11 / 168
第11話 い草の香り
しおりを挟む
歳よりが上るには明らかにきついであろう急勾配な階段を、老婆はなぜか壁に設置された手摺を使うことなく上っていく。
若い僕達ですら手摺に掴まらなければきついというのに。
足腰にガタがきている年齢だと思うのだが...やはり遅い...
気の遠くなるほどの不毛な時間が過ぎ、ようやくにして案内する老婆の足が止まった。
玄関で部屋の場所を教えてもらった方が遥かに良かった気がすが、どう考えても後の祭りである。
「こちらがお二人の部屋でございます。お茶が置いてありますけぇ、ご自由にお飲みくださいぃ。では、ごゆっくりぃ」
「ありがとうございます」
僕が軽く会釈して礼を言うと、玄関で見た時より白い顔をした老婆は薄らと笑みを浮かべ、上った時よりさらにゆっくりとした速度で階段を降りていった...
僕達の案内された部屋は階段を上って左へ折れ、短い廊下を数歩進んだ突き当たりに位置し、他には通った廊下の右手と、僕達の部屋とは真逆の方向に客室の入り口らしき襖がある。
「三部屋か...まぁ民宿だから部屋の数はこんなものだろうな」
「一輪、取り敢えず中に入ろうよ」
「あっ、ああ、入ろうか」
なかなか部屋へ入ろうとしない僕に未桜が声をかけ、目の前にある意外にも子綺麗な襖を開ける。
開けた襖には「参ノ間」と書かれたカード貼られており、他に「壱ノ間」と「弍ノ間」が存在することを裏付けた。
部屋へ入った未桜の第一声。
「一輪!畳だよ畳!...うん!この感触好きなんだよね~、久しぶりに踏んだなぁ♪それにこの『い草』の香りがたまんない♪」
「あぁ『い草』の香りは僕も好きだよ。なんか落ち着くんだよな」
畳一つでここまで喜ぶとは...未桜が最近の女子とは一味違う一面をまた見せた。
ところで「畳」といえば、時代の流れからその需要は残念なことに年々減少しているらしく、その影響から今や「畳屋」なる専門店は絶滅危惧種と云っても過言ではない。
僕は年齢こそ若いが、日本の古くから伝わる風習や伝説、日本独自の技術で生み出された生産物などを好む傾向にある。
出来ることなら、そういった日本固有の文化はいつまでも残って欲しいものだ。
「空気うんま~!古い建物も結構残ってるみたいだよ一輪♪」
畳で機嫌を良くした未桜が、外へ繋がる部屋の引戸を開け僕に伝えた。
「そっかそっか。未桜、お茶を一杯飲んだら外で腹ごしらえして豆苗神社へ向かうぞ」
「はーい!今お茶をいれるね~」
僕達は未桜のいれた美味しいお茶を飲み終えると、それぞれが豆苗神社へ向かう準備を整えた。
部屋を出ようとしたのだけれど、未桜の服装がワンピースのままだったのが気に掛かり彼女に訊く。
若い僕達ですら手摺に掴まらなければきついというのに。
足腰にガタがきている年齢だと思うのだが...やはり遅い...
気の遠くなるほどの不毛な時間が過ぎ、ようやくにして案内する老婆の足が止まった。
玄関で部屋の場所を教えてもらった方が遥かに良かった気がすが、どう考えても後の祭りである。
「こちらがお二人の部屋でございます。お茶が置いてありますけぇ、ご自由にお飲みくださいぃ。では、ごゆっくりぃ」
「ありがとうございます」
僕が軽く会釈して礼を言うと、玄関で見た時より白い顔をした老婆は薄らと笑みを浮かべ、上った時よりさらにゆっくりとした速度で階段を降りていった...
僕達の案内された部屋は階段を上って左へ折れ、短い廊下を数歩進んだ突き当たりに位置し、他には通った廊下の右手と、僕達の部屋とは真逆の方向に客室の入り口らしき襖がある。
「三部屋か...まぁ民宿だから部屋の数はこんなものだろうな」
「一輪、取り敢えず中に入ろうよ」
「あっ、ああ、入ろうか」
なかなか部屋へ入ろうとしない僕に未桜が声をかけ、目の前にある意外にも子綺麗な襖を開ける。
開けた襖には「参ノ間」と書かれたカード貼られており、他に「壱ノ間」と「弍ノ間」が存在することを裏付けた。
部屋へ入った未桜の第一声。
「一輪!畳だよ畳!...うん!この感触好きなんだよね~、久しぶりに踏んだなぁ♪それにこの『い草』の香りがたまんない♪」
「あぁ『い草』の香りは僕も好きだよ。なんか落ち着くんだよな」
畳一つでここまで喜ぶとは...未桜が最近の女子とは一味違う一面をまた見せた。
ところで「畳」といえば、時代の流れからその需要は残念なことに年々減少しているらしく、その影響から今や「畳屋」なる専門店は絶滅危惧種と云っても過言ではない。
僕は年齢こそ若いが、日本の古くから伝わる風習や伝説、日本独自の技術で生み出された生産物などを好む傾向にある。
出来ることなら、そういった日本固有の文化はいつまでも残って欲しいものだ。
「空気うんま~!古い建物も結構残ってるみたいだよ一輪♪」
畳で機嫌を良くした未桜が、外へ繋がる部屋の引戸を開け僕に伝えた。
「そっかそっか。未桜、お茶を一杯飲んだら外で腹ごしらえして豆苗神社へ向かうぞ」
「はーい!今お茶をいれるね~」
僕達は未桜のいれた美味しいお茶を飲み終えると、それぞれが豆苗神社へ向かう準備を整えた。
部屋を出ようとしたのだけれど、未桜の服装がワンピースのままだったのが気に掛かり彼女に訊く。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
【完結】皇帝の寵妃は謎解きよりも料理がしたい〜小料理屋を営んでいたら妃に命じられて溺愛されています〜
空岡立夏
キャラ文芸
【完結】
後宮×契約結婚×溺愛×料理×ミステリー
町の外れには、絶品のカリーを出す小料理屋がある。
小料理屋を営む月花は、世界各国を回って料理を学び、さらに絶対味覚がある。しかも、月花の味覚は無味無臭の毒すらわかるという特別なものだった。
月花はひょんなことから皇帝に出会い、それを理由に美人の位をさずけられる。
後宮にあがった月花だが、
「なに、そう構えるな。形だけの皇后だ。ソナタが毒の謎を解いた暁には、廃妃にして、そっと逃がす」
皇帝はどうやら、皇帝の生誕の宴で起きた、毒の事件を月花に解き明かして欲しいらしく――
飾りの妃からやがて皇后へ。しかし、飾りのはずが、どうも皇帝は月花を溺愛しているようで――?
これは、月花と皇帝の、食をめぐる謎解きの物語だ。
男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜
春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!>
宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。
しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——?
「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる