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ノ51 悪戯
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室町時代よりも遥か昔、地震と豪雨が引き起こした大規模な地滑りによって出来たと考えられる絶壁。正親の耕す畑の側、平地より真っ直ぐ垂直に聳え、50mの高さはあろうかというこの絶壁に、丘から流れる雨水とは別口の流れをする水脈があった。
絶壁内部の奥を流れる水脈の吐口は、最悪なことに正親の畑を向く亀裂となり表面上くっきりと見えている。
普段降る雨量なら、そこから水がチョロチョロと細やかに流れる程度であったが、川も氾濫を起こしても不思議でない今の状況からすると、圧倒的雨量によって亀裂が一気に広がり鉄砲水がいつ噴き出してもおかしくないのだが、豪雨によって蹂躙された畑の光景を目の当たりにした正親には、己に危機が迫っていることを考える余裕など微塵も無かった。
神や自然にとっての気まぐれで些細な悪戯は、時として人間に究極的な絶望を与える...
「ズッガァーーーーーン!!!!」
まるで火山が噴火したかのように凄まじい爆音が突如として鳴り響き、地中に収まり切らなくなった水が絶壁の亀裂から一気に押し出された!
云わずと知れた「鉄砲水」であったる。
それは余りにも速く巨大な水の塊、否、もはや洪水の固まりと云った方が正しかった。
「おわぁ!!??ぶっ!?」
完全に油断していた正親はなす術なく、巨大な鉄砲水の中へ瞬く間に呑み込まれてしまった。
「ガン!ガガン!」
「っ!?」
とてつもない速さで流れる即席の川に揉みくちゃにされ、木や岩にぶつかった正親の身体の肉と骨が砕かれていく。
終いには気を失い無抵抗となり流された彼の身体は、奇しくも己の育てた田んぼの上でようやく静止する。
二度と動ことのない屍となって...
なかなか帰って来ない夫を心配し、居ても立っても居られなくなり、家を飛び出し彼を探しに出掛けた妻の伊乃。
彼女が正親の屍を見つけたのは、死後暫く経ってからのことである...
互いに愛し合う者、互いを大切に想う者、互いを幸せにしようと決めた者。
夫の正親と、妻の伊乃の関係はその全てに当てはまり、十年という長い歳月を、二人は変わらぬ心で幸せな将来を語りつつ過ごして来た。
そんな二人に突然訪れた残酷で絶対的な別れ。
明日になれば状況が変わり元の生活が戻って来る。などと都合の良い話しは万が一にも起こり得ない。
果たして人は、彼女と同じ立場であったなら、このような事象を素直に受け止め、正気を保って居られるのだろうか...
世の中は狭いようで広い。或いは上手く正気を保ち、強く生きられる人間も居るのであろう。
だが彼女は、深く愛した者を突然失い、正気を保っていられるほど強い人間ではなかった...
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「ズッガァーーーーーン!!!!」
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それは余りにも速く巨大な水の塊、否、もはや洪水の固まりと云った方が正しかった。
「おわぁ!!??ぶっ!?」
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「ガン!ガガン!」
「っ!?」
とてつもない速さで流れる即席の川に揉みくちゃにされ、木や岩にぶつかった正親の身体の肉と骨が砕かれていく。
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二度と動ことのない屍となって...
なかなか帰って来ない夫を心配し、居ても立っても居られなくなり、家を飛び出し彼を探しに出掛けた妻の伊乃。
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