天狗と骨董屋

吉良鳥一

文字の大きさ
上 下
137 / 169
縄張り争い(上)

第二話

しおりを挟む
 ダイダラボッチの山が騒がしいと言う話しについて何か知っているような雰囲気の緋葉に利音がいち早く気付いた。

「緋葉、何か知ってる感じ?」

 利音が聞くと緋葉は話しづらそうに口を開く。

「おそらく、天狗による縄張り争いが激化したからだろう」

 天狗による縄張り争い……
 それは緋葉を真尋が拾ったきっかけになった出来事でもある。
 それは緋葉が住んでいた土地周辺だけでは無く、もっと広範囲に渡って元々山を棲家とする天狗が各地で争っているせいで山が騒がしくなっているのだと言う。

「そもそもさ、なんで今更そんな縄張り争いなんて事が起こってんの?」

 利音の疑問は今までそんな大規模な縄張り争いなんて聞いた事がないのに何故今になってそんな事になっているのかと言うことだ。
 
「………それは、とある大天狗の御仁が殺されたからだ」

「大天狗が殺された?
たったそれだけで?」

 大天狗なんて他にも沢山いるだろうに一人死んだだけで何故こうなると利音は首を傾げる。

「ただの大天狗の御仁ではない。
あの方は大天狗をも束ねる存在。
他の大天狗達を力でねじ伏せてきた故、その方がいなくなり、それまで大人しくしていた大天狗達はタガが外れて行った」

 上から押さえ付けるものが無くなり、それぞれ主張が激しくなって行くと争いが起き始め、烏天狗や女天狗、狗賓と言った大天狗の眷属達もそれに伴いそれぞれの大天狗と共に各地へ散らばって行った。

「私の住んでいた所にもやって来て、その大天狗の御仁は自分に付けと言ってきた。
我々はそれに従わなかったから殺されたのだ」

 なるべく群れを大きくしたいと緋葉達を引き入れようとしたが、それを拒んだ為殺され、棲家を奪われた。
 
「横暴で自分本意のあの御仁の下には付けぬ。
それに私が定めた主はたった一人のあの方だけだ」

 強い意思を示すその鋭い眼光に真尋は少し怯んでしまう。
 
「だがこうも各地で天狗達が暴れているのだとしたら由々しき事態。
天狗の一員として何もしないわけには行かぬ」

 この事態を収めたいと言う緋葉だが、彼は大天狗よりも力の劣る烏天狗でしかない。
 彼一人でどうにかなる問題ではない。
しおりを挟む

処理中です...