一輪の廃墟好き 第一部

流川おるたな

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第90話 好み

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 民宿むらやどの若女将(仮)さんが言っていた通り、天然温泉の在るという施設へは徒歩で丁度5分ほどで着くことが出来た。
 手前勝手ながら「温泉センター」のようなある程度は大規模な施設を想像していたのだけれど、辺境の地と云っても差し支えないであろう過疎の進むこの村に、大人数を集客できる施設があるわけもなく、普通の住宅を2軒並べた程度の規模の温泉施設であった。

 ただ、入り口の戸の上部には大木を使用して作られたであろう、古臭さは否めないものの立派で歴史を感じさせる看板に、黒くて極太い文字で「井伊影温泉」と彫られている。

「目新しさは全くもって感じないが、これはこれで味があるってもんだよな...」

「わたし的には近代的な建物よりこっちの方が断然好みだなぁ♪」

 井伊影温泉の入り口前に突っ立ったまま、僕達はそんなありきたりな会話を交わした。
 未桜とは労使関係の立場で数年来の付き合いになるけれど、何故だか僕はふと思う。
 第三者からすれば今の僕達って恋人同士にも見えるだろうか?と...
 
 おっと如何如何!

 未桜は僕にとってちょっぴり大事な助手であり、仕事上のパートナーであって恋愛対象として見る訳にはいかない。というか、形はどうあれ一応「可愛い」女性ではあるけれど、そもそも僕の理想像とはかけ離れ過ぎている。

 こんなことを想ってしまうのはきっと疲れている所為だろう...

 僕は頭の中の変な邪念を振り払おうと、もげてしまうのかと思うほど首を横にブンブン振ったのだった...
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