58 / 168
第56話 足跡
しおりを挟む
取り敢えずあれが山猫だったかどうかは兎も角として、僕達は淀鴛家の廃墟探索を再開した。
燈明神社にも多くの足跡があったけれど、淀鴛家の居間と寝室の畳にも多くの足跡が見受けられた。
この足跡の主がどのような目的で家の中に入り、果たして人物像は如何なるものなのかまでは正直さっぱり分からない。
だが少なくとも、僕が燈明神社を訪れるきっかけとなったブログを作成した人物が、ネット上にアップしていた画像からして訪れたのは紛れもない事実であり、数種ある足跡の一つはその人物のものである可能性が高いだろう。
もしも足跡だけで人物を特定することが可能ならば、探偵業務の遂行に大いに役立つのだが...
然るに僕のなんちゃってサイコメトリー能力である「想いの線」は、こういった人の作り出す足跡や指紋跡、他にはシミなどにも残念ながら全く反応してくれない。
例えば計らずとも助手の未桜が作った出来立てホヤホヤの足跡に触れてみても、きっと「想いの線」は発動することなく徒労に終わってしまうこと請け合いである。
などと考えつつ懐中電灯で室内を照らし、山猫(仮)が潜んでいた押入れの襖を開けて中を調べる。
中には淀鴛さんの家族が30年前まで使用していたであろう布団一式がそのまま、否、クリーニングに出しても取れないような汚れにまみれ、そこら中が傷んで綻び、二度と使用出来ないくらいにボロボロの状態で放置されているが、あの山猫(仮)にとっては格好の寝床となっているだろう。
ふと、淀鴛さんが語ってくれた30年前の話を思い出す。
確か事件当時、この布団は家族三人が寝るため畳の上に敷かれていたのではなかったか?
いや待て、自ら疑問視しておいて直後に思い直すのもなんだけれど、そんなに深く考えるまでもなかった気がする...
この家で起きた30年前の悲惨な事件は他殺ではなく自殺だと警察が断定したのだから、その後にでも井伊影村の村民などが親切に片付けでもしたのではないだろうか。
「これが例の時計ねぇ」
「ふぁっ!?」
僕は彼女が突如として出した声にビクッと反応し、情けなくも変な声をあげてしまった。
敢えて断っておくけれど、これは僕が臆病者だという指標などには決してならない。
恐らくは殺人事件のあったであろう薄暗くそれなりに雰囲気あるこの廃墟で、集中して物思いに耽っているところへ声が突然飛び込んで来れば、誰だって驚いてしまうというものだ。
そう、しつこいくらいに何度でも言わせてもらおう。僕が臆病者なわけがないのである。
臆病な奴がたった一人で廃墟探索などできよう筈もないのだから...
燈明神社にも多くの足跡があったけれど、淀鴛家の居間と寝室の畳にも多くの足跡が見受けられた。
この足跡の主がどのような目的で家の中に入り、果たして人物像は如何なるものなのかまでは正直さっぱり分からない。
だが少なくとも、僕が燈明神社を訪れるきっかけとなったブログを作成した人物が、ネット上にアップしていた画像からして訪れたのは紛れもない事実であり、数種ある足跡の一つはその人物のものである可能性が高いだろう。
もしも足跡だけで人物を特定することが可能ならば、探偵業務の遂行に大いに役立つのだが...
然るに僕のなんちゃってサイコメトリー能力である「想いの線」は、こういった人の作り出す足跡や指紋跡、他にはシミなどにも残念ながら全く反応してくれない。
例えば計らずとも助手の未桜が作った出来立てホヤホヤの足跡に触れてみても、きっと「想いの線」は発動することなく徒労に終わってしまうこと請け合いである。
などと考えつつ懐中電灯で室内を照らし、山猫(仮)が潜んでいた押入れの襖を開けて中を調べる。
中には淀鴛さんの家族が30年前まで使用していたであろう布団一式がそのまま、否、クリーニングに出しても取れないような汚れにまみれ、そこら中が傷んで綻び、二度と使用出来ないくらいにボロボロの状態で放置されているが、あの山猫(仮)にとっては格好の寝床となっているだろう。
ふと、淀鴛さんが語ってくれた30年前の話を思い出す。
確か事件当時、この布団は家族三人が寝るため畳の上に敷かれていたのではなかったか?
いや待て、自ら疑問視しておいて直後に思い直すのもなんだけれど、そんなに深く考えるまでもなかった気がする...
この家で起きた30年前の悲惨な事件は他殺ではなく自殺だと警察が断定したのだから、その後にでも井伊影村の村民などが親切に片付けでもしたのではないだろうか。
「これが例の時計ねぇ」
「ふぁっ!?」
僕は彼女が突如として出した声にビクッと反応し、情けなくも変な声をあげてしまった。
敢えて断っておくけれど、これは僕が臆病者だという指標などには決してならない。
恐らくは殺人事件のあったであろう薄暗くそれなりに雰囲気あるこの廃墟で、集中して物思いに耽っているところへ声が突然飛び込んで来れば、誰だって驚いてしまうというものだ。
そう、しつこいくらいに何度でも言わせてもらおう。僕が臆病者なわけがないのである。
臆病な奴がたった一人で廃墟探索などできよう筈もないのだから...
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
紙の上の空
中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。
容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。
欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。
血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。
公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。
シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
織部
ファンタジー
ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。
背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。
母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。
セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。
セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。
「セラ、ウミ」
「ええ、そうよ。海」
ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します!
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。
男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜
春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!>
宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。
しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——?
「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる