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第1話 旅立ち ノ23
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仙花が口にした「座頭市」の名は、近頃水戸藩周辺の地域に出没している盲目の旅人のものである。
西山御殿まで伝わった風説によれば、盲目でありながら杖を突きつつ徒歩で一人旅をしており、見たものは僅かであったが、恐ろしく剣の腕が立つ者らしい。
これは常に世間の情報を集めている光圀から仙花が興味深く聞いたものだった。
「仙花。雪舟丸は巷で噂の座頭市とは何の関連もない侍じゃ。それにその男の眠りを妨げてはならぬ。起こさずとも旅は出来るから安心せい」
「何を言っておるのだじっさまよ。儂らの旅は馬を使わぬひざくりげだぞ。寝ながらどやって旅をするというのだ」
仙花の疑問はもっともであろう。
眠ったまま旅路を歩む輩が果たしてこの世に存在するのだろうか...
「まぁ雪舟丸のことはしばし忘れよ。心配せんでも旅が始まれば直ぐに分かるというものだ。それよりお主の準備は万全なんじゃろうな?」
「おっと如何!いろいろ準備せねばならんかった!じっさま、また後でのう」
仙花は慌てふためき部屋を出て行った。
バタバタではあったが皆の準備が整い、いよいよ出発の時となる。
西山御殿の庭には旅をする仙花、蓮左衞門、お銀、九兵衛、やはり眠り続けている雪舟丸の五人。
それに見送る側の光圀、絹江、滝之助の三人が顔を揃えた。
外は春の陽気で少し暖かくなりつつあり、天は旅路の門出を祝うかのように晴々としている。
「よしよし、皆揃ったようじゃな」
頗る出発を嬉しそうにしている仙花を筆頭に、他の四人も至って元気そうに柔かな顔つきをしている。昨夜呑み比べで大量の酒を倒れるほど呑んだお銀と蓮左衞門は、九兵衛特製の薬のお陰もあってかすっかり体調が良くなり、九兵衛の薬師としての腕前を褒め称えたものだった。
光圀の意向で六年ものあいだ西山御殿の庭より先にほとんど出ることが叶わなかった仙花。兎に角早く出発したいのか右手を挙げ軽く振って言う。
「では行って参るぞ!」
「いやいや待て待て。まだお主に渡すものがあるんじゃ。気持ちは分かるがそう慌てるでない」
今にも歩き出しそうだった彼女を焦る光圀が引き留めた。
そして懐から大事そうに何かを取り出し仙花へ差し出す。
「ん?これはなんぞ?」
受け取った仙花がすぐさま問う。
差し出された代物は木製の薬入れのような形をしており、全体的に光沢のある黒色に金色の綺麗な模様が施されていた。
「これはのう。徳川の家紋が入った『印籠』というものじゃ。この世に二つとない特別な代物でのう。これを人に見せればお主が徳川家の一族であることの証明にもなるのじゃよ」
西山御殿まで伝わった風説によれば、盲目でありながら杖を突きつつ徒歩で一人旅をしており、見たものは僅かであったが、恐ろしく剣の腕が立つ者らしい。
これは常に世間の情報を集めている光圀から仙花が興味深く聞いたものだった。
「仙花。雪舟丸は巷で噂の座頭市とは何の関連もない侍じゃ。それにその男の眠りを妨げてはならぬ。起こさずとも旅は出来るから安心せい」
「何を言っておるのだじっさまよ。儂らの旅は馬を使わぬひざくりげだぞ。寝ながらどやって旅をするというのだ」
仙花の疑問はもっともであろう。
眠ったまま旅路を歩む輩が果たしてこの世に存在するのだろうか...
「まぁ雪舟丸のことはしばし忘れよ。心配せんでも旅が始まれば直ぐに分かるというものだ。それよりお主の準備は万全なんじゃろうな?」
「おっと如何!いろいろ準備せねばならんかった!じっさま、また後でのう」
仙花は慌てふためき部屋を出て行った。
バタバタではあったが皆の準備が整い、いよいよ出発の時となる。
西山御殿の庭には旅をする仙花、蓮左衞門、お銀、九兵衛、やはり眠り続けている雪舟丸の五人。
それに見送る側の光圀、絹江、滝之助の三人が顔を揃えた。
外は春の陽気で少し暖かくなりつつあり、天は旅路の門出を祝うかのように晴々としている。
「よしよし、皆揃ったようじゃな」
頗る出発を嬉しそうにしている仙花を筆頭に、他の四人も至って元気そうに柔かな顔つきをしている。昨夜呑み比べで大量の酒を倒れるほど呑んだお銀と蓮左衞門は、九兵衛特製の薬のお陰もあってかすっかり体調が良くなり、九兵衛の薬師としての腕前を褒め称えたものだった。
光圀の意向で六年ものあいだ西山御殿の庭より先にほとんど出ることが叶わなかった仙花。兎に角早く出発したいのか右手を挙げ軽く振って言う。
「では行って参るぞ!」
「いやいや待て待て。まだお主に渡すものがあるんじゃ。気持ちは分かるがそう慌てるでない」
今にも歩き出しそうだった彼女を焦る光圀が引き留めた。
そして懐から大事そうに何かを取り出し仙花へ差し出す。
「ん?これはなんぞ?」
受け取った仙花がすぐさま問う。
差し出された代物は木製の薬入れのような形をしており、全体的に光沢のある黒色に金色の綺麗な模様が施されていた。
「これはのう。徳川の家紋が入った『印籠』というものじゃ。この世に二つとない特別な代物でのう。これを人に見せればお主が徳川家の一族であることの証明にもなるのじゃよ」
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