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第三章 暴風のコロッセオ
第242話 再充電
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-----ホム視点-----
墜落の衝撃に備えたが、アルタードはセレーム・サリフ諸共柔らかな風に受け止められた。
背から叩き付けられているはずのセレーム・サリフは、わたくしの攻撃を刀で受け続けている。わたくしの渾身の一撃に対して、押されながらも決して刀を退かないのは驚異的な精神力だ。
――どうして。
セレーム・サリフは噴射推進装置の出力を上げていない。だが、エステア様には風を操る力がある。
「まさか……」
エステア様がセレーム・サリフの背部に風を起こし、衝撃を逃したのだと気づくのとほぼ同時に、セレーム・サリフが渾身の力を込めてアルタードの蹴りを押し返し始めた。
機体を包み込む暴風は徐々に加速し、激しく吹き荒れていく。
「――――!!」
がむしゃらに叫び、帯電布の出力を限界以上に引き上げる。これで最後だ。わたくしの切り札は、もうこれしかない。
だが、エステア様も決して引き下がろうとはしない。風の刃でアルタードの稲妻を纏った一撃を受け止め続け、二機は拮抗状態に陥っている。
プラズマ・バーニアの加速を借りて辛うじて拮抗させているものの、もうこれ以上機体を加速させることはできない。それどころか、失速に向かう終わりの音が聞こえ始めている。
黒血油を大量に失った機体は、もうプラズマ・バーニアを維持できない。アルフェ様の規格外の雷魔法で帯電布に大量に充電していた電力も今や尽きかけている。
アルフェ様とマスターがここまで送り出してくれたにもかかわらず、わたくしの技は不発に終わってしまう。
「素晴らしい技です。あなたの研鑚に敬意を評します。けれど、勝つのは私です……!」
エステア様が自らの勝利のために動きはじめている。風の刃の圧が更に高まり、拮抗していたはずのアルタードが徐々に押し返され始めた。
機体がぎしぎしと軋み、悲鳴を上げている。けれど、まだ動ける。
絶対に勝ちたい。
もう二度と、負けたくない――
わたくしは、わたくしであるためにこの試練を乗り越えなければならない。マスターのために、アルフェ様のために――なにより、わたくし自身のために。
「わたくしは、負けません!!」
自分の口から迸った声に、誰よりもわたくし自身が驚いた。わたくしは、いつの間にかマスターがくれたお守り――飛雷針を血が滲むほどに強く左手で握りしめていた。
――諦めません。
自分に言い聞かせるように誓い、わたくしは自らの魔力を飛雷針に集中させた。飛雷針はわたくしのエーテルを吸い取り、小さな稲妻を幾つも迸らせる。
わたくしの行き着いた答えは、きっと無謀だろう。操縦槽から外の帯電布を充電するなんて、マスターが作ってくれたアルタードでなければ絶対に出来ない荒技だ。
覚悟を決めて、全身からエーテルを放出させる。
「あぁぁああああああ!!!」
全身が痺れて焼き付き、張り裂けそうに痛み、気がつけば喉が破れるほどの悲鳴を上げていた。飛雷針が機兵のパーツを充電するために設計されていないことを考えれば、何が起きても不思議ではない。魔導器は暴走し、媒介となっているわたくしの身体は雷に焼かれる。だけど、勝つためならばどんなことにも耐えられる。
握りしめた飛雷針が限界を迎え、左手の中で砕け散った。でも、これで準備は調った。
アルタードはまだ押し負けてはいない。セレーム・サリフと拮抗状態を維持し続けている。
これは、謂わばわたくしとエステア様の意地の張り合いだ。
『帯電布、充電率200%——ブラズマ・バーニア、充電完了』
祝福の言葉のように、アルタードからシステム音声が降ってくる。その音声はただの機械音声ではない。わたくしが敬愛して止まないマスターの愛すべき声だ。
――マスターは信じてくれていた。
「参ります、マスター!」
わたくしは一人ではない。だから、まだ戦える。
「雷鳴瞬動!」
再起動したプラズマ・バーニアが激しく放電を始める。再起動の一瞬でエステア様に押し返された分はもう撥ね付けた。
「ホム選手!! ここに来て更に加速してきたぁああああああああっ!!!」
司会のジョニーが驚愕の叫びを上げている。その声につられるように、観客席から激しい声援が起こっている。
脚部の雷が威力を増し、アルタードを更に前に押し出そうとしてくれている。
「はああああああああっ!!」
強力な圧に耐えかねたエステア様が、遂に刀の峰を支える形でセレーム・サリフの両腕を突き出す。
「私は負けない……! カナルフォードの生徒会長は最強でなくてはいけない。この学校を変える為に私は必ず勝ちます!!」
エステア様が持てる全ての力を出すように風の力を集結させる。暴風が大闘技場に吹き荒れ、泥の飛沫を上げて巻き込みながら、アルタードに襲いかかる。
再び力関係が拮抗し始めるが、わたくしも最後の力を振り絞った。
「わたくしも負けません!!」
全身が悲鳴を上げて燻っている。皮膚が焼けた嫌な臭いがする。
でも、そんなことは気にならないくらい身体が熱い。負けてたまるかと魂が叫んでいる。
けれど、けれどエステア様は岩のように動かない。暴風がアルタードを切り刻み、押し返し始めているのがわかる。
