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183.大森林
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温泉を堪能した5日後、私たちは依頼消化と探索を兼ねて大森林に向かった。何日か留守にするので一応カルマさんには言って来てある。依頼内容はワイルドベアーの上位種であるグランドベアーの群れの殲滅だ。大森林まではシラコワからだと普通の馬車でも1日半あれば着くということだったが、ウチはサニーとサックスが引く快速馬車なので夕方には入口に到着。その日はそのまま入口付近で休み、翌日森に入った。
■
大森林の中はまるで別世界に来たと錯覚させるような不思議な雰囲気に満ちていた。林道はそこそこの広さがあるものの、右へ左へと曲がりくねっていて視界良好とは言い難く馬車での移動は困難。木々は全て大木で、偶に樹齢何百年だろうか?と思うような巨大なものもある。見たことのある花や草も自生していたが、それらも他より一回り大きい。
私たちは騎馬で進んでいるが、その乗り心地は以前にも増して良くなっている。それはレオンとエヴァが私のお腹に負担が掛からないよう鞍を改造してくれたから。どこをどう弄ったのかは分からないけど、改良ではなく改造という言葉がしっくりくるくらい良くなっている。
(きがおっきいの!)
ゆっくりと進んでいると、周囲を飛び回っていたスノウが嬉々として鳴く。
(デカイ)
(スゴイデス!)
(オオキイデス!)
スレート、サニー、サックスも待ちに待った大森林探索に興奮気味だ。
「確かに見事だね。シラコワに来るとき外からは眺めたけど、実際入ってみると迫力がある」
「ああ、スケールが違うな」
「うん、凄いね。でも油断すると迷っちゃいそう」
ここは道がくねくねしている上、二叉や三叉に別れている所もあって迷路のように感じる。ただ私たちにはスノウの真眼がある。進化した時Aランクになった真眼は、地上に居ながらにしてアラウンドビューモニターのように真上から広い範囲を眺める事が出来るようになったのだ。そのおかげで道に迷う可能性はゼロに近い。
「だね。これじゃあ地図の所持が規則化されるのも当然だ」
「そうだな。それに野営出来そうな場所が地図に記されているのも有難い」
ギルドで情報を集めて依頼を受けた時、大森林の地図を所持していなければそこでの依頼は受理できないと聞いて購入した。地図はやはり多少大雑把なものだったが、今まで見てきたものよりは要所要所がしっかりと記載されていて役立ちそうだった。
「さて、そろそろ良い場所じゃない?」
「ああ、じゃあ採取しながらレベリングといくか」
(やったぁなの!)
(バンザイ)
((マッテマシタ!))
久しぶりの魔物討伐に張り切るスノウたち。私たちも地面に降り、茂みの中に足を踏み入れた。
■
採取を始めて間もなく、見覚えのあるものを見つけた。長さ40㎝ほどで緑色の厚い莢に覆われたそれは、記憶にあるものよりも大きい。というか、コレって自生するんだ?
「そら豆…?」
「ん?ああ、ホントだ。ソラマメだね」
エヴァが私の呟きに答えてくれる。
「ここではこの大きさが普通?」
「いや、もう少し小ぶりだよ。やっぱりこの森のはサイズが大きいね」
「他で見たことないけど、西大陸にもあったの?」
「森にはあったな」
「だね、自生はしてた。でもあまり需要が無いから売ってる店はヴェスタでも極僅かだったよ」
「そうなんだ…美味しいのに」
「なら採っていくか?」
「うん」
私たちは手分けしてソラマメを採取した。
採取を終えて再び歩きだした時、スノウが魔物の気配を察知した。
(なんかくるの!ベアーとおなじくらいつよいやつ!)
「何体だ?」
(7!)
間もなく私の危機察知に反応があり、その後レオンも気配を感じ取った。
「これはジャイアントワームだ」
ジャイアントワーム…大きなミミズ?
「ジャイアントワームは1mくらいのデカイイモムシで、攻撃は麻痺粘液と糸吐きが主だ。群れで行動するから1人の時に囲まれたら面倒だが、動きが遅いからさっさと魔法で始末しちまえばいい」
「キラ、大丈夫?」
「行けるか?」
「うん、大丈夫」
夫たちの問いに笑顔で答える。
「雷魔法は効かないからそれ以外でだよ」
「分かった」
「よし、皆1体ずつだ。奴の麻痺粘液は尾の針から出るから気を付けろ。スレート、念のため麻痺攻撃は避けろよ?」
(はいなの!)
((オーケーデス!))
