一輪の廃墟好き 第一部

流川おるたな

文字の大きさ
46 / 168

第46話 愚痴

しおりを挟む
 霊感の強い未桜が目撃したであろう何かは取り敢えず放っておくとして、やっとこさ廃墟探索の始まりである。

 っと、その前に一つだけ云っておかねばなるまい。

 廃墟探索というものは基本的に、というか99%以上は人が利用していた建造物であろうと思われ、その廃墟が廃墟となる以前は個人や集団や団体の生活空間だったわけである。

 そのような生活空間に人が一人でもいれば、人生という名のドラマが確実に存在するだろうし、もし二人なら各個人のドラマとその二人が絡む別の種のドラマが生まれ、人数が増えれば増えるほど複雑なドラマが生まれることは深く考えずとも必然と云って良いだろう。

 僕が数ある廃墟の中から探索したいと思う廃墟を選択する際は、事前にその廃墟に関する情報を調べ、心霊スポットとされるものや事件、取り分け悍ましい殺人事件などのあった廃墟は避けて来たわけで...

 今回も気軽と云って良いほど呑気な意気込みで燈明神社を訪れたのである。

 だが此度は想定外にも程があるだろ!などとツッコミを入れたくなるレベルの情報を仕入れてしまった。
 しかも廃墟探索の現場を訪れた直後に。

 これが僕にとってどのような影響を与えるかというと、「嫌なドキドキ」がずっと止まらない状態で廃墟探索を行わなければならないといった次第であろうか。
 
 とどのつまり、心臓に悪いことこの上ないのである。

 さっきは何とか空元気を振り絞り、「探索を楽しもうじゃないか」と言えたのだけれど、霊感の強い未桜の余計な言葉によって僕のハート折れずとも、葉っぱの筋くらいの細い亀裂が入っていた。

 「此処で退いては男が廃る」、のは日本男児の端くれとして一向に構わないのだけれど、時間と経費がもったい無いし、淀鴛さんにも少しだけ悪いような気もする。

 それに何より興味だけは格別に湧き上がっていた。

 果てさて、まるで愚痴の如き内心を同じく内心で散々と暴露してきた今の僕は、廃墟と化した燈明神社の拝殿に入ってとっくに探索を始めていたものである...

 最初に目に入ったのは、拝殿前にある木製の大きな賽銭箱、だったであろう粉々に砕かれた木材だった。
 どう見てもハンマーか何かの鈍器によって破壊された賽銭箱は、箱として機能していた頃のお陰は微塵も感じられず、心無い者の仕業に違いないという虚しさだけが残る。

 拝殿の戸は辛うじて形を成していたが、同一人物にでもやられたのであろうか、骨組みという骨組みがバキバキに折れまくっていた...
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

【完結】皇帝の寵妃は謎解きよりも料理がしたい〜小料理屋を営んでいたら妃に命じられて溺愛されています〜

空岡立夏
キャラ文芸
【完結】 後宮×契約結婚×溺愛×料理×ミステリー 町の外れには、絶品のカリーを出す小料理屋がある。 小料理屋を営む月花は、世界各国を回って料理を学び、さらに絶対味覚がある。しかも、月花の味覚は無味無臭の毒すらわかるという特別なものだった。 月花はひょんなことから皇帝に出会い、それを理由に美人の位をさずけられる。 後宮にあがった月花だが、 「なに、そう構えるな。形だけの皇后だ。ソナタが毒の謎を解いた暁には、廃妃にして、そっと逃がす」 皇帝はどうやら、皇帝の生誕の宴で起きた、毒の事件を月花に解き明かして欲しいらしく―― 飾りの妃からやがて皇后へ。しかし、飾りのはずが、どうも皇帝は月花を溺愛しているようで――? これは、月花と皇帝の、食をめぐる謎解きの物語だ。

男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜

春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!> 宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。 しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——? 「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!

処理中です...