天狗と骨董屋

吉良鳥一

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温泉旅行(下)

第七話

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 利音によって弾き飛ばされた像は、ひっくり返ってごそごそと体を起こそうと踠いている。

「木彫りの修羅像………
作者は……分からないな。
もっと近くで見ないと細かい所が分からない」

 利音は冷静にそう鑑定する。
 こんな時まで骨董の事かと真尋は呆れる。
 そうこうしている内にその修羅像とやらは起き上がりまた向かってくる。

「縛!!」

 今度はその修羅像を縛り付けるが、すぐに1本2本と術を解いて行くと、利音は術を追加する。

「包縛、急急如律令!!」

 今度は下からだけでなく、四方八方から鎖が現れて修羅像をきつく捕らえる。
 動けなくなった像に近付き、まるで品定めするように観察し、悪くはないなどとブツブツ独り言を言っている。
 その中で彼はこれは付喪神かと言ったことに真尋が反応する。

「付喪神ってあの壺くんと同じ?」

 家に利音の趣味で置いてある付喪神の壺。
 それと同じかとの問いに利音はそうだと頷いたが、壺とは比べ物にならないくらいこちらは狂暴で同じ類いの妖とは思えない。

「付喪神って言ったってそれも様々。
持ち主や作者の想いや扱われ方によっても変わってくるから……
でもまぁ、この修羅像家に飾ってもいいなぁ」 

「はあ?」

 まさかの家に飾る発言に何言ってるんだと開いた口が塞がらない。
 しかし利音は本気のようで、ネコのように調伏して式として使うのもありだし、飾っても楽しめると考えている。
 だがその考えとは裏腹に、修羅像はカタカタと動き出して鎖を千切って行く。
 それと同時に利音が床に手をついて、眉間を手で押さえる。

「あ~ヤバッ……
頭痛い上に動きすぎて気持ち悪くなってきた………」

「え~ちょっと嘘でしょ利音さん!!」

 体調不良でまともに術を使えなくなっている。
 本当に肝心な時に限って使えないと真尋は不満を漏らす。
 しかもこんな狭いところで戦えるわけもないので取り敢えず外へ出したいがどうやって出せばいいかと考えているが、修羅像はそんな時間ももう与えてはくれなそうだ。

「真尋、窓から外へ出ろ!!」

 利音は自分の術がもう持たないと分かると、近くの窓から外に出るよう命じるが、ここは2階だ。
 真尋は自分は兎も角利音はどうするのかと聞いたら、自分も運べと言い放った。
 無理だと答えるがもう時間がないと、利音は真尋と虎雄を道連れに窓から飛び降りた。
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