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第10話 亀の如く
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「ふぅ、三時間ぶっ通しの運転は流石に堪えるな」
程なくして村の中心部の片隅に在る民宿むらやどの駐車場に辿り着き、僕はホッとした気持ちでシートベルトを外し一息ついた。
「すっごーーーい!ほぼ完全木造の古民家!歴史を感じちゃうなぁ...」
車の窓を閉めて置いて良かった。
と、思うほどの大きな声を張り上げ感動を表現する未桜。
「未桜、感動するのは構わないがさっさと後ろの荷物を持って外へ出てくれないか?」
「あっごめんごめん、分かった!それと長時間の運転お疲れ様でした~♪」
心が救われた。
僕の助手には、長時間運転して来た者に対して感謝の念は無いのかと心配しそうになったところだ。
僕と未桜は車から降り、改めて民宿むらやどを眺めると、昭和どころか明治時代に建てられたような歴史の趣を感じる。ノスタルジックな気分や感覚と云ったところだな...
未桜が先行して玄関入り口の戸に手をかけ開けると、古びた戸のレールから「ガラガラ」と音が上がった。
「民宿」というのは普通の民家にちょっと手を加えただけのものも多く、普通の民家と同様にホテルや旅館と比べると玄関は殊の外狭い。
僕達が訪れ泊まる予定のこの民宿の玄関も普通の民家の玄関とさほど大差なかった。
玄関に立ち数秒経っても誰かが来る気配もなく、日頃から積極的な未桜がよく通る元気な声で呼びかける。
「すっみませ~ん!本日予約した荒木咲ともうしま~す!どなたかいらっしゃいませんか~!」
「...................」
呼びかけたあとも数秒の時間が流れたが。
「ふぁ~い...ただいまぁ...」
奥からかなりの老齢を感じさせる女性のしゃがれ声が耳に届いく。
暫く待つと、右側の奥へと伸びる木製の板張りの廊下を、恐ろしくゆっくな速度で近づく背丈の低い老婆の姿が視界に入った。
長いあいだ着込んでいるせいか、その老婆の着用する着物は酷く色褪せて見える。
「ありゃぁ...こんな村に若いカップルさんかえぇ、さぞやお疲れでしょうに、いま部屋まで案内しますけぇ...」
頭が隈なく白髪で皺くちゃな顔をした老婆は開口一番そう言った。
僕は若いカップルという言葉に少々引っかかったものの、運転の疲れから「いえ違います」と返すのも面倒だったので適当な挨拶で済ませた。
そろりと踵を返した老婆が僕達を部屋へ案内しようと先導してくれたのだが...
遅い...遅すぎる。
老婆の歩く速度は想像を超えて遅く、倫理的に口に出すことはなかったけれど、歩幅も極端に短く、まるで平常時の亀の歩行を彷彿させた。
僕と未桜は忍耐をもってグッと我慢しつつ、急勾配の階段を上って二階の部屋へと案内されたものである。
程なくして村の中心部の片隅に在る民宿むらやどの駐車場に辿り着き、僕はホッとした気持ちでシートベルトを外し一息ついた。
「すっごーーーい!ほぼ完全木造の古民家!歴史を感じちゃうなぁ...」
車の窓を閉めて置いて良かった。
と、思うほどの大きな声を張り上げ感動を表現する未桜。
「未桜、感動するのは構わないがさっさと後ろの荷物を持って外へ出てくれないか?」
「あっごめんごめん、分かった!それと長時間の運転お疲れ様でした~♪」
心が救われた。
僕の助手には、長時間運転して来た者に対して感謝の念は無いのかと心配しそうになったところだ。
僕と未桜は車から降り、改めて民宿むらやどを眺めると、昭和どころか明治時代に建てられたような歴史の趣を感じる。ノスタルジックな気分や感覚と云ったところだな...
未桜が先行して玄関入り口の戸に手をかけ開けると、古びた戸のレールから「ガラガラ」と音が上がった。
「民宿」というのは普通の民家にちょっと手を加えただけのものも多く、普通の民家と同様にホテルや旅館と比べると玄関は殊の外狭い。
僕達が訪れ泊まる予定のこの民宿の玄関も普通の民家の玄関とさほど大差なかった。
玄関に立ち数秒経っても誰かが来る気配もなく、日頃から積極的な未桜がよく通る元気な声で呼びかける。
「すっみませ~ん!本日予約した荒木咲ともうしま~す!どなたかいらっしゃいませんか~!」
「...................」
呼びかけたあとも数秒の時間が流れたが。
「ふぁ~い...ただいまぁ...」
奥からかなりの老齢を感じさせる女性のしゃがれ声が耳に届いく。
暫く待つと、右側の奥へと伸びる木製の板張りの廊下を、恐ろしくゆっくな速度で近づく背丈の低い老婆の姿が視界に入った。
長いあいだ着込んでいるせいか、その老婆の着用する着物は酷く色褪せて見える。
「ありゃぁ...こんな村に若いカップルさんかえぇ、さぞやお疲れでしょうに、いま部屋まで案内しますけぇ...」
頭が隈なく白髪で皺くちゃな顔をした老婆は開口一番そう言った。
僕は若いカップルという言葉に少々引っかかったものの、運転の疲れから「いえ違います」と返すのも面倒だったので適当な挨拶で済ませた。
そろりと踵を返した老婆が僕達を部屋へ案内しようと先導してくれたのだが...
遅い...遅すぎる。
老婆の歩く速度は想像を超えて遅く、倫理的に口に出すことはなかったけれど、歩幅も極端に短く、まるで平常時の亀の歩行を彷彿させた。
僕と未桜は忍耐をもってグッと我慢しつつ、急勾配の階段を上って二階の部屋へと案内されたものである。
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