一輪の廃墟好き 第一部

流川おるたな

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第42話 炎

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 僅かだが異臭の中に焦げ臭さを感じた幼い俺は、物が焼ける時の匂いだという考えに至り、家の中で火を起こす場所をイメージする。

 と言っても家の中で火を起こすとなるとかなり限定され、台所は家を出る前に確かめ、居間に置いてあるストーブは灯油が切れていたのか点いていなかった。

 だとすれば家の中ではない...

 もはや幼い俺の頭には五右衛門風呂を沸かすための釜土しか思いつかなかった。

 家の外側に沿って釜土のある場所へ向かおうと一旦走り出したものの、ひょっとすれば両親が家に戻っているかもと思い、一度家の中へ駆け足で戻る。

 だが家の中は先ほどと何も変わらず古い掛け時計の音だけが耳に届いた。

 幼い俺は居間の畳の上でヘタレ込み、喉が潰れるほど何度も何度も両親を呼んだのだが、期待する両親の声が返ってくることは無かった。


 この時、就寝前に見た両親の優しい顔を思い出し、冗談でも何でも良いからとにかく目の前に現れて欲しいと強く、強く神に願ったことは覚えている...


 無駄に声を上げるのを止めたが、涙と鼻水が延々と流れ暫くグズっていた幼い俺は、釜土へ向かう途中だったことをふと思い出し、近くにあったティッシュ箱から無造作に何十枚とティッシュを取り出して、涙と鼻水をがむしゃらになって拭いた。

 拭いたティッシュを両手で丸め、それをゴミ箱に投げ入れ台所の勝手口から外へ飛び出す。

 風呂を沸かすための釜土は勝手口から外へ出て左方向にあり、出るや否やそちらを向いた幼い俺の目に映ったのは、炎から生まれる明々としたオレンジ色の灯りであった。

 希望的観測を大いに含んだ自身の頭は、きっと父と母がゴミでも焼いているのだろうと安易に考え、そこへ居るはずの両親へ呼びかけながら釜土の方へと走って行く。

 しかし、釜土が視野にる位置にたどり着いた直後、自身の安易な考えは瞬時に何処かへ吹き飛び、目に映る光景を理解出来ずに硬直して立ち尽くす...

 5歳という余りにも幼い俺の目に映った光景...

 それは理解出来なくて当然の極めて恐ろしく信じ難い光景だった。

 普段なら、風呂の湯を沸かすために用いられ、薪木を何本も投入して炎を生産し続ける釜土の中には、あろうことか人の頭、それも二つの頭が放り込まれ、頭から伝った炎が二つの身体を覆い尽くし燃え盛っている...

 幼い俺は目の当たりにしている光景を理解出来ぬまま、いっ時のあいだ思考が止まり呆然と立ち尽くしていたが、凄まじい悪臭と炎の作り出した熱気によって我にかえり、何より炎を消すことが先だと思い、水を汲みに井戸のある場所へと夢中で走った。
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