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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第342話 魔族の襲撃
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晴れ渡っていたはずの青い空が、赤黒い混沌の雲に浸食されている。
その中心の裂け目から、巨大な目玉の魔族――デモンズアイがどろりと溶け出すようにその身体を覗かせている。その禍々しい目玉からどろどろと血の涙が流され、美しいカナルフォード学園を穢していく。
「……ひでぇ臭いだ……。鼻が曲がっちまう……」
ヴァナベルが耐えかねて呻くように紡ぐ声が聞こえる。大闘技場の庇型の屋根の上に、闘技場にぼたぼたと零れる血の涙は、見る間に生き物たる意思を持って動き始めるのだ。
遠目では良く見えないが、デモンズアイの血涙は翼を持つ異形という目玉に羽がついたような魔族や、レッサーデーモンと呼ばれる人間の身体組織を限りなく削ぎ落とした上に死体を継ぎ接ぎして背中に腕を生やし、脇腹に巨大な目玉を備えたおぞましい姿の魔族を生み出す。既にあちこちで上がっている悲鳴が絶望の叫びに変わるまで、一刻の猶予もない。
「……どうしよう、どうしたらいい……?」
アルフェが咄嗟に取り出した魔導杖を握りしめ、震える声で僕に訊ねて来る。
「街を襲うのは下等魔族と呼ばれる魔物だ。僕たちに勝てない相手じゃない。だけど、あのデモンズアイを倒さない限りは無限に湧き続ける」
「……大闘技場に向かいましょう。ナイル様たちを助けなければ」
僕と記憶を共有しているホムが、いち早く僕の言葉の意味を読み取ってくれる。
「まずはエステアたちと合流しないとね」
一体二体ならホムとアルフェでも倒せるだろう。だが、今この瞬間にどれだけの魔物と魔族が生み出されているのか、人魔大戦の前線を経験していない僕には、見当もつかない。
どれだけの恐怖と絶望を想像しているだろうとアルフェの手を探るように手を伸ばす。僕が握るよりも早く、アルフェの手が強く僕の手を握りしめた。
「ワタシは大丈夫。リーフを守るよ。それより、あのシルエット……翼持つ異形が来る……」
アルフェが上空を指差すと、無数の影が大闘技場上空から飛び立つ姿が見えた。影は見る間に近づき、その全貌を露わにする。翼を持つ無数の目玉が、紅い瞳を禍々しく光らせ、瞼のように目を覆う無数の牙をねっとりとした粘液で光らせながら人間たちの物色を始めているのだ。
「氷よ――」
アルフェが魔法の杖を振るい、氷魔法の詠唱を始める。詠唱はアルフェの想像力を形として具現させ、至る所にシェルターのような氷の防御壁を築いた。
「ヌメ、武器出せ!」
「あーい!」
ヴァナベルの合図でヌメリンが屋台の裏からヴァナベルの剣を取り出して投げ、自分の巨大な戦斧を街灯に向かって打ち下ろした。
「わかってるじゃねえか!」
ヴァナベルが折れて傾きかけた街灯に跳躍して飛び乗る。ヌメリンはそれを見越していたように戦斧を捨てて街灯を抱えると、驚異的な怪力で街灯ごとヴァナベルを持ち上げた。
「よいしょぉ~!」
「こっち来るんじゃねぇよ、バケモン!!」
ヌメリンが振り回す街灯の上で、ヴァナベルが接近する翼持つ異形を次々に刺突して迎え撃つ。
「わたくしも加勢致します!」
「ウィンドフロー!」
ヴァナベルに倣って街灯の上に跳躍するホムを、アルフェの魔法が補助する。ホムは風に乗って街灯の天辺に立ち、街灯の間を飛び渡りながら的確に翼持つ異形を蹴り落としていく。
人々はアルフェの作った氷の壁に身を潜め、次から次へと地面に叩き付けられる異形に、顔を覆いながら悲鳴を押し殺している。
