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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第317話 アルフェの歌詞
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アトリエに縫製魔導器の音が静かに響いている。
ホムの衣装と帽子が仕上がったところで、既に夕食の時間を過ぎてしまっていたこともあり、今晩中に衣装を仕上げてしまおうという流れになったのだ。メルアによるとアトリエは他の教室とは違って消灯時間以降も使用が許されているので、僕たちはそのままアトリエに滞在している。
途中、寮に戻らない僕たちを心配したエステアとホムがアトリエを訪ねて来たが、事情を聞いて軽食を差し入れてくれたので、僕たちは軽食と温かな紅茶を飲みながら縫製魔導器の音に耳を澄ませていた。
縫製魔導器の傍らでは、磁力操作魔法によって衣装に細かな装飾やリボンが取り付けられており、アルフェがその出来映えを楽しげに眺めている。
Re:bertyの衣装からいつもの服に着替えたので、表情と仕草からしかその感情は読み取れないけれど、それでもアルフェが心から楽しんでいるのは僕から見てよくわかった。
「はぁ~、それにしても本当にこの調子なら今日中に衣装が出来ちゃうんじゃない!?」
「あとは縫製魔導器次第だけど、そうかも」
メルアの問いかけにアルフェが笑顔で頷く。自動化されているとはいえ、複数台の縫製魔導器を動かして、六人分の衣装を作るというのは、かなりの負担だろうに、アルフェは笑顔を絶やさない。それどころか、益々楽しそうに笑っている。
「それじゃあ、次は新曲の作詞か~。アルフェちゃんのラブソング、楽しみだな」
「そうだね」
メルアの言葉に相槌を打つと、アルフェが僕の元に戻ってきて、そっと耳打ちした。
「あのね、実はリーフのことを考えてもう作ってるの、歌詞」
少し気分が高揚しているのか、アルフェの吐息がくすぐったい。
「それは是非見てみたいな。アルフェさえよければ」
「へっ!? っちゅーことは、もう出来てる!?」
僕の相槌からアルフェが囁いた内容を察したらしいメルアが、突然立ち上がった。
「う、うち、きゅーに外の空気が吸いたくなったな~、夜の散歩してこようかな~」
ほとんど棒読みでそう言うと、メルアはアルフェに目で何かを合図してアトリエから出て行く。
「……気を遣わせちゃったかな?」
「いや、散歩に行きたいだけじゃないかな?」
アルフェが気にしているようなので、僕は苦笑混じりに応えた。メルアはわかりやすく面白いけれど、ここまで露骨だとどう振る舞えばいいかわからなくなるな。多分、僕たちを二人きりにして、歌詞の完成を促したいだけなのだろうけれど。
「……それで、アルフェの考えた歌詞、見せてもらってもいいかな?」
「あ、うん……。でも読むだけだと伝わらないかもだから……ちょっと歌ってみてもいい?」
「歌うって?」
僕の問いかけにアルフェがポケットから、人魚の歌声を取り出す。
「エステアさんから、第一弾のメロディをもらってて……。だから……」
「そういえば、昨日作ってみるとは言っていたね」
僕にはなにも言っていなかったけれど、それは多分錬金術の仕掛けのことを時間がかかるものだと誤解されたせいだろうな。仕事が早いのは、僕たち生徒会メンバーはみんな同じなのかもしれないと思うと、なんだか親近感が湧いた。
「それで、歌詞はこれなんだけど……」
アルフェがそう言いながら、衣装のデザイン画を描いていたあのノートを捲る。そこにはアルフェらしい可愛らしい文字が整然と並んでいたが、エステアの曲に合わせて少しアレンジしたらしく、推敲を重ねた跡も多く見て取れた。
「……読みながらでいいから、聞いてね」
「うん」
僕が頷くのを待ち、アルフェが胸の前で手を組む。そうして目を閉じると、深く息を吸い、澄んだ声で歌い始めた。
もしも世界が明日変わっても
ワタシのキミへの 想いは変わらない
小さな頃からずっと一緒だったよ
いつもワタシのことを助けてくれた
だからワタシも 強くなる
くるくる変わってく みんな大人になる
