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第四章 絢爛のスクールフェスタ
第386話 合流の約束
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「まあ、戦わないで強行突破出来ればいいわけだよな。なぁ、ヌメ?」
「そうだけど~。なにか――」
ヴァナベルとヌメリンがなにかを話し合っている。声に耳を澄ませたその直後、最終沈殿池の赤く染まった汚水が、沸騰したかのように激しく沸き立ちはじめた。
「うぉっ!? またレッサーデーモンか!?」
「いや……何か違う……水が渦巻いて……」
血涙をたっぷりと湛えた汚水に目を凝らし、異変の正体を見極めようとしている。
「あ……まさか……っ」
ファラが息を呑む音が聞こえたような気がした。濁流と化して暴れ狂う汚水の中心に、巨大な目玉が現れたのだ。
「……あれは……デモンズアイ!」
その血涙から魔族を生み出すデモンズアイの姿に、ホムがいち早く反応する。直径2mほどのその姿は、大闘技場に浮かんでいたものに比べれば幼体に等しい。だが、汚水に触手のような赤い糸を伸ばしてポンプのように吸い上げている様子を見るに、恐らく最終沈殿池に集まった魔族の肉片や血肉を集め、成長を進めているのかもしれない。
「もしかして、もう転移門が……」
「多分違う。もし転移門が開いているのなら、こんな戦力にならない下等魔族を量産したりしない。今目の前の魔族は、いわばハーディアが倒したデモンズアイの残骸の一部を寄せ集めて動かしているにすぎない」
それでも放っておけば脅威になることはわかっている。光魔法結界アムレートを再度使いたいところだが、日が落ちた今は、それも容易ではない。
「……悪いけどさ、ヌメ、ファラ、オレに付き合ってくれ」
ヴァナベルが剣を構え直し、行く先を阻むレッサーデーモンたちを睨めつける。
「もちろんだよ~」
「にゃはっ! この状況じゃあ、こうするしかないよな」
あの短い時間のうちに相談を終えたのだろう、ヌメリンとファラが快く承諾し、三人の意見はまとまったらしかった。
「なあ、リーフ。悩んでる場合じゃねぇんだよな?」
「なにをするつもりなんだい、ヴァナベル」
状況が飲み込ずに問いかけると、ヴァナベルとヌメリン、ファラはそれぞれにアーケシウスを追い越し、最終沈殿池の方へと進み出た。
「いいか? 作戦はこうだ」
ヴァナベルたちのエーテルを嗅ぎつけたのか、レッサーデーモンたちがざわめき出す。
「オレ達はレッサーデーモンの群れに突っ込んでいくから、その隙をついてお前らはアーケシウスを雷鳴瞬動で射出して、最終沈殿池を越え、一気に奥まで進むんだ。出来るよな、ホム?」
「もちろんです」
ホムが即答し、アルフェも大きく頷く。要するにヴァナベルたちがレッサーデーモンを陽動している間に、アーケシウスを軌道で挟んで射出するという作戦だ。
「アーケシウスを挟む軌道はワタシが武装錬成で造ればいいよね」
「わたくしは、飛雷針の最大出力でアーケシウスを射出させます」
アルフェとホムがそれぞれの役割を確認する。僕は、アーケシウスの左右の腕でアルフェとホムの二人をそれぞれ抱えればいい。作戦としてはなんともシンプルで理に適ったものだが、僕は素直に首を縦に振ることが出来なかった。
「でも、本当にそれでいいのかい? ヴァナベルたちはここに残ることに――」
「囮になるんだから、残んなきゃ意味ねえぇだろ」
僕の不安を見抜いたように、ヴァナベルが歯を見せてにっと笑う。
「それにあのデモンズアイ、ちょっとずつだけど大きくなってんだよ」
ヴァナベルに続いて、ファラが魔眼で見た予兆を話してくれる。それは、僕が先ほど危惧していたものと同じ、デモンズアイの成長を意味していた。
「つーわけだから、あのデモンズアイは倒した方がいいんだろうし、だからって足止め食うのは違うだろ。だから、ここはオレたちに任せて先に進め」
「解毒薬と回復薬もた~っぷり持ってきたし、なんとかなるなる~」
「そうそう。オレら武侠宴舞でチーム組んでたくらいだし、連携はばっちりだからな!」
