攻撃を受け流すことが出来る。それがたとえ、彼女の得意とする旋煌刃であっても、受け止め、次の一手を放つことが出来る。
「肆ノ太刀――清龍舞!」
「させません!」
エステア様が連撃を繰り出すことは想定していた。アルタードの魔晶球による視覚補正が繰り出される風の刃を機兵に備えた第三の目で捉えさせてくれる。
――見えます、あなたの動きが!
以前は動きを追うことすら困難だったエステア様の剣技の軌跡を、わたくしはしっかりと捉え、装甲でその連撃を受け流す。それと同時に腕部装甲を展開し、手甲に内蔵された噴射推進装置を噴射させ、鋭い打撃を放った。
「!!」
エステア様のセレーム・サリフが素早く反応し、刀を構える。けれど、機兵頭部への打撃は囮だ。わたくしが狙っていたのはこの一瞬の隙。
「はぁあああああっ!!!」
軸足に力を込め、回し蹴りを繰り出す。
――捉えた!!
アルタードの右脚がセレーム・サリフの胴部に命中し、薙ぐ。セレーム・サリフは後方に吹き飛ぶが、わたくしの感じた打撃の感触は驚くほど軽かった。
「素晴らしいわ」
セレーム・サリフの機体を風が包み込んでいる。旋煌刃の応用で自ら機体を後方に飛ばし、衝撃を逃がしたのだ。だが、その間合いは、わたくしにとって好機でしかない。
「雷鳴瞬動!」
プラズマバーニアで機体を加速させ、鋭く蹴りを放つ。けれど、それはエステア様も全く同じ考えだったようだ。
「伍ノ太刀――空破烈風!」
噴射推進装置で速度を上げながらエステア様が斬撃を繰り出す。わたくしの蹴りと斬撃は空中で激突し、激しい衝撃とともに反対方向に弾かれた。
「まだです!」
体勢を崩したセレーム・サリフに追撃すべく、プラズマバーニアで一気に距離を詰める。
アルタードは、エステア様に勝つためだけにマスターが用意してくれた機体だ。
――戦える。
わたくしは確信していた。このアルタードなら彼女と互角に戦えることを。
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