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第四章 絢爛のスクールフェスタ

第302話 エステアの相談

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「今年の建国祭だけど、どうしたらいいかしら?」
「あ~! それ、大事なヤツじゃん!」

 エステアが切り出した話題に、メルアが大仰な反応を見せる。

「しかも、生徒会編成をそれに合わせてやらなければならないことを考えると、諸々急ぎたいところですわよねぇ?」

 生徒会総選挙が一段落したばかりで忘れていたが、この時期は建国祭の時期でもあるんだったな。

 建国祭というのは、僕たちの住んでいるアルカディア帝国の建国を祝した一大イベントだ。旧人類との大戦を終わらせた八英雄達、国父であるユーゼス・アルカディアの偉業を称えるお祭りという位置づけで、毎年三月頃に祭典が行われるのが通例だ。マリーが諸々急ぎたいと話していたあたり、学園でもなにか行われるようだ。

「建国祭って、学園でもやるのかい?」
「やるやる! そーいえば、ししょーたちは1年生だから初めてだよね!」

 メルアが手にした飲み物を零さんばかりの勢いで、身振り手振りで説明しようとしている。それを背後に回ったジョスランが慣れた様子で取り上げて傍のテーブルに置く間に、マリーが説明を引き継いだ。

「この学園では、学園を挙げて二日間にわたって行われるんですわぁ~! 初日は中等部と高等部、二日目は大学部なんですの!」

 ああ、それは聞いただけでかなり大規模なことが想像できる。だとすれば急いだ方がいいだろうし、エステアがこのタイミングで相談してきた理由もわかる。

「それで、僕たちに相談したというわけかい?」
「ええ。出店や催しがメインになるんだけれど、それをとりまとめるのが生徒会なの、任意で行うからどれだけ集まるかも今の時点で読めないのよね」
「ちゅ~てもまあ、去年の出展実績を考えるとイグニス側の生徒がボイコットするとかもないと思うんよ。あれって社交場も兼ねてるし」

 メルアの意見には僕も賛成だ。残念ではあるが、デュラン家の影響を考えるとイグニスに対して謹慎以上の処分を行うことは出来ないだろう。イグニスとしてもこの学園を去るという選択肢はないだろうし、そうなると建国祭までには学園に復帰して、なにか目立つイベントを企画するのは目に見えている。

「……メルアの言う通りですわね。遠方から集まる方々とのコネクションを作ったり、自身の権威を示して周りにアピールするチャンスをみすみす逃すなんて馬鹿な真似はさすがにしないと思いますわ。ワタクシもパーティーを開催するか劇団やサーカスを呼ぼうか迷っていますの」
「にゃはははっ! マリー先輩なら全部やりそうだけど」

 重くなりかけたその場の空気をマリーが冗談とも本気ともつかない言葉で和らげ、ファラがそれに無邪気に笑った。

「そうですわぁ~! 全部やればいいんですわね! あと、新生生徒会のアピールにライブもプロデュースしたいんですの!」
「……またやるのかい?」

 マリーの視線が僕とアルフェに向いたので、思わず聞いてしまった。

「うふふっ。だって、あの一回きりなんて勿体なさすぎですわぁ~!」
「え? なに!? またライブやんのか、リーフ!」

 マリーが嬉しそうに応えた声にいち早く反応したのは、再び料理に夢中になっていたはずのヴァナベルだ。持ち前の俊足を活かして、というほどではないがあっという間に僕たちの元にやってきた。