明るく言うヌメリンに合わせて、ヴァナベルが笑顔を浮かべる。こういうときに笑えるのは、ヴァナベルたちの成長と強さだ。
「武侠宴舞と言えばぁ~、『ベルと愉快な仲間たち』! 満を持しての再結成だねぇ~」
ヌメリンが持ち出した名前に、ヴァナベルが咽せたように咳込む。
「その名前、まだ使う気か!?」
「ず~っと使うつもりだよぉ~」
嬉しそうなヌメリンの答えを聞いて、ファラが噴き出した。
「にゃははははっ! まあ、特徴を捉えてる名前だもんな」
「……ったく、変なの気に入ったもんだぜ」
そう言いながらもヴァナベルも満更でもなさそうな笑顔だ。
二人の絆はファラや僕たちにも繋がっている。仲間という言葉の大切さを、ヴァナベルはこの学園に入ってから改めて実感しているのだろう。それは彼女に頼まれてクラス委員長になった僕も、同じだ。
「ギャギャッ! ギャッ!」
話の内容を理解する知能はないはずだが、レッサーデーモンが反応して嫌な笑い声を上げる。
「ハッ! てめぇらに笑われる筋合いはねぇよ」
今までほとんど沈黙を保っていたレッサーデーモンの突然の反応に、ヴァナベルが険しい顔つきに戻り、剣を構えた。ファラも両手の剣を、ヌメリンは巨大な戦斧を構えてレッサーデーモンへ飛びかかるタイミングを見計らう。
「みんな、ちょっと待って――」
今にも飛び出して行きそうな三人を呼び止めたのはアルフェだ。
「絶対無事でまた会えるように、ワタシからおまじない」
そう言ってアルフェは無詠唱で三人の武器に炎属性付与を施す。
「最初からそのつもりだぜ。速攻で片付けてすぐに追いついてやる。イグニスの野郎には一発入れないと気が済まないからなぁ!」
炎を宿した剣を見つめ、ヴァナベルが好戦的な笑みを浮かべる。
「よし、行くぜ!」
ヴァナベルはヌメリンとファラに声をかけると、真っ先に最終沈殿池のレッサーデーモンたちの前へと躍り出た。
「ここで通路を塞ぐだけじゃねぇんだろ? かかってこいよ!」
「にゃはっ! あたしが全部撃破してやるけどな!」
「ヌメもやるよぉ~! よいしょぉ~!」
囮役を意識して、ヴァナベルたちが派手に暴れ回っている。引きつけられ、飛びかかってくるレッサーデーモンを挑発しながら、ヴァナベルとヌメリン、ファラは左に続く横道に入っていく。
足音とレッサーデーモンの絶叫、壁になにかが叩き付けられる音が響き、それらが遠ざかっていく。そうして視界から完全にレッサーデーモンの姿は消え去り、最終沈殿池には誰もいなくなった。
「……今のうちに行こう」
「うん。我が元に来たれ、軌道――」
僕の合図で、アルフェがアーケシウスを持ち上げる軌道を出現させる。アルフェとホムはそれぞれアーケシウスの腕の中に収まるのを待ち、僕はしっかりと二人を抱えた。
「参ります。雷鳴瞬動!!」
ホムが飛雷針を握りしめ、軌道を強く蹴り出す。飛雷針の最大出力の雷魔法を受けた軌道から、アーケシウスが凄まじい速さで射出された。
「ギャッ! ギャーギャー!!」
通路の向こうでレッサーデーモンの叫び声が聞こえる。恐らく雷鳴瞬動発動時のエーテルに反応したのだろうが、僕たちが向こう側に到達する方が早い。
「土よ。我が命により隆起せよ――クレイウォール」
アーケシウスが着地すると同時に、アルフェが最終沈殿池と大闘技場を繋ぐ通路を土の壁で封鎖する。
未熟な幼体に近いレッサーデーモンの足止めにはなるが、ヌメリンの怪力なら一撃で破壊出来るほどの強度だ。
「進もう。イグニスはもうすぐそこだ」
「必ず、エステアを救い出しましょう」
アーケシウスの腕から降りたホムが、手のひらを拳で叩く。
「……微かにエステアさんのエーテルを感じる……。多分、もうすぐそこだよ」
アルフェの浄眼が薄暗い地下通路の中で一際強い輝きを見せている。エステアを必ず見つけ出し、救い出そうとするアルフェの気持ちが浄眼に集中しているのだろうと思った。
「どんな罠があるかわからない。でも、ヴァナベルたちが必ず追いついてくれる。信じて進もう」
自分に言い聞かせるように言葉にした僕は、アーケシウスの目で魔石灯の乏しい地下通を照らした。デモンズアイの流した血涙で穢された瓦礫が積み上がり、戦いの爪痕が生々しく残されたその場所から、大闘技場地下に続く細い道が、大きく口を開ける闇の向こうに続いていた。
