一輪の廃墟好き 第一部

流川おるたな

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第5話 フィガロ

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 僕は微糖のホットコーヒーを注いだコーヒーカップを口に運び、一口含み喉を通した後で未桜の質問に答える。

「その通りだが...未桜、しっかりと準備はして来たのか?今日探索する廃墟は森の中だぞ」

 現在の季節は桜らの咲き誇った春。

 パッと未桜を見て、いつもと変わらぬ黄緑のワンピース姿に違和感を覚えた。

「心配ご無用!森が険しかった時用に、ちゃぁんとジャージも準備してあるから♪」
 
 未桜はそう言うと、背負って来た茶色のリュックから赤と白の混じったジャージを取り出して僕に見せた。

「うん、なら良し。コーヒーを飲み終えたらすぐに出発するぞ」

「アイアイサーッ!」

 未桜は古臭い言葉で応じ、敬礼のポーズをとっておどけて見せた。



 事務所のドアを開けて外へ出ると、5階建ての廃ビルの屋上だけに多少は街並みを眺めることができる。

 もちろん周囲にはこの廃ビルよりも高いビルがちらほら建っているため、360度綺麗に眺められるわけではないが、気分転換をするのには十分満足できるレベルだと断言しても良いだろう。

 僕が廃墟となった家を借りる際には、屋上の排水管の入り口をゴミが堰き止め、雨水が上手くはけずにとんでもない事態となっていた。
 多くは求めないが幾分かは快適な暮らしを求めた僕は、掃除道具を持ち込み体力が尽きるまで一日がかりで綺麗にしたものだった。

 因みにこの廃ビルには昇降機、いわゆるエレベーターなどあるはずもなく、各階への昇り降りは全て鉄製の外階段を使用しなければならない。

 マイナスではなく普通に考えて不便ではあるけれど、日常的に運動をしない僕からすれば、生活する上で強制的に課される階段の昇り降りは丁度良いのである。

 廃ビルの1階は車の駐車スペースとなっていて、車が5、6台止められる面積があるところ、僕の愛車である日産製の中古車フィガロ(モスグリーン)だけがポツンと駐車してある。

 フィガロはかなり古い限定車だけに故障をきたした場合、部品を取り寄せるのに時間がかかる上、修理代も結構な額を取られてしまうけれど、モダンな車体のフォルムと車内のデザインに僕の心は奪われてしまったのだ。
 
 狭い車内の後部座席に二人の荷物を置き、運転席に僕、助手席に未桜といった具合で乗り込んだ。

 最近の車の主流は車内の空間が広く、ゆったりできることが好まれる風潮にある。
 僕の愛車はそんな主流に反して車内が殊の外狭い。
 幸いにして僕の身長が170cm、未桜が160cmと二人とも高身長ではないから天井に頭が付いてしまうこともなく、快適とはいかないまでもドライブを楽しむことに不具合などなかった。
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