一輪の廃墟好き 第一部

流川おるたな

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第28話 変わり者

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「どっちもだよ、一輪。何が原因かはまだ分からないけれど、この鎮守の森にはいや~な気が流れてる......それと、本殿の前に先客が居るみたい...」

 先客!?
 こんな辺鄙な場所にか!?

 しかし僕も目は悪くはないが本殿はまだ豆粒ほどの大きさでしか目には映らず、人の姿形は到底把握できない距離である。

 霊感もさることながら彼女は視力もすこぶる良い。
 といっても何処かの部族民のように裸眼で10.0などと桁外れな視力ではなく、2.0という一般的最高値なのだが全国平均の裸眼でおよそ0.5、20代でも1.5以上はおよそ5.7%といったデータからしても、彼女の視力はすこぶる良いと言わざるを得ないだろう。

「そうか僕もなんとなくだが空気の淀みは感じていたよ。それより先客が居るとは予想外だな...」

 此処までの道の荒れ具合と半壊した鳥居を修復していないことから、村人の中に燈明神社へ参拝に来る者が居るとは考え辛い、こんな場所に来るなんて一体どんな変わり者なのだろうか?

 もちろん僕も「変わり者」の一人であることは自信を持って否定しない。

 僕達は速度こそ緩めなかったものの、互いに口を閉ざしたまま前方に細心の注意を払って参道を歩いた。

 神社本殿に近づくに連れ、本殿の荒れ果て具合が徐々に分かり、その手前に立つ人物の姿もハッキリと目に映り出す。

 僕の服装に近い服を着用しているその人物の後ろ姿からして成人男性であることが予想でき、僕の記憶の中で当てはまる人物像が薄らと浮かび上がった。
 
 彼との距離が十メートルほどを切ったところで僕はもう確信してしまった。

 僕達が昼食を摂るために訪れたラーメン屋で、先に払いを済ませ店を出たあの男性に違いない。

 廃墟たる燈明神社本殿を直立して眺めていた黒い短髪の彼が、僕達の気配を感じ取ったか足音に気付いたのか分からないけれど、俊敏な動きでこちらに振り向いた。

「......こんにちは...」

「こんにちは...」

「こんにちはぁ」

 彼の声は顔相応に渋かった。

 そして緊張で張り裂けんばかりだった僕の心が不思議なことに多少なりとも落ち着いた。

 いや、「不思議」という言葉を使ったが些か不適切だったかも知れない。

 わざわざ訂正した理由は二つある。

 一つ目は、たった一度とはいえラーメン屋でたまたま彼を見かけ、ハッキリと顔を覚えていたこと。

 二つと云ったので最後となる二つ目は、彼のそのキビキビとした所作から、大人というか、洗練された人間力を感じ取ったからに他ならなかった。
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