「そうだけど~。なにか――」
ヴァナベルとヌメリンがなにかを話し合っている。声に耳を澄ませたその直後、最終沈殿池の赤く染まった汚水が、沸騰したかのように激しく沸き立ちはじめた。
「うぉっ!? またレッサーデーモンか!?」
「いや……何か違う……水が渦巻いて……」
血涙をたっぷりと湛えた汚水に目を凝らし、異変の正体を見極めようとしている。
「あ……まさか……っ」
ファラが息を呑む音が聞こえたような気がした。濁流と化して暴れ狂う汚水の中心に、巨大な目玉が現れたのだ。
「……あれは……デモンズアイ!」
その血涙から魔族を生み出すデモンズアイの姿に、ホムがいち早く反応する。直径2mほどのその姿は、大闘技場に浮かんでいたものに比べれば幼体に等しい。だが、汚水に触手のような赤い糸を伸ばしてポンプのように吸い上げている様子を見るに、恐らく最終沈殿池に集まった魔族の肉片や血肉を集め、成長を進めているのかもしれない。
「もしかして、もう転移門が……」
「多分違う。もし転移門が開いているのなら、こんな戦力にならない下等魔族を量産したりしない。今目の前の魔族は、いわばハーディアが倒したデモンズアイの残骸の一部を寄せ集めて動かしているにすぎない」
それでも放っておけば脅威になることはわかっている。光魔法結界アムレートを再度使いたいところだが、日が落ちた今は、それも容易ではない。
「……悪いけどさ、ヌメ、ファラ、オレに付き合ってくれ」
ヴァナベルが剣を構え直し、行く先を阻むレッサーデーモンたちを睨めつける。
「もちろんだよ~」
「にゃはっ! この状況じゃあ、こうするしかないよな」
あの短い時間のうちに相談を終えたのだろう、ヌメリンとファラが快く承諾し、三人の意見はまとまったらしかった。
「なあ、リーフ。悩んでる場合じゃねぇんだよな?」
「なにをするつもりなんだい、ヴァナベル」
状況が飲み込ずに問いかけると、ヴァナベルとヌメリン、ファラはそれぞれにアーケシウスを追い越し、最終沈殿池の方へと進み出た。
「いいか? 作戦はこうだ」
ヴァナベルたちのエーテルを嗅ぎつけたのか、レッサーデーモンたちがざわめき出す。
「オレ達はレッサーデーモンの群れに突っ込んでいくから、その隙をついてお前らはアーケシウスを雷鳴瞬動で射出して、最終沈殿池を越え、一気に奥まで進むんだ。出来るよな、ホム?」
「もちろんです」
ホムが即答し、アルフェも大きく頷く。要するにヴァナベルたちがレッサーデーモンを陽動している間に、アーケシウスを軌道で挟んで射出するという作戦だ。
「アーケシウスを挟む軌道はワタシが武装錬成で造ればいいよね」
「わたくしは、飛雷針の最大出力でアーケシウスを射出させます」
アルフェとホムがそれぞれの役割を確認する。僕は、アーケシウスの左右の腕でアルフェとホムの二人をそれぞれ抱えればいい。作戦としてはなんともシンプルで理に適ったものだが、僕は素直に首を縦に振ることが出来なかった。
「でも、本当にそれでいいのかい? ヴァナベルたちはここに残ることに――」
「囮になるんだから、残んなきゃ意味ねえぇだろ」
僕の不安を見抜いたように、ヴァナベルが歯を見せてにっと笑う。
「それにあのデモンズアイ、ちょっとずつだけど大きくなってんだよ」
ヴァナベルに続いて、ファラが魔眼で見た予兆を話してくれる。それは、僕が先ほど危惧していたものと同じ、デモンズアイの成長を意味していた。
「つーわけだから、あのデモンズアイは倒した方がいいんだろうし、だからって足止め食うのは違うだろ。だから、ここはオレたちに任せて先に進め」
「解毒薬と回復薬もた~っぷり持ってきたし、なんとかなるなる~」
「そうそう。オレら武侠宴舞でチーム組んでたくらいだし、連携はばっちりだからな!」
明るく言うヌメリンに合わせて、ヴァナベルが笑顔を浮かべる。こういうときに笑えるのは、ヴァナベルたちの成長と強さだ。
「武侠宴舞と言えばぁ~、『ベルと愉快な仲間たち』! 満を持しての再結成だねぇ~」
