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華麗に舞う剣士

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「さっきの技は…」

 わたしは今、冷泉の放った技を目の当たりにして動揺している。
 その技が苦労した末にこの前習得したばかりの[三段突き]だったからだ。

 三段突きは目にも止まらぬ速さで突きを3回繰り出すという技で、わたしの実父である沖田総司が得意とする技でもあった。

「うむ、今のはなかなか鋭い突きだったぞ」

「余裕ですね。決めるつもりで放ったのに…」

 師匠が薄く笑みを浮かべ言うと、冷泉が無表情のままそう返した。

「次はこちらから行かせてもらおう」

 相変わらず構えを取らない師匠が片手で竹刀を振り回し、初動の分かりづらい速く力強い連続攻撃を仕掛ける。

 並みの剣士ならば一撃目であっさり終わっているだろう。

 しかし、冷泉はその連続攻撃を流れるような足さばきと巧みな竹刀の動きでかわし続ける。

「なんて綺麗な動き…」

 二人による激しい攻防なのに、わたしはその華麗とも言える冷泉の動きだけを目で追い見惚れていた。

 攻撃を避け続けるその姿は、まるで日本舞踊を舞っているようにさえ見える。

「本当、美しいですねぇ。冷泉様の動き」

 師匠にぞっこんの真琴さんでも冷泉の動きに見惚れるほどだった。

 だけど、師匠の息もつかせぬ連続攻撃により、冷泉の表情に焦りのようなものが見え始める。

 あれだけ攻められたら、たぶんわたしでも防戦一方になってしまうだろう…

「くっ!?」

 冷泉がじりじりと後退させられ、遂に道場の壁に背中がつくほどに追い詰められた。

 そこへ冷泉の喉元を狙った師匠の鋭い突きが襲う! 

 だが、竹刀の先は喉に届く寸前で止められた。

「勝負ありだな。冷泉樹」

「ま、参りました…本当に強いんですね。奏さん」

「だから言ったであろう。俺は最強だと」

「はい、その言葉に嘘偽りは無さそうです」

 二人の試合は時間的に短かったかも知れないけれど、今まで見て来た試合の中でも最高に見応えがあった。

「お疲れ様でした~奏様~♪」

 真琴さんが満面の笑顔でタオルを手に持ち、汗だくになっている師匠の元へ駆け寄る。

 師匠があれだけの汗を掻くなんて…それほど余裕があった訳では無いのかも…

 負けた冷泉の方はというと、壁にもたれて座り込みヘトヘトになった御様子。

 わたしは道場の隅に重ねて置いてあるタオルから一枚抜き取り、冷泉の方へ歩み寄よって手渡した。

「なかなか良い試合でしたよ。これで汗を拭いてください」

「ん、ああ。ありがとう」

 っ!?れ、冷泉がっ!?

 あの無礼者で冷静沈着で無表情な殿方が、ニコリとした笑顔になりお礼を言ったのだ。

 不覚にも?わたしの頬は火照り、胸が高鳴ってしまった…
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