今は善戦しているとはいえ、楽観は出来ない。これが続けば、必ず体力の限界が来るからだ。魔族はそれを狙っている。下等魔族は知能の欠片もないが、それを生み出す魔族の親玉の狡猾さを考えれば、これだけで攻撃が済むとは思えない。
「……けど、一体なんのために……」
――この学園がなぜ『選ばれた』のか。
周囲の状況の理解と並行して考えを巡らせたその時、黒い影が急接近してくるのがわかった。
「ワタシのリーフに手を出さないで!」
冷たい疾風が駆け抜け、アルフェの氷魔法が翼持つ異形を地面に串刺しにする。デモンズアイが流すようなどろどろとした赤黒い血涙を零し、下等魔族はその場で息絶えた。
「ありがとう、アルフェ」
咄嗟に真なる叡智の書を手にしたがアルフェの攻撃はそれよりも遙かに早かった。
「どういたしまして。ひとまずここは、もう大丈夫かな?」
アルフェが少し無理をした笑顔を見せ、上空の様子を示す。少なくともヴァナベルとヌメリン、ホムの攻撃によってこちらに飛来してきた翼持つ異形の一団は一掃できたようだ。
「おい、無事か、リーフ!?」
ヌメリンが抱えた街灯の上から跳躍したヴァナベルが、飛び降りながらこちらに問いかけてくる。
「おかげさまで」
応えながら氷の壁に身を寄せていた人々の様子を注意深く観察する。魔族の取りこぼしはなく、どうやら無事のようだ。
「それにしても気持ち悪いねぇ~。目玉に直接翼が生えてるし、変な牙はいっぱいあるし~」
「これって魔獣……じゃねぇよな。本でしか見たことねぇけど、これが魔族なのか?」
敵を観察する余裕のなかった二人が、アルフェが倒した一体を見下ろしながら気味悪そうに呟く。ホムが戻って来たのを確認し、僕は翼持つ異形を近くにいた全員に示した。
「これは、翼持つ異形だ。使役式の下等魔族だよ。あのデモンズアイが召喚している」
「ん? 待て。使役式ってことは、コイツに命令してるヤツがいるってことか?」
事の重大さに気づいたヴァナベルが、僕に確かめるように訊いてくる。
「そういうことになるね。それと、あのデモンズアイを倒さない限り、こいつらは際限なく湧き続ける。厄介なのは、こいつよりもレッサーデーモンだ」
「……四つん這いの人間に似た悪趣味な姿の魔族です。脇腹の目玉には毒がありますから、決して攻撃してはなりません」
僕の説明を補うように、ホムが険しい顔で続けてくれる。ヴァナベルたちとは同じ軍事科というだけあり、彼女たちが誤って目に攻撃しないように忠告したのだ。
「わかった。こいつはともかく、レッサーデーモンってヤツの目は狙わねぇよ」
「目玉ほどではないけれど、全身に毒を持つから、遠距離攻撃が有効だろうね。幸か不幸か、まだ街中には溢れていないようだけど……」
辺りを見回しても、レッサーデーモンの気配は感じられない。幾つかの塊になって上空を回っている翼持つ異形が、また増え始めているぐらいだ。まあ、それもかなり問題視しなければならないのだけれど。
「けど、なんでそんなことわかるんだよ?」
「それは……」
「あやつらの知能の欠片もない笑い声は、癇にさわるからな。ギャギャギャっと甲高く喚くから、居所などすぐにわかる」
言いかけた僕の言葉を引き取ったのは、意外なことにハーディアだった。
「あんた詳しいんだな」
「まあな。それより、どうするつもりじゃ? このままでは、いくらわらわとて、ゆっくりカオス焼きを楽しむ場合ではないぞ」
「こっちも焼いてる場合じゃねぇんだよ。けど、腹が減ってるならやるよ!」
昨日ハーディアにお土産を持たせようとしていたくらいには、彼女の食べっぷりを気に入っていたのだろう。ヴァナベルが客に渡すばかりになっていたカオス焼きを素早く取りに戻り、ハーディアに渡す。