――なにか、なにかあとひとつ。あともう少しだけ。
祈るような気持ちで操縦桿に力を込めたその瞬間、大きく身体が揺れる感覚と同時に、世界が暗闇に包まれた。
墜落の衝撃に備えたが、アルタードはセレーム・サリフ諸共柔らかな風に受け止められた。
背から叩き付けられているはずのセレーム・サリフは、わたくしの攻撃を刀で受け続けている。わたくしの渾身の一撃に対して、押されながらも決して刀を退かないのは驚異的な精神力だ。
――どうして。
セレーム・サリフは噴射推進装置の出力を上げていない。だが、エステア様には風を操る力がある。
「まさか……」
エステア様がセレーム・サリフの背部に風を起こし、衝撃を逃したのだと気づくのとほぼ同時に、セレーム・サリフが渾身の力を込めてアルタードの蹴りを押し返し始めた。
機体を包み込む暴風は徐々に加速し、激しく吹き荒れていく。
「――――!!」
がむしゃらに叫び、帯電布の出力を限界以上に引き上げる。これで最後だ。わたくしの切り札は、もうこれしかない。
だが、エステア様も決して引き下がろうとはしない。風の刃でアルタードの稲妻を纏った一撃を受け止め続け、二機は拮抗状態に陥っている。
プラズマ・バーニアの加速を借りて辛うじて拮抗させているものの、もうこれ以上機体を加速させることはできない。それどころか、失速に向かう終わりの音が聞こえ始めている。
黒血油を大量に失った機体は、もうプラズマ・バーニアを維持できない。アルフェ様の規格外の雷魔法で帯電布に大量に充電していた電力も今や尽きかけている。
アルフェ様とマスターがここまで送り出してくれたにもかかわらず、わたくしの技は不発に終わってしまう。
「素晴らしい技です。あなたの研鑚に敬意を評します。けれど、勝つのは私です……!」
エステア様が自らの勝利のために動きはじめている。風の刃の圧が更に高まり、拮抗していたはずのアルタードが徐々に押し返され始めた。
機体がぎしぎしと軋み、悲鳴を上げている。けれど、まだ動ける。
絶対に勝ちたい。
もう二度と、負けたくない――
わたくしは、わたくしであるためにこの試練を乗り越えなければならない。マスターのために、アルフェ様のために――なにより、わたくし自身のために。
「わたくしは、負けません!!」
自分の口から迸った声に、誰よりもわたくし自身が驚いた。わたくしは、いつの間にかマスターがくれたお守り――飛雷針を血が滲むほどに強く左手で握りしめていた。
――諦めません。
自分に言い聞かせるように誓い、わたくしは自らの魔力を飛雷針に集中させた。飛雷針はわたくしのエーテルを吸い取り、小さな稲妻を幾つも迸らせる。
わたくしの行き着いた答えは、きっと無謀だろう。操縦槽から外の帯電布を充電するなんて、マスターが作ってくれたアルタードでなければ絶対に出来ない荒技だ。
覚悟を決めて、全身からエーテルを放出させる。
「あぁぁああああああ!!!」
全身が痺れて焼き付き、張り裂けそうに痛み、気がつけば喉が破れるほどの悲鳴を上げていた。飛雷針が機兵のパーツを充電するために設計されていないことを考えれば、何が起きても不思議ではない。魔導器は暴走し、媒介となっているわたくしの身体は雷に焼かれる。だけど、勝つためならばどんなことにも耐えられる。
握りしめた飛雷針が限界を迎え、左手の中で砕け散った。でも、これで準備は調った。
アルタードはまだ押し負けてはいない。セレーム・サリフと拮抗状態を維持し続けている。
これは、謂わばわたくしとエステア様の意地の張り合いだ。
『帯電布、充電率200%——ブラズマ・バーニア、充電完了』
祝福の言葉のように、アルタードからシステム音声が降ってくる。その音声はただの機械音声ではない。わたくしが敬愛して止まないマスターの愛すべき声だ。
――マスターは信じてくれていた。
「参ります、マスター!」
わたくしは一人ではない。だから、まだ戦える。
「雷鳴瞬動!」
再起動したプラズマ・バーニアが激しく放電を始める。再起動の一瞬でエステア様に押し返された分はもう撥ね付けた。
「ホム選手!! ここに来て更に加速してきたぁああああああああっ!!!」
司会のジョニーが驚愕の叫びを上げている。その声につられるように、観客席から激しい声援が起こっている。
脚部の雷が威力を増し、アルタードを更に前に押し出そうとしてくれている。
「はああああああああっ!!」
強力な圧に耐えかねたエステア様が、遂に刀の峰を支える形でセレーム・サリフの両腕を突き出す。
「私は負けない……! カナルフォードの生徒会長は最強でなくてはいけない。この学校を変える為に私は必ず勝ちます!!」
エステア様が持てる全ての力を出すように風の力を集結させる。暴風が大闘技場に吹き荒れ、泥の飛沫を上げて巻き込みながら、アルタードに襲いかかる。
再び力関係が拮抗し始めるが、わたくしも最後の力を振り絞った。
「わたくしも負けません!!」
全身が悲鳴を上げて燻っている。皮膚が焼けた嫌な臭いがする。
でも、そんなことは気にならないくらい身体が熱い。負けてたまるかと魂が叫んでいる。
けれど、けれどエステア様は岩のように動かない。暴風がアルタードを切り刻み、押し返し始めているのがわかる。
――なにか、なにかあとひとつ。あともう少しだけ。
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