天狗と骨董屋

吉良鳥一

文字の大きさ
上 下
99 / 169
河童の手のミイラ(下)

第十二話

しおりを挟む
 葛西の言い分を聞いた利音は、はぁっと溜め息を吐いてこう切り捨てた。

「て言うかあの場にすぐに救急車なんて呼べるわけ無いでしょ。
妖がまた襲ってくるかもしれない状況でこちら側の人間じゃない救急隊が来たら余計に被害が拡大してしまうかもしれないのに……」

 妖の視えない人が来たら何が起こっているのか分からず回避出来ない。
 だから安全が確保出来ない状況では救急車は呼べないし、応援が来なければ病院にも運べなかった。

「大体当時高校生だった俺達を、大人である坂下さんが引っ張る存在なのに足手まといになるようじゃ、最初から祓い屋になるべきじゃなかったんだ」

「なんだと!?」

 樹璃を貶すような言い方に葛西は怒りが増した。
 殺してやると語気を荒らげたその瞬間、葛西が咳き込み血を吐いた。

「お前、呪術に自分の命を使ったな!?」

 栗郷が葛西の様子を見て苦い顔をした。

「どうせこの世に樹璃がいないならこの命も捨てたようなもんだ。
小さな池の主とは言え、大蝦蟇は土地神だ。
俺の霊力を与えれば宗像利音だろうが敵わないだろ。
それに呪いと言う手負い付きならばな」

「ちょっと待て、土地神だと……?」

 土地神と言う言葉に反応したのは栗郷だ。
 葛西に詰め寄る。
 
「テメェ一体何しやがった!?」

「……これ以上は何も言うつもりはない。
さっさと大蝦蟇に喰われて死ね!!」

 すると葛西はボソボソと呪文を唱え始めた。

「………っ!?」

 栗郷の足元で地面に黒い線が円形となって栗郷を囲む。
 そして地面から何やら黒い気配が栗郷の中へと侵入してきて、まるで心臓を鷲掴みされるような痛みにその場に蹲った。

「何をした!?」

 利音がそう葛西に問うと、彼は呪いだと言った。
 葛西は丁度栗郷がいる場所に、彼らに捕まる前に仕込んでいたのだと言う。

「それは俺の命を注ぎ込んだ呪いだ。
そのままだと確実に死ぬし、俺が死ねばお前も死ぬ!!」

 この呪いは自らの命を削いで作り出した物で諸刃の剣である。
 葛西もこの呪いを使えば自分の命も終わる事は分かっている。
 それでも構わないと発動させた。

「……はっ、舐めるなよ……」

 栗郷は冷や汗を額から流しながらも笑みを浮かべた。
しおりを挟む

処理中です...