いろんなことが 変わってくけど
ずっと続いてく もっと強くなる
いつも キミのとなりで
二人並んで 歩いてたいから
Love you ever
もしもキミが立ち止まったら
ワタシ キミを抱き締めて 包んであげる
だから一人で 悩まないで
くるくる変わってく キミに追いついて
強くなったワタシを 頼りにしてよね
二人繋がってる きっと一緒だから
ずっと あの日の約束は宝物だよ
大好き 大好きだよ
これからも
くるくる変わってく 世界は変わってく
でも変わらないキモチは ここにあるんだよ
きっと続いてく もっと好きになる
ずっとキミがくれたキモチを 大事にしたいから
ワタシが笑ったら キミも笑ってね
もっと二人のキモチが繋がったら 強くなれるよね
Love you ever
Lala……
「……どう……かな、リーフ?」
アルフェにしては慎重そうな、見方によっては不安げな表情が僕の目を覗き込む。僕は歌詞が書かれたノートとアルフェを見比べ、アルフェの書いた文字を指先でそっとなぞった。
そこに温度なんてないはずなのに、微かな温かみを感じる。僕にはエーテルが見えるわけじゃないけれど、アルフェのエーテルが微かに感じられたような気がする。それだけ強い想いを込めて、願いをかけて書かれたものなのだろうということは、はっきりと理解出来た。
「温かい気持ちが伝わるし、すごくアルフェらしいと思ったよ」
「うん」
アルフェは笑顔で頷いたが、いつものように良かった、とは言わなかった。安堵にはまだ少し遠い。アルフェにしては珍しく、僕に対して緊張している様子だ。
――ラブソング。
定義は知っているが、僕自身は音楽自体を好んで聞くわけではないので、あれこれ意見を言うのは難しいな。だけど、アルフェがなにを伝えようとしているかは、わかる。
「あのね、あのね……。これで完成ってわけじゃないから、リーフの意見を知りたいの。もっと良くしてみんなに届けるために、どうしたらいいのかなって、一緒に考えて欲しいの。ワタシだけじゃ、リーフへの想いだけで……胸が、いっぱいになっちゃうから」
アルフェの真剣な眼差しに、僕は微笑んで頷いた。アルフェが危惧しているように、歌詞からはアルフェの気持ちだけが強く伝わってくる。これが僕にだけ向けられていると言われても、納得してしまうだろう。
アルフェが小さい頃から僕に伝えてくれた言葉が鏤められていて、昔のことをたくさん思い出せる。そういう想いを僕に対して持ち続けてくれているのは嬉しい。でも、それだけじゃ通じ合えているとわかるのは僕たちだけだ。
「僕もアルフェの心配は理解出来るよ。Re:bertyはエステアの願いを込めたみんなのためのバンドだ。だから、出来れば僕はこの気持ちを教えてくれたアルフェに、もっとたくさんの人にこの歌を届けてほしいと願う」
口に出すことは出来ないけれど、僕の願いはただ一つ。僕がアルフェからもらったこの気持ちを、それを必要としている他の誰かに届けたい。前世の――あの孤独で人を信用しなかった過去の僕がこうして愛する意味を知り、考え、感じるようになれたのはアルフェのお陰だから。だから、僕たちだけの自己満足にはしたくない。
「うん! リーフならわかってくれると思ってた。でもね、それをどう伝えたらいいのかな?」
「そうだね。僕としても、アルフェの歌詞を直すのではなくて、もっと想いを重ねられたら良いと考えているのだけれど……」
そこまで呟いて、僕のなかに不意に歌詞めいた言葉が浮かんだ。アルフェのラブソングを一番に届けたいのは、愛すること、愛されることを知らなかった過去の自分だ。こうして今、大好きなアルフェと一緒にそのことを考えられる幸せを、僕自身が過去の自分に知らせるというのはどうだろうか。
「……ねえ、アルフェ。僕も歌詞を書いていいかい?」
暫く考えて出した結論に、アルフェは目を輝かせた。
「書いてくれるの!?」
あまりに嬉しそうに訊ねられて、少し驚いてしまった。
「……アルフェがいいなら」
「ワタシ、リーフの歌詞を歌いたい! リーフの気持ち、もっと深く知りたいもん!」
ああ、僕も、僕自身の気持ちを形にしてみたい。ずっと僕の中にはなかったと思っていたもの、いつの間にか生まれて大切に育まれていたものを、形に出来たら、またひとつ僕は成長出来る。
