一輪の廃墟好き 第一部

流川おるたな

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第43話 煙草

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 悪臭を放ちながら燃え盛る炎から離れ、井戸水を汲み上げようと手動式ポンプの取手をグッと握りる。

 鉄製の取手を握った手を通して身も凍るような冷たさが全身を襲う。
 併せて冬の夜の冷気に包まれた幼い俺の頭は少しだけ冷静さを取り戻した。
 
 だが下手に思考回路が働き出した所為で最悪の考えが一気に頭の中を埋め尽くす...

 頭の何処かで分かってはいた...

 燃え盛る炎に埋もれて良くは見えなかったが...
 倒れていた二体の身長差といい、身体の形といい...
 どう考えても...
 釜土で燃えているのは...
 就寝前に優しい顔をしてくれたあの父と母だった...

 悲しいかな。
 この当時の時点において、人の死というものについての知識が皆無だった幼い俺は、そんな想像するに耐え難い考えに至りながらも、両親がこの世から消えて無くなることまでは、想像するに到底及ばなかった...

 

 淀鴛さんは僕達に向けてそこまで話すと、瞼を閉じ、項垂れながら暫くのあいだ黙した。

 
 さて、場面が30年前から現代に戻って来たことだし、此処からは探偵であるこの荒木咲一輪が再び物語を紡ぐとしよう。
 
 項垂れていた35歳で現役の刑事である淀鴛さんが、ゆっくりと頭を上げて口を開く。

「...すまんが煙草...一本だけ吸っても良いかな?」

「えっ...ああ、別に構いませんよ...」

 僕は生まれてこの方煙草を吸ったことは無いし、助手の鈴村未桜も喫煙者では無い。

 よって、本来であれば目の前で煙草を吸われるなどという行為は許し難く、このご時世において迷惑千万でしかなかったけれど、淀鴛さんの重く悲しい過去を聞いた直後に断われる訳もなく、余り考えもせずに即答したのだった。

 とか云っているうちに、淀鴛さんは慣れた手つきで煙草に火をつけ既に一服を始めている。

 じゃあ過去の話しで気になった点を確認させてもらうとしよう。

「すみません、淀鴛さん。気になった点を幾つか質問したいのですが、訊いても大丈夫でしょうか?」

 火のついた煙草を咥えたまま淀鴛さんが答える。

「ああ勿論だ。ただし俺のコメントはオフレコで頼む」

「オフレコなのは最初から心得てますよ...じゃあまずは、これって殺人事件だったんですよね?」

「...................」

 予想外にも淀鴛さんは即答しなかった。
 相手が刑事とはいえ、流石にちょっとデリカシーに欠けたかな...
 などと反省していると。

「...俺個人としては30年経った今でも、あれは間違いなく殺人事件だったと考えている。だが事件当時、警察が出した調査後の結論は違ったよ」
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