(オケ)
レオンの指示にみんなが頷くと、草の間からガサゴソと音が。
「来たか、行くぜ!」
号令をかけたレオンが真っ先に地を蹴って飛び出した。
ジャイアントワームは黒と緑の斑模様の体をくねらせながら針を目の前の敵に向ける。だがレオハーヴェンにとっては片手で事足りる相手。麻痺粘液など吐かせる暇を与える訳が無い。イモムシが攻撃準備を整える前に剣で一刀両断、ブヨブヨした体は真っ二つになった。
「【ウォータースピア】」
詠唱と共に放たれた水の槍がジャイアントワームの頭に深々と突き刺さる。全身がビクンッ!と跳ね、それっきり動かなくなった。水魔法を使ったのはもちもちろんエヴァント、レオハーヴェンとほぼ同時に仕留め終えた。
「【ウォータージェット】」
続いて詠唱したのはキラ。彼女の手から噴出された高魔力の流体は、数メートル先で威嚇していた魔物の頭を貫く。
今キラが来ている服はエヴァが縫製した特製の一点もので、防御力のあるマタニティウェア。しかし見た目は何の変哲もない服なので、普通の妊婦が魔物を一発で仕留めるという些か奇怪な光景になっていた。
そのキラのすぐ横に居るのはスノウ。
(まっぷたつなの!)
いつものセリフと共に放たれた風刃は、ジャイアントワームをコッペパンが横半分に切り分けられたようにスパッと割った。緑色の血が噴き出し、心臓部にあった魔石が落ちて転がる。このグロテスクな眺めをあの可愛らしいスノウが生み出すのだから驚きである。
「キシャーッ!」
スノウの斜め前でジャイアントワームの威嚇音が響く。相対しているスレートは200㎝の本体に戻って魔物を丸呑みしようとしている。魔物は尻尾の針を振りかざすが手で抑え込まれ、頭を滅茶苦茶に振って必死にもがき始めた。するとスレートは新たに4本の手を生やし、上から抑え込む、というより殴りつけて地面にめり込ませる。頭と尻尾を制されたジャイアントワームはもう何も出来ず、金色の半球体に呑み込まれていった。
そしてサニーとサックスはと言えば、それぞれ風魔法で起こした竜巻の中に敵を閉じ込めていた。竜巻といってもサイズはきちんとジャイアントワームに合わせてあり、周囲への影響は出ていない。そしてピンポイントに起こった嵐が収まると、魔物は見るも無残な細切れ状態。辛うじて魔石だけが残っていた。
実はこの2頭、進化時にはステータス変化が無かったがその後の伸び率が物凄く良い。各数値はもちろん、スキルも新たに得た跳躍以外はすぐにランクアップした。特にBランクになった蹴りと踏みつけの威力は、攻撃力の上昇も相まって以前とは比べ物にならないほど強力なものとなった。知力も高くなったので魔法の使い方も多様だ。
こうして7体全てのジャイアントワームを討伐。ここまで僅か数分間の出来事であった。
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大森林の中はまるで別世界に来たと錯覚させるような不思議な雰囲気に満ちていた。林道はそこそこの広さがあるものの、右へ左へと曲がりくねっていて視界良好とは言い難く馬車での移動は困難。木々は全て大木で、偶に樹齢何百年だろうか?と思うような巨大なものもある。見たことのある花や草も自生していたが、それらも他より一回り大きい。
私たちは騎馬で進んでいるが、その乗り心地は以前にも増して良くなっている。それはレオンとエヴァが私のお腹に負担が掛からないよう鞍を改造してくれたから。どこをどう弄ったのかは分からないけど、改良ではなく改造という言葉がしっくりくるくらい良くなっている。
(きがおっきいの!)
ゆっくりと進んでいると、周囲を飛び回っていたスノウが嬉々として鳴く。
(デカイ)
(スゴイデス!)
(オオキイデス!)
スレート、サニー、サックスも待ちに待った大森林探索に興奮気味だ。
「確かに見事だね。シラコワに来るとき外からは眺めたけど、実際入ってみると迫力がある」
「ああ、スケールが違うな」
「うん、凄いね。でも油断すると迷っちゃいそう」
ここは道がくねくねしている上、二叉や三叉に別れている所もあって迷路のように感じる。ただ私たちにはスノウの真眼がある。進化した時Aランクになった真眼は、地上に居ながらにしてアラウンドビューモニターのように真上から広い範囲を眺める事が出来るようになったのだ。そのおかげで道に迷う可能性はゼロに近い。
「だね。これじゃあ地図の所持が規則化されるのも当然だ」
「そうだな。それに野営出来そうな場所が地図に記されているのも有難い」
ギルドで情報を集めて依頼を受けた時、大森林の地図を所持していなければそこでの依頼は受理できないと聞いて購入した。地図はやはり多少大雑把なものだったが、今まで見てきたものよりは要所要所がしっかりと記載されていて役立ちそうだった。
「さて、そろそろ良い場所じゃない?」
「ああ、じゃあ採取しながらレベリングといくか」
(やったぁなの!)
(バンザイ)
((マッテマシタ!))