「……地獄耳だね、ヴァナベル」
「まあな」

 ヴァナベルは得意そうに胸を張り、自慢の兎耳族の耳をぱたぱたと動かす。

「建国祭でも、またみんなで盛り上がりたいねぇ~」

 遅れてやってきたヌメリンも建国祭の話題ということがわかっているらしく、おっとりとした口調で呟きながら僕たちを見つめた。

「ええ。みなさんと盛り上がりたいと思ってるわ。だから、力を貸してほしいの」
「そりゃもちろん! っていうか、エステア先輩、なんでそんな切実な声なんだ?」

 途中から話に割って入ったヴァナベルは、状況がわからないといった様子で素直に訊ねた。

「去年はイグニスの妨害で、亜人生徒は出店も催し物も全て却下されてしまったの。私が許可を出しても取り消される有様で……今年はもう、そんなことにはしたくない」

 余程そのことが心残りだったのだろう、エステアの表情が曇る。その表情をどうにかしたくて、僕はエステアの俯きがちな顔を覗き込んだ。

「今回の生徒会総選挙は、生徒の民意だよ。そんなことは、僕たちがさせない」

 エステアが僕の視線を受けて、はっとしたように目を見開く。こういうとき、背が低いのはちょっと便利だな。

「そーそー! そんな妨害でへこたれるオレたちじゃないぜ!」

 僕の発言にヴァナベルが勇ましく同意を示すと、エステアは漸く笑顔に戻った。

「ありがとう……。今年こそは学園のみんなが楽しめる建国祭にしましょう!」
「もちろん! ししょーもみんなも着いてきてくれるでしょ?」

 メルアがエステアの肩に背を添え、僕たちに問いかける。

「ここまで言われて断るのは無理だろうね」

 やれやれ。ライブのことは有耶無耶になったけれど、盛り上げるためのなにかを考えた方がいいな。それこそ今日好評だったクッキーをはじめとした焼き菓子を量産してみるのもいいかもしれない。

「ワタシ、がんばるね!」
「わたくしも、出来る限りお手伝い致します」

 アルフェとホムが手を挙げて宣言し、ファラとヴァナベル、ヌメリンもそれに続く。これだけの味方がいれば、エステアもきっと心強く思ってくれるだろう。僕たちに純粋に力になりたいと思わせるのは、エステアの人徳だ。武侠宴舞ゼルステラ・カナルフォード杯を通じて、そのあと一緒に新年を迎えて、強さも弱さも知り合えたから、こうして手を差し伸べられるのかもしれないな。

「……それで、僕たちは一体何をしたらいいんだい?」
「私と一緒に生徒会を編成してほしいの。リーフには副会長をお願いしたいと考えているのだけれど」

 既に考えていたらしく、エステアが生徒会役員の編成について書かれた書類を手渡しながら打診してくる。

「僕が? そんな器じゃないよ」
「またまたぁ! ししょーはさ、謙遜にも程があるって!」
「そうですわぁ~! リーフほどのブレインを副会長にしないなんて宝の持ち腐れですわぁ!」

 僕が断ろうとしているのを察したのか、メルアとマリーが畳みかけてくる。

「いやいや。メルアとマリーを差し置いて副会長なんて出来ないよ」
「差し置くなんてとんでもない。こういうのは実力に見合った働きとポストを用意すべきなんですの。なんといっても、この学園は実力主義ですわ! 学力テストの成績をワタクシ、見逃してはいませんわよ?」

 マリーはかなり本気らしく、実例を挙げながら僕にずいずいと迫ってくる。さっきは便利だと思った身長差も、こうして上から圧をかけられるのはどうにも苦手だ。

「マスター」

 僕が困っているのを察したのか、ホムが間に入ってさりげなくマリーを止めてくれた。

「ありがとう、ホム」
「わたくしもマスターが適任と考えます。どうかエステアを助けてあげてください」
「え……?」

 まさかホムにまで賛成されるとは思わなかったが、ホムの目は真剣そのものだ。

「ワタシもリーフは副会長がいいと思う!」

 ホムに触発されたのか、アルフェまで賛成の意を示してみんなの反応を見るように促した。

「にゃはははっ! ほら、みんな大賛成だぞ」

 ファラが言うまでもなく、みんなが僕に期待の視線を向けている。

「ここまで言われたら断れないよな。オレも副会長にするならリーフしかいねぇと思ってるぜ。なんといってもF組のクラス委員長だからな!」

 ヴァナベルが、ダメ押しとばかりにそう言ってエステアが先ほど差し出した書類を僕に突きつけた。
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