「じゃあ、決まりだね」
自分自身にも言い聞かせるようにそう紡ぐと、アルフェは髪を弾ませて大きく頷いて見せた。
ホムの衣装と帽子が仕上がったところで、既に夕食の時間を過ぎてしまっていたこともあり、今晩中に衣装を仕上げてしまおうという流れになったのだ。メルアによるとアトリエは他の教室とは違って消灯時間以降も使用が許されているので、僕たちはそのままアトリエに滞在している。
途中、寮に戻らない僕たちを心配したエステアとホムがアトリエを訪ねて来たが、事情を聞いて軽食を差し入れてくれたので、僕たちは軽食と温かな紅茶を飲みながら縫製魔導器の音に耳を澄ませていた。
縫製魔導器の傍らでは、磁力操作魔法によって衣装に細かな装飾やリボンが取り付けられており、アルフェがその出来映えを楽しげに眺めている。
Re:bertyの衣装からいつもの服に着替えたので、表情と仕草からしかその感情は読み取れないけれど、それでもアルフェが心から楽しんでいるのは僕から見てよくわかった。
「はぁ~、それにしても本当にこの調子なら今日中に衣装が出来ちゃうんじゃない!?」
「あとは縫製魔導器次第だけど、そうかも」
メルアの問いかけにアルフェが笑顔で頷く。自動化されているとはいえ、複数台の縫製魔導器を動かして、六人分の衣装を作るというのは、かなりの負担だろうに、アルフェは笑顔を絶やさない。それどころか、益々楽しそうに笑っている。
「それじゃあ、次は新曲の作詞か~。アルフェちゃんのラブソング、楽しみだな」
「そうだね」
メルアの言葉に相槌を打つと、アルフェが僕の元に戻ってきて、そっと耳打ちした。
「あのね、実はリーフのことを考えてもう作ってるの、歌詞」
少し気分が高揚しているのか、アルフェの吐息がくすぐったい。
「それは是非見てみたいな。アルフェさえよければ」
「へっ!? っちゅーことは、もう出来てる!?」
僕の相槌からアルフェが囁いた内容を察したらしいメルアが、突然立ち上がった。
「う、うち、きゅーに外の空気が吸いたくなったな~、夜の散歩してこようかな~」
ほとんど棒読みでそう言うと、メルアはアルフェに目で何かを合図してアトリエから出て行く。
「……気を遣わせちゃったかな?」
「いや、散歩に行きたいだけじゃないかな?」
アルフェが気にしているようなので、僕は苦笑混じりに応えた。メルアはわかりやすく面白いけれど、ここまで露骨だとどう振る舞えばいいかわからなくなるな。多分、僕たちを二人きりにして、歌詞の完成を促したいだけなのだろうけれど。
「……それで、アルフェの考えた歌詞、見せてもらってもいいかな?」
「あ、うん……。でも読むだけだと伝わらないかもだから……ちょっと歌ってみてもいい?」
「歌うって?」
僕の問いかけにアルフェがポケットから、人魚の歌声を取り出す。
「エステアさんから、第一弾のメロディをもらってて……。だから……」
「そういえば、昨日作ってみるとは言っていたね」
僕にはなにも言っていなかったけれど、それは多分錬金術の仕掛けのことを時間がかかるものだと誤解されたせいだろうな。仕事が早いのは、僕たち生徒会メンバーはみんな同じなのかもしれないと思うと、なんだか親近感が湧いた。
「それで、歌詞はこれなんだけど……」
アルフェがそう言いながら、衣装のデザイン画を描いていたあのノートを捲る。そこにはアルフェらしい可愛らしい文字が整然と並んでいたが、エステアの曲に合わせて少しアレンジしたらしく、推敲を重ねた跡も多く見て取れた。
「……読みながらでいいから、聞いてね」
「うん」
僕が頷くのを待ち、アルフェが胸の前で手を組む。そうして目を閉じると、深く息を吸い、澄んだ声で歌い始めた。
もしも世界が明日変わっても
ワタシのキミへの 想いは変わらない
小さな頃からずっと一緒だったよ
いつもワタシのことを助けてくれた
だからワタシも 強くなる
くるくる変わってく みんな大人になる
いろんなことが 変わってくけど
ずっと続いてく もっと強くなる
いつも キミのとなりで
二人並んで 歩いてたいから
Love you ever
もしもキミが立ち止まったら
ワタシ キミを抱き締めて 包んであげる
だから一人で 悩まないで