「わらわの献上品として受け取ってやろう。有り難く頂戴するぞ」
ヴァナベルの行動が余程嬉しかったのか、ハーディアは屈託のない笑みを浮かべ、カオス焼きを頬張った。
「……で、どうする? ここも安全とまでは言えないよな」
「そうだね。みんなの安全を確保したい。けど、逃げられそうな場所と言えば、講堂以外に思いつかないんだ。そこまでハーディアを連れていってもらえないか?」
緊急時の避難場というものを決めておくべきだったが、今はそんなことを悔いている場合ではない。魔族の襲撃となれば、もう先生方も動いているだろう。人魔大戦中であれば、軍も初動を始めている頃だ。もしかすると、学園内のことを熟知しているプロフェッサーが率いる公安部隊も助けに来てくれるかもしれない。
「……それに異論はねぇけどさ、お前はどうするんだよ、リーフ?」
ヴァナベルの問いかけに僕はアルフェとホムと目を合わせた。
「生徒会として、生徒の安全を確保する必要がある。まずはエステアたちと合流して、方針を固める」
「わかった。じゃあ、なんか決まったら知らせてくれ。オレもいざというとき用に多機能通信魔導器、持ってるからさ」
事前にマリーが支給してくれたのだろう、多機能通信魔導器を示してヴァナベルがにっと笑う。こういう時のヴァナベルの笑みは、強がりなんだろうな。でも、それが僕としても心強い。
「避難誘導を頼んだよ、ヴァナベル、ヌメリン」
「任せて~」
快く避難誘導を引き受けてくれたヴァナベルとヌメリンの隣に、ハーディアが並ぶ。
「怖い思いをさせてごめんね。ワタシたちが必ずなんとかするから無事でいてね、ハーディアちゃん」
「無理はするなよ。わらわは、大抵のことはどうにか出来る。心配するな」
ハーディアは、怯える様子など微塵も見せずに、力強く言い切る。
「ありがとう。その言葉が心強いよ」
僕は三人にそう告げて、アルフェとホムと駆け出した。目指すは生徒会の本部テント。あと少しの距離なのに、逃げ惑う人たちのお陰で辿り着くまでの時間が途方も無く長く感じられた。
その中心の裂け目から、巨大な目玉の魔族――デモンズアイがどろりと溶け出すようにその身体を覗かせている。その禍々しい目玉からどろどろと血の涙が流され、美しいカナルフォード学園を穢していく。
「……ひでぇ臭いだ……。鼻が曲がっちまう……」
ヴァナベルが耐えかねて呻くように紡ぐ声が聞こえる。大闘技場の庇型の屋根の上に、闘技場にぼたぼたと零れる血の涙は、見る間に生き物たる意思を持って動き始めるのだ。
遠目では良く見えないが、デモンズアイの血涙は翼を持つ異形という目玉に羽がついたような魔族や、レッサーデーモンと呼ばれる人間の身体組織を限りなく削ぎ落とした上に死体を継ぎ接ぎして背中に腕を生やし、脇腹に巨大な目玉を備えたおぞましい姿の魔族を生み出す。既にあちこちで上がっている悲鳴が絶望の叫びに変わるまで、一刻の猶予もない。
「……どうしよう、どうしたらいい……?」
アルフェが咄嗟に取り出した魔導杖を握りしめ、震える声で僕に訊ねて来る。
「街を襲うのは下等魔族と呼ばれる魔物だ。僕たちに勝てない相手じゃない。だけど、あのデモンズアイを倒さない限りは無限に湧き続ける」
「……大闘技場に向かいましょう。ナイル様たちを助けなければ」
僕と記憶を共有しているホムが、いち早く僕の言葉の意味を読み取ってくれる。
「まずはエステアたちと合流しないとね」
一体二体ならホムとアルフェでも倒せるだろう。だが、今この瞬間にどれだけの魔物と魔族が生み出されているのか、人魔大戦の前線を経験していない僕には、見当もつかない。
どれだけの恐怖と絶望を想像しているだろうとアルフェの手を探るように手を伸ばす。僕が握るよりも早く、アルフェの手が強く僕の手を握りしめた。