ヌメリンが持ち出した名前に、ヴァナベルが咽せたように咳込む。
「その名前、まだ使う気か!?」
「ず~っと使うつもりだよぉ~」
嬉しそうなヌメリンの答えを聞いて、ファラが噴き出した。
「にゃははははっ! まあ、特徴を捉えてる名前だもんな」
「……ったく、変なの気に入ったもんだぜ」
そう言いながらもヴァナベルも満更でもなさそうな笑顔だ。
二人の絆はファラや僕たちにも繋がっている。仲間という言葉の大切さを、ヴァナベルはこの学園に入ってから改めて実感しているのだろう。それは彼女に頼まれてクラス委員長になった僕も、同じだ。
「ギャギャッ! ギャッ!」
話の内容を理解する知能はないはずだが、レッサーデーモンが反応して嫌な笑い声を上げる。
「ハッ! てめぇらに笑われる筋合いはねぇよ」
今までほとんど沈黙を保っていたレッサーデーモンの突然の反応に、ヴァナベルが険しい顔つきに戻り、剣を構えた。ファラも両手の剣を、ヌメリンは巨大な戦斧を構えてレッサーデーモンへ飛びかかるタイミングを見計らう。
「みんな、ちょっと待って――」
今にも飛び出して行きそうな三人を呼び止めたのはアルフェだ。
「絶対無事でまた会えるように、ワタシからおまじない」
そう言ってアルフェは無詠唱で三人の武器に炎属性付与を施す。
「最初からそのつもりだぜ。速攻で片付けてすぐに追いついてやる。イグニスの野郎には一発入れないと気が済まないからなぁ!」
炎を宿した剣を見つめ、ヴァナベルが好戦的な笑みを浮かべる。
「よし、行くぜ!」
ヴァナベルはヌメリンとファラに声をかけると、真っ先に最終沈殿池のレッサーデーモンたちの前へと躍り出た。
「ここで通路を塞ぐだけじゃねぇんだろ? かかってこいよ!」
「にゃはっ! あたしが全部撃破してやるけどな!」
「ヌメもやるよぉ~! よいしょぉ~!」
囮役を意識して、ヴァナベルたちが派手に暴れ回っている。引きつけられ、飛びかかってくるレッサーデーモンを挑発しながら、ヴァナベルとヌメリン、ファラは左に続く横道に入っていく。
足音とレッサーデーモンの絶叫、壁になにかが叩き付けられる音が響き、それらが遠ざかっていく。そうして視界から完全にレッサーデーモンの姿は消え去り、最終沈殿池には誰もいなくなった。
「……今のうちに行こう」
「うん。我が元に来たれ、軌道――」
僕の合図で、アルフェがアーケシウスを持ち上げる軌道を出現させる。アルフェとホムはそれぞれアーケシウスの腕の中に収まるのを待ち、僕はしっかりと二人を抱えた。
「参ります。雷鳴瞬動!!」
ホムが飛雷針を握りしめ、軌道を強く蹴り出す。飛雷針の最大出力の雷魔法を受けた軌道から、アーケシウスが凄まじい速さで射出された。
「ギャッ! ギャーギャー!!」
通路の向こうでレッサーデーモンの叫び声が聞こえる。恐らく雷鳴瞬動発動時のエーテルに反応したのだろうが、僕たちが向こう側に到達する方が早い。
「土よ。我が命により隆起せよ――クレイウォール」
アーケシウスが着地すると同時に、アルフェが最終沈殿池と大闘技場を繋ぐ通路を土の壁で封鎖する。
未熟な幼体に近いレッサーデーモンの足止めにはなるが、ヌメリンの怪力なら一撃で破壊出来るほどの強度だ。
「進もう。イグニスはもうすぐそこだ」
「必ず、エステアを救い出しましょう」
アーケシウスの腕から降りたホムが、手のひらを拳で叩く。
「……微かにエステアさんのエーテルを感じる……。多分、もうすぐそこだよ」
アルフェの浄眼が薄暗い地下通路の中で一際強い輝きを見せている。エステアを必ず見つけ出し、救い出そうとするアルフェの気持ちが浄眼に集中しているのだろうと思った。
「どんな罠があるかわからない。でも、ヴァナベルたちが必ず追いついてくれる。信じて進もう」
自分に言い聞かせるように言葉にした僕は、アーケシウスの目で魔石灯の乏しい地下通を照らした。デモンズアイの流した血涙で穢された瓦礫が積み上がり、戦いの爪痕が生々しく残されたその場所から、大闘技場地下に続く細い道が、大きく口を開ける闇の向こうに続いていた。
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