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ノ52 悲しみの果てに
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どれほど稀か分からぬ確率、人の死因としては聞き慣れぬあまりな不運に見舞われた最愛の夫。
溜まった水が飽和状態になった田んぼの水面に、その亡骸は半分浮かんでいる状態で伊乃の目に写り込んだ。
天から降る雨の勢いも弱まらず、雨具も着けずに家を出た伊乃はずぶ濡れになっていたが、彼女にとってもはや我が身に降りかかるものなどどうでも良かった。例えそれが一撃で致命傷を負わす弾丸の雨であったとしても...
「ううう....ゔあぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!!!」
駆け寄った彼女は、人形のように動かなくなった正親の亡骸を抱きしめ、ありったけの力で喉が千切れてしまいそうなくらいに泣き叫んだのだった。
夕方になり激しかった雨と風が過ぎ去った頃、空には紅く沈む夕陽が僅かに垣間見えていた。彼女は疲れ果てたのか泣き止んではいたものの、最初に亡骸を抱いたままの体勢で田んぼの真ん中に座り込んでいた...
少し前に語った漁師の妻の物語。蓮左衛門と九兵衛が成仏させた幽霊であり怪異でもあったお雛。
彼女も伊乃と同じく愛する者を突然失った人物であったけれど、お雛の場合は悲しみに打ち拉がれ、絶望した挙句に死して幽霊となってこの世に残り、蓮左衛門と九兵衛の前に姿を現したものであった。
無論、此度の物語はその「幽霊物語」とは大きく勝手が違う。
これは人間の伊乃が仙女となり、仙人界から堕ちるまでの物語。
はてさて、思いの外長い物語になってしまったけれど、此処からがいよいよ本題となるわけでして...
楽しくしていようが、悲しくしていようが、日というものは否応なしに過ぎていき、夫である正親が亡くなってはや十日が過ぎていた。
家に籠る伊乃は絶食するようなことは辛うじて無かったが、若干ふくよかであった身体は明らかに痩せ細り、美しい顔も幾らか老けてすら見える。
梅雨もようやく明けたのではないかというこの日、ある意味で茫然自失の状態が続いていた彼女は何を想ってか、突然勢い良く立ち上がり何も持たずに家を出て、森へと続く道を真っ直ぐに歩き出した。
無言で俯いたまま、ただひたすらに歩き続ける彼女の向かう先はいったい何処なのであろうか...
その答えは彼女の歩く道によって直ぐに導き出された。
伊乃が目指しているのは十年以上前に捨てた生まれ故郷である。
恐らくは悲しみに包まれた彼女の脳裏に、幼き頃は優しかった両親の姿が過ぎったのであろう...
彼女の本心は定かでない。が、三日ほど歩き続けたのち、彼女は昔住んでいた故郷の屋敷へと辿り着く。
溜まった水が飽和状態になった田んぼの水面に、その亡骸は半分浮かんでいる状態で伊乃の目に写り込んだ。
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「ううう....ゔあぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!!!」
駆け寄った彼女は、人形のように動かなくなった正親の亡骸を抱きしめ、ありったけの力で喉が千切れてしまいそうなくらいに泣き叫んだのだった。
夕方になり激しかった雨と風が過ぎ去った頃、空には紅く沈む夕陽が僅かに垣間見えていた。彼女は疲れ果てたのか泣き止んではいたものの、最初に亡骸を抱いたままの体勢で田んぼの真ん中に座り込んでいた...
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彼女も伊乃と同じく愛する者を突然失った人物であったけれど、お雛の場合は悲しみに打ち拉がれ、絶望した挙句に死して幽霊となってこの世に残り、蓮左衛門と九兵衛の前に姿を現したものであった。
無論、此度の物語はその「幽霊物語」とは大きく勝手が違う。
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はてさて、思いの外長い物語になってしまったけれど、此処からがいよいよ本題となるわけでして...
楽しくしていようが、悲しくしていようが、日というものは否応なしに過ぎていき、夫である正親が亡くなってはや十日が過ぎていた。
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梅雨もようやく明けたのではないかというこの日、ある意味で茫然自失の状態が続いていた彼女は何を想ってか、突然勢い良く立ち上がり何も持たずに家を出て、森へと続く道を真っ直ぐに歩き出した。
無言で俯いたまま、ただひたすらに歩き続ける彼女の向かう先はいったい何処なのであろうか...
その答えは彼女の歩く道によって直ぐに導き出された。
伊乃が目指しているのは十年以上前に捨てた生まれ故郷である。
恐らくは悲しみに包まれた彼女の脳裏に、幼き頃は優しかった両親の姿が過ぎったのであろう...
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