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第四章 絢爛のスクールフェスタ

第251話 久々の我が家

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「ただいま」

 アルフェと分かれて自宅に戻ると、扉を開けた瞬間から懐かしい匂いに包まれた。

「おかえりなさい。エステアちゃんも我が家だと思って過ごしてね」
「ありがとうございます。お邪魔いたします」

 トーチ・タウンに戻って来たときにも感じたけれど、家に入ると『帰ってきた』という感覚をより強く感じる。これほど長く家から離れることがなかったので気がつかなかったが、この感覚はグラスだった頃の自分にはなかったものだ。

「エステアちゃんには客室を用意しているわ。リーフ、案内してあげて」
「わかりました、母上」

 頷き、エステアを客室に案内する。我が家の客室は僕が生まれてからほとんど使われていないが、両親が結婚した当時は遠方の友人が泊まりに来た時などに使われていたらしい。

 久しぶりに客室の扉を開くと、ちょっとした書き物が出来る机とベッドがあり、寝具からは洗濯したての石鹸の匂いがした。

「わざわざ用意してくれて有り難いわ」
「僕が用意した訳じゃない。母上に直接言うと喜ぶよ」
「ええ、そうするわね」

 僕の言葉に素直に頷き、エステアが部屋の隅に荷物を置く。

「この先、家のことは僕とホムがするから、あまり気にしないでいいよ」
「親孝行なのね」

 エステアに笑顔で言われ、僕は思わず苦笑を浮かべた。母の黒石病のことを考えると、僕は決して親孝行とは言えないだろう。

「育ててもらった恩は返し切れそうにないけれどね」
「……なにかあったの?」

 当たり障りない返事をしたはずなのに、エステアが不安げな顔つきで声のトーンを落とした。武侠宴舞ゼルステラでは戦いにおける才能のひとつとして遺憾なく発揮されていたその察しの良さには、驚嘆するばかりだ。

 さて、どう説明したものかな。母の容態は安定しているようだが、いつ発作が起こるか予測することは不可能だから、黒石病のこと自体、話しておいてもいいかもしれないな。誘った以上は、必要以上にエステアが責任を感じるようなことは避けておくのが礼儀だろう。

「……実は、母上は黒石病に罹患しているんだ」
「え……」

 エステアはそこで言葉を失い、僕が想像していた以上に深刻そうな顔つきになった。

「進行性の不治の病であることは承知しているよ。とはいえ、相性の良い薬を見つけて今は進行を限りなく遅らせている状態なんだ」
「……そんな薬、あるの?」

 エステアが怪訝そうに問い返してくる。学年が違うから把握していなかったけれど、エステアの知識の幅は少なくともメルアに匹敵しているようだ。

「未完成で未発表の薬なんて、たくさんあるだろう?」
「それもそうね。疑ってごめんなさい」

 僕が問いかけると、エステアは思い直したように謝罪の言葉を口にした。

「大陸中で研究が進められていると聞いたことがあるわ」
「そう――」
「リーフ、アルフェちゃんが来たわよー!」

 相槌を打つ僕の声は、母の元気な声によって遮られた。

「今行きます、母上」

 母のあの声を聞く限り、不治の病に冒されているとは思いもよらないだろう。

「あなたのお母様の完治を願います」
「ありがとう」

 エステアの言葉に僕は心から礼を述べた。その研究を僕が担うつもりであることは、今のところは伏せておくことにしよう。

「ママからの差し入れだよ。夜はごちそうだって!」

 リビングに戻るとアルフェが大きなバスケットをテーブルに置いたところだった。

「クリフォートさんのお料理はどれもとても美味しくて評判なのよ」

 昼食の食器とカトラリーの準備をホムに指示しながら、母がエステアに言い添える。

「ワタシはリーフのお料理も大好きだよ!」
「わたくしもです」
「パパもだ!」

 アルフェがいつものように声を弾ませると、なぜかホムだけでなく父上まで挙手とともに声を上げた。

「それは期待してもいいということかしら?」
「そうだね。久しぶりに僕も料理の腕をふるいたいな」

 エステアに問いかけられ、笑顔で頷く。

「私も楽しみにしているわね、リーフ」
「はい、母上」

 僕が料理を担うことで、母の負担を幾分か減らせるだろう。料理が一番の難関かと思ったが、皆の期待もあって自然に家事を引き受けることが出来そうだ。
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