天狗と骨董屋

吉良鳥一

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縄張り争い(上)

第十六話

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 朱兼は彼らがもっと早く来ていたら、秋人がここまでの重傷を負うことは無かったかだろうにと、心の中で怒りを滲ませる。

「もう良い。
それより、天狗は逃げたが追跡はしておるのか?」

 朱兼は眼鏡の男性に訊ねる。

「ええ、今しがた仲間が追いましたし、遠くに待機しておりました別動隊も動いていることでしょう。
それよりも私は………いえ、」

 何かを言い掛けて止めた彼に朱兼は不審に思うも、追及はしなかった。

「それに朱兼さん、私も少々この天明道の荒っぽいやり方に疑問を持っておりまして、あまり深追いして天狗の巣窟に足を踏み入れてかえって大火傷を負うのではと危惧しております。
尤も、折角あそこまで追い詰めた大天狗を逃すのも惜しいので、仲間にはある程度までは頑張って下さいと伝えております」

 表情を変えず、真顔で淡々と話す彼に食えない奴だと感じた。
 勘が良く賢そうな雰囲気を纏わせる彼だが、ずる賢いような一面も見られる。
 何故なら、危険と承知ながら自分ではなく仲間に行かせるのかと……
 朱兼がそう問うと彼はまた淡々とこう答える。

「適材適所です。
私はあの天狗の飛ぶスピードに着いていけません。
ですが、仲間には大鳥の式を持つ者がおりますので彼に行かせた次第です。
それに私は現状をあなた方からお伺いしたいので………」

 理路整然と話す男に朱兼は秋人を一瞥してからそうかと一言だけ答える。
 朱兼にとっては見ず知らずの他人の事はどうでもいいし、この男の事よりも優先すべき事がある。
 まずは天明道の真意を知りたい。
 どうも裏に何か隠れているようで胡散臭い。

「時にお主、名は?」

 朱兼は男性に名前を聞く。

「私ですか?
私は、宗像家一門所属、当主補佐の佐倉浩志さくらこうしと申します。
以後、お見知り置きを」

 そう丁寧に頭を下げた。

「…………っ!?」

 宗像と聞いて竜樹は少しだけ目をぴくりとさせた。
 何処かで見た覚えがあったのは、パーティーで宗像家の当主の傍にいたからかと思い出す。
 そして利音が早々にここから逃げた理由も察した。
 
 
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