久しぶりの魔物討伐に張り切るスノウたち。私たちも地面に降り、茂みの中に足を踏み入れた。
■
採取を始めて間もなく、見覚えのあるものを見つけた。長さ40㎝ほどで緑色の厚い莢に覆われたそれは、記憶にあるものよりも大きい。というか、コレって自生するんだ?
「そら豆…?」
「ん?ああ、ホントだ。ソラマメだね」
エヴァが私の呟きに答えてくれる。
「ここではこの大きさが普通?」
「いや、もう少し小ぶりだよ。やっぱりこの森のはサイズが大きいね」
「他で見たことないけど、西大陸にもあったの?」
「森にはあったな」
「だね、自生はしてた。でもあまり需要が無いから売ってる店はヴェスタでも極僅かだったよ」
「そうなんだ…美味しいのに」
「なら採っていくか?」
「うん」
私たちは手分けしてソラマメを採取した。
採取を終えて再び歩きだした時、スノウが魔物の気配を察知した。
(なんかくるの!ベアーとおなじくらいつよいやつ!)
「何体だ?」
(7!)
間もなく私の危機察知に反応があり、その後レオンも気配を感じ取った。
「これはジャイアントワームだ」
ジャイアントワーム…大きなミミズ?
「ジャイアントワームは1mくらいのデカイイモムシで、攻撃は麻痺粘液と糸吐きが主だ。群れで行動するから1人の時に囲まれたら面倒だが、動きが遅いからさっさと魔法で始末しちまえばいい」
「キラ、大丈夫?」
「行けるか?」
「うん、大丈夫」
夫たちの問いに笑顔で答える。
「雷魔法は効かないからそれ以外でだよ」
「分かった」
「よし、皆1体ずつだ。奴の麻痺粘液は尾の針から出るから気を付けろ。スレート、念のため麻痺攻撃は避けろよ?」
(はいなの!)
((オーケーデス!))
(オケ)
レオンの指示にみんなが頷くと、草の間からガサゴソと音が。
「来たか、行くぜ!」
号令をかけたレオンが真っ先に地を蹴って飛び出した。
ジャイアントワームは黒と緑の斑模様の体をくねらせながら針を目の前の敵に向ける。だがレオハーヴェンにとっては片手で事足りる相手。麻痺粘液など吐かせる暇を与える訳が無い。イモムシが攻撃準備を整える前に剣で一刀両断、ブヨブヨした体は真っ二つになった。
「【ウォータースピア】」
詠唱と共に放たれた水の槍がジャイアントワームの頭に深々と突き刺さる。全身がビクンッ!と跳ね、それっきり動かなくなった。水魔法を使ったのはもちもちろんエヴァント、レオハーヴェンとほぼ同時に仕留め終えた。
「【ウォータージェット】」
続いて詠唱したのはキラ。彼女の手から噴出された高魔力の流体は、数メートル先で威嚇していた魔物の頭を貫く。
今キラが来ている服はエヴァが縫製した特製の一点もので、防御力のあるマタニティウェア。しかし見た目は何の変哲もない服なので、普通の妊婦が魔物を一発で仕留めるという些か奇怪な光景になっていた。
そのキラのすぐ横に居るのはスノウ。
(まっぷたつなの!)
いつものセリフと共に放たれた風刃は、ジャイアントワームをコッペパンが横半分に切り分けられたようにスパッと割った。緑色の血が噴き出し、心臓部にあった魔石が落ちて転がる。このグロテスクな眺めをあの可愛らしいスノウが生み出すのだから驚きである。
「キシャーッ!」
スノウの斜め前でジャイアントワームの威嚇音が響く。相対しているスレートは200㎝の本体に戻って魔物を丸呑みしようとしている。魔物は尻尾の針を振りかざすが手で抑え込まれ、頭を滅茶苦茶に振って必死にもがき始めた。するとスレートは新たに4本の手を生やし、上から抑え込む、というより殴りつけて地面にめり込ませる。頭と尻尾を制されたジャイアントワームはもう何も出来ず、金色の半球体に呑み込まれていった。
そしてサニーとサックスはと言えば、それぞれ風魔法で起こした竜巻の中に敵を閉じ込めていた。竜巻といってもサイズはきちんとジャイアントワームに合わせてあり、周囲への影響は出ていない。そしてピンポイントに起こった嵐が収まると、魔物は見るも無残な細切れ状態。辛うじて魔石だけが残っていた。
実はこの2頭、進化時にはステータス変化が無かったがその後の伸び率が物凄く良い。各数値はもちろん、スキルも新たに得た跳躍以外はすぐにランクアップした。特にBランクになった蹴りと踏みつけの威力は、攻撃力の上昇も相まって以前とは比べ物にならないほど強力なものとなった。知力も高くなったので魔法の使い方も多様だ。
こうして7体全てのジャイアントワームを討伐。ここまで僅か数分間の出来事であった。
応援ありがとうございます!
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