沖田総司の忘れ形見は最高の恋がしたい! 第一部

流川おるたな

文字の大きさ
51 / 51

第一部最終話

しおりを挟む
 サッと人力車に乗り込むと、伊達さんが不気味な笑みを浮かべて言う。

「お嬢様、今日は時間が無いんで飛ばしますよ~。へへへ、しっかり掴まっててくださいね!」

「だ、伊達さっ!?どわっ!?」

 わたしが「ほどほどに」といい終える前に、「ドヒュン!」と音を立てて人力車ならぬ猛牛力車は動き出してしまった!

「ドドドドドドドド!…キキキ――――ッ!!!」

 普通では考えられない速さで猛牛力車は走りに走り、学校の校門前に急ブレーキで到着。

 鬼のような運転によりガクガクした足でゆるりと人力車から降り、回っている目で周りを眺めても千歳の姿はまだ無かった。
 
「だ、伊達さん。あ、ありがとう…お陰で間に合ったみたい…」
 
「へへへ…じゃあ約束通りここで5時に待ってますんで!」
 
 伊達さんはそう言うと、あっという間に遠くの方へ走り去って行った。
 
 程なくして千歳の乗った人力車が到着する。
 
「お待たせ司~、待った?」
 
「いいえ、わたしもさっき着いたばかりよ。じゃあ行きましょうか」
 
 こうして二人で並んで話をしながら歩き、樹様の居る学校裏のお屋敷へ着いたのだった。
 
 樹様の言っていた通り屋敷の外観はかなり古びていたけれど、高い敷居に囲まれており深い歴史を感じさせる様相を呈していた。
 
「な、何だか敷居が高くて入り辛いわね…」
 
「そんなに固くならないの。こういう時は勢いよ、勢い。さあ行くわよ」
 
 屋敷の門前で臆すわたしの腰にスッと手を当てて押しながら千歳が門を開ける。
 
 門を潜ると目の前には手入れの施された広い和風の庭があり、二階建ての屋敷の隣には平屋の道場が在った。

 道場の近くまで行くと殿方が気合を発する声が聴こえ、開放されている入り口から二人でそっと中を覗く。

 中では樹様と門下生が一対一の練習試合を行っいる際中で、その周りには20人くらいの門下生が正座しながら二人の試合を観ていた。

 樹様が門下生を竹刀で一刀に伏したあと、わたし達の存在に気付き門下生に指示を与えこちらに歩いて来る。
 
「やあ、司さん。良く来てくれたね。そちらの方は?」
 
 樹様は突然の来訪に驚いた風でもなく、ニコリとして気さくに声を掛けてくれた。
 
「すみません、突然来てしまって。彼女はわたしの親友で…」
 
「初めまして冷泉様。穂波千歳と申します」
 
 千歳がそう言ってお辞儀をすると、樹様も「よろしく」と会釈して挨拶を交わした。

 そして樹様がわたしの方を見て言う。
 
「司さん。今日は試合をする為に来たんだよね?貴方との試合を門下生への手本として見せたいんだけど直ぐに用意できるかな?」
 
 「違います樹様!わたしが今日訪れたのは貴方に逢うためであって、試合は付録のようなものなんです!」などとは当然言い切れず…
 
「も、勿論大丈夫です!道着もこの通り準備してありますので」
 
「流石は司さん。じゃあ、あそこの部屋で着替えて来てくれるかな?」
 
「は、はい!」
 
 な、なんだこの意図せぬ急展開は!?ここに至るまでの不安が完全に無くなったのは良しとして、いきなり試合をすることになってしまった。

 でもやると決めたからには情けない姿は見せられないし負けたくもない。
 わたしは指定された部屋で道着に着替えながら集中力を高めていく。
 
 着替え終わり道場に向かうと、樹様は道場の中央に正座をして眼を閉じて待っていた。
 集中力が高まり極まったわたしは、静かに樹様の前に移動し声を掛ける。
 
「お待たせしました。いつでも始められます」
 
 樹様が瞼を開き竹刀を右手に持ってスーッと立ち上がり口を開く。
 
「お互い手加減無しの真剣勝負ということで…いざ、尋常に!」
 
「もちろん、望むところです!」
 
 互いに中段の構えを取り、張り詰めた空気の中、目線を合わせて様子を窺う…

 


 こうしてわたしは初恋の相手とじゃれ合うでもなく、真剣勝負をすることになったのだけれど、この続きはまたいつの日かお話しさせて頂こうかと存じます。


 沖田総司の忘れ形見は最高の恋がしたい!

 第一部 完
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

黄泉がえり陽炎姫は最恐魔王に溺愛される

彪雅にこ
恋愛
「ああ、私、とうとう死んでしまうのね…」 侯爵令嬢フェリシアは、命の危機に瀕していた──。 王太子の婚約者だったフェリシアは、何者かの手にかかり、生死の境を彷徨い黄泉へと渡りかける。奇跡の生還を果たしたものの、毒の後遺症で子を成せなくなったと診断され、婚約は破棄に。陽炎姫と呼ばれる日陰の存在となっていた。 まるで邸を追い出されるかのように隣国の好色伯爵の元へ嫁がされる途中で馬車が暴漢に襲われ、再び命の危険に晒されたフェリシアを救ったのは、悪魔のような山羊の頭蓋骨の面を被った魔王だった。 人々から最恐と怖れられる魔王は、なぜフェリシアを助けたのか…? そして、フェリシアを黄泉へと送ろうとした人物とは? 至宝と称えられながらも表舞台から陽炎のように消えた侯爵令嬢と、その強大すぎる魔力と特異な容姿により魔王と恐れられる公爵の、恋と成長の物語。 表紙は友人の丸インコさんが描いてくださいました!感謝♡

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日7時•19時に更新予定です。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

処理中です...