くるくる変わってく キミに追いついて
強くなったワタシを 頼りにしてよね
二人繋がってる きっと一緒だから
ずっと あの日の約束は宝物だよ
大好き 大好きだよ
これからも
くるくる変わってく 世界は変わってく
でも変わらないキモチは ここにあるんだよ
きっと続いてく もっと好きになる
ずっとキミがくれたキモチを 大事にしたいから
ワタシが笑ったら キミも笑ってね
もっと二人のキモチが繋がったら 強くなれるよね
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Lala……
「……どう……かな、リーフ?」
アルフェにしては慎重そうな、見方によっては不安げな表情が僕の目を覗き込む。僕は歌詞が書かれたノートとアルフェを見比べ、アルフェの書いた文字を指先でそっとなぞった。
そこに温度なんてないはずなのに、微かな温かみを感じる。僕にはエーテルが見えるわけじゃないけれど、アルフェのエーテルが微かに感じられたような気がする。それだけ強い想いを込めて、願いをかけて書かれたものなのだろうということは、はっきりと理解出来た。
「温かい気持ちが伝わるし、すごくアルフェらしいと思ったよ」
「うん」
アルフェは笑顔で頷いたが、いつものように良かった、とは言わなかった。安堵にはまだ少し遠い。アルフェにしては珍しく、僕に対して緊張している様子だ。
――ラブソング。
定義は知っているが、僕自身は音楽自体を好んで聞くわけではないので、あれこれ意見を言うのは難しいな。だけど、アルフェがなにを伝えようとしているかは、わかる。
「あのね、あのね……。これで完成ってわけじゃないから、リーフの意見を知りたいの。もっと良くしてみんなに届けるために、どうしたらいいのかなって、一緒に考えて欲しいの。ワタシだけじゃ、リーフへの想いだけで……胸が、いっぱいになっちゃうから」
アルフェの真剣な眼差しに、僕は微笑んで頷いた。アルフェが危惧しているように、歌詞からはアルフェの気持ちだけが強く伝わってくる。これが僕にだけ向けられていると言われても、納得してしまうだろう。
アルフェが小さい頃から僕に伝えてくれた言葉が鏤められていて、昔のことをたくさん思い出せる。そういう想いを僕に対して持ち続けてくれているのは嬉しい。でも、それだけじゃ通じ合えているとわかるのは僕たちだけだ。
「僕もアルフェの心配は理解出来るよ。Re:bertyはエステアの願いを込めたみんなのためのバンドだ。だから、出来れば僕はこの気持ちを教えてくれたアルフェに、もっとたくさんの人にこの歌を届けてほしいと願う」
口に出すことは出来ないけれど、僕の願いはただ一つ。僕がアルフェからもらったこの気持ちを、それを必要としている他の誰かに届けたい。前世の――あの孤独で人を信用しなかった過去の僕がこうして愛する意味を知り、考え、感じるようになれたのはアルフェのお陰だから。だから、僕たちだけの自己満足にはしたくない。
「うん! リーフならわかってくれると思ってた。でもね、それをどう伝えたらいいのかな?」
「そうだね。僕としても、アルフェの歌詞を直すのではなくて、もっと想いを重ねられたら良いと考えているのだけれど……」
そこまで呟いて、僕のなかに不意に歌詞めいた言葉が浮かんだ。アルフェのラブソングを一番に届けたいのは、愛すること、愛されることを知らなかった過去の自分だ。こうして今、大好きなアルフェと一緒にそのことを考えられる幸せを、僕自身が過去の自分に知らせるというのはどうだろうか。
「……ねえ、アルフェ。僕も歌詞を書いていいかい?」
暫く考えて出した結論に、アルフェは目を輝かせた。
「書いてくれるの!?」
あまりに嬉しそうに訊ねられて、少し驚いてしまった。
「……アルフェがいいなら」
「ワタシ、リーフの歌詞を歌いたい! リーフの気持ち、もっと深く知りたいもん!」
ああ、僕も、僕自身の気持ちを形にしてみたい。ずっと僕の中にはなかったと思っていたもの、いつの間にか生まれて大切に育まれていたものを、形に出来たら、またひとつ僕は成長出来る。
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