「ワタシは大丈夫。リーフを守るよ。それより、あのシルエット……翼持つ異形が来る……」
アルフェが上空を指差すと、無数の影が大闘技場上空から飛び立つ姿が見えた。影は見る間に近づき、その全貌を露わにする。翼を持つ無数の目玉が、紅い瞳を禍々しく光らせ、瞼のように目を覆う無数の牙をねっとりとした粘液で光らせながら人間たちの物色を始めているのだ。
「氷よ――」
アルフェが魔法の杖を振るい、氷魔法の詠唱を始める。詠唱はアルフェの想像力を形として具現させ、至る所にシェルターのような氷の防御壁を築いた。
「ヌメ、武器出せ!」
「あーい!」
ヴァナベルの合図でヌメリンが屋台の裏からヴァナベルの剣を取り出して投げ、自分の巨大な戦斧を街灯に向かって打ち下ろした。
「わかってるじゃねえか!」
ヴァナベルが折れて傾きかけた街灯に跳躍して飛び乗る。ヌメリンはそれを見越していたように戦斧を捨てて街灯を抱えると、驚異的な怪力で街灯ごとヴァナベルを持ち上げた。
「よいしょぉ~!」
「こっち来るんじゃねぇよ、バケモン!!」
ヌメリンが振り回す街灯の上で、ヴァナベルが接近する翼持つ異形を次々に刺突して迎え撃つ。
「わたくしも加勢致します!」
「ウィンドフロー!」
ヴァナベルに倣って街灯の上に跳躍するホムを、アルフェの魔法が補助する。ホムは風に乗って街灯の天辺に立ち、街灯の間を飛び渡りながら的確に翼持つ異形を蹴り落としていく。
人々はアルフェの作った氷の壁に身を潜め、次から次へと地面に叩き付けられる異形に、顔を覆いながら悲鳴を押し殺している。
今は善戦しているとはいえ、楽観は出来ない。これが続けば、必ず体力の限界が来るからだ。魔族はそれを狙っている。下等魔族は知能の欠片もないが、それを生み出す魔族の親玉の狡猾さを考えれば、これだけで攻撃が済むとは思えない。
「……けど、一体なんのために……」
――この学園がなぜ『選ばれた』のか。
周囲の状況の理解と並行して考えを巡らせたその時、黒い影が急接近してくるのがわかった。
「ワタシのリーフに手を出さないで!」
冷たい疾風が駆け抜け、アルフェの氷魔法が翼持つ異形を地面に串刺しにする。デモンズアイが流すようなどろどろとした赤黒い血涙を零し、下等魔族はその場で息絶えた。
「ありがとう、アルフェ」
咄嗟に真なる叡智の書を手にしたがアルフェの攻撃はそれよりも遙かに早かった。
「どういたしまして。ひとまずここは、もう大丈夫かな?」
アルフェが少し無理をした笑顔を見せ、上空の様子を示す。少なくともヴァナベルとヌメリン、ホムの攻撃によってこちらに飛来してきた翼持つ異形の一団は一掃できたようだ。
「おい、無事か、リーフ!?」
ヌメリンが抱えた街灯の上から跳躍したヴァナベルが、飛び降りながらこちらに問いかけてくる。
「おかげさまで」
応えながら氷の壁に身を寄せていた人々の様子を注意深く観察する。魔族の取りこぼしはなく、どうやら無事のようだ。
「それにしても気持ち悪いねぇ~。目玉に直接翼が生えてるし、変な牙はいっぱいあるし~」
「これって魔獣……じゃねぇよな。本でしか見たことねぇけど、これが魔族なのか?」
敵を観察する余裕のなかった二人が、アルフェが倒した一体を見下ろしながら気味悪そうに呟く。ホムが戻って来たのを確認し、僕は翼持つ異形を近くにいた全員に示した。
「これは、翼持つ異形だ。使役式の下等魔族だよ。あのデモンズアイが召喚している」
「ん? 待て。使役式ってことは、コイツに命令してるヤツがいるってことか?」
事の重大さに気づいたヴァナベルが、僕に確かめるように訊いてくる。
「そういうことになるね。それと、あのデモンズアイを倒さない限り、こいつらは際限なく湧き続ける。厄介なのは、こいつよりもレッサーデーモンだ」
