一輪の廃墟好き 第一部

流川おるたな

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第11話 い草の香り

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 歳よりが上るには明らかにきついであろう急勾配な階段を、老婆はなぜか壁に設置された手摺を使うことなく上っていく。

 若い僕達ですら手摺に掴まらなければきついというのに。

 足腰にガタがきている年齢だと思うのだが...やはり遅い...

 気の遠くなるほどの不毛な時間が過ぎ、ようやくにして案内する老婆の足が止まった。
 玄関で部屋の場所を教えてもらった方が遥かに良かった気がすが、どう考えても後の祭りである。

「こちらがお二人の部屋でございます。お茶が置いてありますけぇ、ご自由にお飲みくださいぃ。では、ごゆっくりぃ」

「ありがとうございます」
 
 僕が軽く会釈して礼を言うと、玄関で見た時より白い顔をした老婆は薄らと笑みを浮かべ、上った時よりさらにゆっくりとした速度で階段を降りていった...
 
 僕達の案内された部屋は階段を上って左へ折れ、短い廊下を数歩進んだ突き当たりに位置し、他には通った廊下の右手と、僕達の部屋とは真逆の方向に客室の入り口らしき襖がある。

「三部屋か...まぁ民宿だから部屋の数はこんなものだろうな」

「一輪、取り敢えず中に入ろうよ」

「あっ、ああ、入ろうか」

 なかなか部屋へ入ろうとしない僕に未桜が声をかけ、目の前にある意外にも子綺麗な襖を開ける。

 開けた襖には「参ノ間」と書かれたカード貼られており、他に「壱ノ間」と「弍ノ間」が存在することを裏付けた。

 部屋へ入った未桜の第一声。

「一輪!畳だよ畳!...うん!この感触好きなんだよね~、久しぶりに踏んだなぁ♪それにこの『い草』の香りがたまんない♪」

「あぁ『い草』の香りは僕も好きだよ。なんか落ち着くんだよな」

 畳一つでここまで喜ぶとは...未桜が最近の女子とは一味違う一面をまた見せた。
 
 ところで「畳」といえば、時代の流れからその需要は残念なことに年々減少しているらしく、その影響から今や「畳屋」なる専門店は絶滅危惧種と云っても過言ではない。

 僕は年齢こそ若いが、日本の古くから伝わる風習や伝説、日本独自の技術で生み出された生産物などを好む傾向にある。

 出来ることなら、そういった日本固有の文化はいつまでも残って欲しいものだ。

「空気うんま~!古い建物も結構残ってるみたいだよ一輪♪」

 畳で機嫌を良くした未桜が、外へ繋がる部屋の引戸を開け僕に伝えた。

「そっかそっか。未桜、お茶を一杯飲んだら外で腹ごしらえして豆苗神社へ向かうぞ」

「はーい!今お茶をいれるね~」

 僕達は未桜のいれた美味しいお茶を飲み終えると、それぞれが豆苗神社へ向かう準備を整えた。

 部屋を出ようとしたのだけれど、未桜の服装がワンピースのままだったのが気に掛かり彼女に訊く。
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