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5.キラ
しおりを挟む村の雰囲気は想像とかけ離れてはいなかった。家は木造が多く殆どが平屋、道は多少デコボコしているが狭くはない。メインと思われる通りには店が数件あるだけでお世辞にも活気があるとは言い難かった。村人の服装は世界名作劇場のアニメに出てきそうな感じだ。
ギルドがあるという事だったが冒険者らしき人は今の所見かけない。すれ違う人が皆私の前を歩く男に声をかけたり会釈したりするのをのを見ると彼は村のお偉いさんだろうか。
ギルドマスターとか?・・・っていうか、さっきからすごく視線を感じる。・・・恥ずかしい。
さっき彼が言った通りビキニアーマーが珍しいのか、挨拶した人も店の人も皆こっちを見るのだ。
「この先がギルドだ」
不意に立ち止まって振り向いた男が道の先を指示す。そこは村の中心のようで小高い丘になっていた。丘の上には2階建ての建物と物見台、物見台にも見張りがいて大きな鐘があった。
「まだ名乗ってなかったな、俺はガズリー、このリフ村の代表でギルドマスターだ」
やっぱり。
彼、ガズリーさんの自己紹介を受けて自分も名前をと思ったが一瞬迷う。ステータスの名前欄は?だったから。
私は少し考えてから名乗った。
「キラです。よろしくお願いします」
アキラでは不自然な気がして変えた。ゲームなどでデフォルトの名がない場合、この名を使う事が多かったから馴染みもある。
私はこの時からキラという20才の女性になった。
■
ギルドの中はカウンターと紙の貼られたボードがあるだけの簡単な作りだった。
「ギルドといってもここは出張所だからな、重要な手続きは無理だが仮登録なら出来る。冒険者になるんだろう?」
ガズリーさんには話してないはずだけど・・・もしかして門番との会話を聞いてたのかな。
「はい」
「仮の登録証でも身分証の代わりにはなるから作っておくといい」
「はい、ありがとうございます」
彼は私にそう教えると奥へと消える。
カウンターに窓口は2つあるが1つしか開いていないので迷う必要もない。私は暇そうに立っている受付嬢の元に行った。彼女は私を見て目を見開くがそれはほんの一瞬だった。
「登録したいのですが」
「ここでは仮登録しか出来ませんがよろしいですか?」
「はい」
「かしこまりました。ステータスは見ますか?」
「え?…いえ、大丈夫です…」
ステータスを見るってどういう事?自分で見れるよね?
頭にクエスチョンマークを浮かべながら答える。
後で判明したのだが、自分のステータスでも解析スキルがないと見られないので普通は魔道具で確認するらしい。登録時は無料で見られるがそれ以外は料金が発生するため、子供のうちは自分の持っているスキルを知らない事が多い。インベントリはアイテムバッグを装備すれば併用して使えるようになる。ちなみに、スキルでは使用した本人にしか見えないが魔道具は皆に見える。
「ではこちらに記入をお願いします。代筆は必要ですか?」
「大丈夫です」
差し出された用紙は真っ白では無かったが羊皮紙という訳ではなく、ある程度紙が出回っている事が予想できた。
記入といっても名前と年令くらい。スラスラと書けたが、自分の手から異世界の文字が綴られるのは不思議な気がした。
空欄を埋めた用紙を返す。
「お願いします」
「次はこれに手を乗せてください」
「はい」
門番さんのと同じ水晶玉だ。手を乗せると同じ反応。
「はい、結構です。少々お待ちください」
奥の方で何か作業してすぐに戻ってきた。
「こちらが仮の冒険者カードになります。本登録出来る一番近い街はハイミルの街です。ギルドの説明をしてもよろしいですか?」
「はい、お願いします」
・冒険者はF~A、Sの7ランクがあり、下級、中級、上級、最上級に分かれている。
・依頼達成数やギルドへの貢献度などでランクアップし、Cランク以上はアップ時に試験がある。
・依頼長期無達成、失敗、迷惑行為などでランクダウンや除名処分がある。
・カード紛失、依頼失敗時は違約金が発生する。
・依頼は自分のランク上下1つ違いまで受けられ、種類によっては複数同時進行可能。
「ギルド内での冒険者同士の揉め事、喧嘩などは迷惑行為とされますのでご注意ください。質問などはございますか?」
「いえ、ありません。魔物の買い取りもここで良いんですか?」
「はい」
「数が多いんですが…」
「では倉庫へどうぞ」
案内されたのは裏にある倉庫で結構な広さがあった。解体の道具らしき物が置かれている。
「ベンさん、査定お願いします」
「おう」
受付嬢が声をかけたのは倉庫の奥にいた男性。見た目は30才前後で優しげなタレ目が印象的だ。
受付嬢が戻っていくとベンさんと呼ばれた男が私を眺める。優しげだったタレ目は一気に厭らしさが増した。
「…見ねえ顔だな、流れの冒険者か?」
「いいえ、先ほど仮登録したばかりです」
「へえ…新人でビキニアーマーねえ…余程腕に自信があるか、あるいは…」
「ここへ出しても良いですか?」
言葉の続きは予想がついたので遮って話を進めると、彼は可笑しそうに笑った。厭な感じだ。さっさと済ませたくて返事を待たずに出す。
オーク19体
ゴブリン7体
ゴブリンの魔石5個
ホーンラビットの皮とツノ、魔石7個ずつ
でんっ、と積まれた魔物を目にして驚きを隠せない男。
「オークの肉は1体分だけ戻していただけますか?」
オークの肉が食用なのは解析で知っていたので自分の食料にするつもりだった。残りは全て売ってお金に換え、最低限必要な物だけでも手に入れたい。
「…オークは魔石を見なけりゃ値段がつけられねえから今日中には終わらねえ。明日来い」
「路銀が尽きて入村料を待ってもらってるんです。宿代もないですし、オーク以外だけでも夜までに査定してもらえませんか?」
「仮の冒険者カードがあるだろ、入村料はそれで免除だ。…だがまあ仕方ねえ、夕方の鐘が鳴ったら来い」
魔物の山を見て仕事モードにでもなったのか、男はまた目つきが変わる。こちらをチラッだけ見てそう言い、奥へ道具を取りに行った。
「ありがとうございます。お願いします」
私はその背中に声をかけて倉庫を後にした。
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