「……四つん這いの人間に似た悪趣味な姿の魔族です。脇腹の目玉には毒がありますから、決して攻撃してはなりません」
僕の説明を補うように、ホムが険しい顔で続けてくれる。ヴァナベルたちとは同じ軍事科というだけあり、彼女たちが誤って目に攻撃しないように忠告したのだ。
「わかった。こいつはともかく、レッサーデーモンってヤツの目は狙わねぇよ」
「目玉ほどではないけれど、全身に毒を持つから、遠距離攻撃が有効だろうね。幸か不幸か、まだ街中には溢れていないようだけど……」
辺りを見回しても、レッサーデーモンの気配は感じられない。幾つかの塊になって上空を回っている翼持つ異形が、また増え始めているぐらいだ。まあ、それもかなり問題視しなければならないのだけれど。
「けど、なんでそんなことわかるんだよ?」
「それは……」
「あやつらの知能の欠片もない笑い声は、癇にさわるからな。ギャギャギャっと甲高く喚くから、居所などすぐにわかる」
言いかけた僕の言葉を引き取ったのは、意外なことにハーディアだった。
「あんた詳しいんだな」
「まあな。それより、どうするつもりじゃ? このままでは、いくらわらわとて、ゆっくりカオス焼きを楽しむ場合ではないぞ」
「こっちも焼いてる場合じゃねぇんだよ。けど、腹が減ってるならやるよ!」
昨日ハーディアにお土産を持たせようとしていたくらいには、彼女の食べっぷりを気に入っていたのだろう。ヴァナベルが客に渡すばかりになっていたカオス焼きを素早く取りに戻り、ハーディアに渡す。
「わらわの献上品として受け取ってやろう。有り難く頂戴するぞ」
ヴァナベルの行動が余程嬉しかったのか、ハーディアは屈託のない笑みを浮かべ、カオス焼きを頬張った。
「……で、どうする? ここも安全とまでは言えないよな」
「そうだね。みんなの安全を確保したい。けど、逃げられそうな場所と言えば、講堂以外に思いつかないんだ。そこまでハーディアを連れていってもらえないか?」
緊急時の避難場というものを決めておくべきだったが、今はそんなことを悔いている場合ではない。魔族の襲撃となれば、もう先生方も動いているだろう。人魔大戦中であれば、軍も初動を始めている頃だ。もしかすると、学園内のことを熟知しているプロフェッサーが率いる公安部隊も助けに来てくれるかもしれない。
「……それに異論はねぇけどさ、お前はどうするんだよ、リーフ?」
ヴァナベルの問いかけに僕はアルフェとホムと目を合わせた。
「生徒会として、生徒の安全を確保する必要がある。まずはエステアたちと合流して、方針を固める」
「わかった。じゃあ、なんか決まったら知らせてくれ。オレもいざというとき用に多機能通信魔導器、持ってるからさ」
事前にマリーが支給してくれたのだろう、多機能通信魔導器を示してヴァナベルがにっと笑う。こういう時のヴァナベルの笑みは、強がりなんだろうな。でも、それが僕としても心強い。
「避難誘導を頼んだよ、ヴァナベル、ヌメリン」
「任せて~」
快く避難誘導を引き受けてくれたヴァナベルとヌメリンの隣に、ハーディアが並ぶ。
「怖い思いをさせてごめんね。ワタシたちが必ずなんとかするから無事でいてね、ハーディアちゃん」
「無理はするなよ。わらわは、大抵のことはどうにか出来る。心配するな」
ハーディアは、怯える様子など微塵も見せずに、力強く言い切る。
「ありがとう。その言葉が心強いよ」
僕は三人にそう告げて、アルフェとホムと駆け出した。目指すは生徒会の本部テント。あと少しの距離なのに、逃げ惑う人たちのお陰で辿り着くまでの時間が途方も無く長く感じられた。
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