異世界ライフは前途洋々

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45.ワイバーン討伐

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 翌朝。昨夜遅くまで話していた2人が心配だったけど、すんごく元気だった。食事しながら、片付けながら、どんな家にしようとか嬉々として言い合っている。そのとても楽しそうな顔を見ていたら、昨日話してみて良かったと思えた。

 だけど野営場を出ると瞬時にキリッとした冒険者に戻る。…素敵です。

 歩きながら予定の確認。

「昼過ぎにはワイバーンの居そうな場所に着く。運が良ければ討伐自体は今日中に終わるが、山での野営は避けられねえ。分かったな?」
「はい」
「ねえねえスノウもわいばーんたおしたいの」
「え…」
「スノウ、お前レベル1…じゃねえな。昨日レベリングしたんだったな」
「ああ、そうだったね」
「あがったのはわかるの。でもどのくらいかわかんないの」
「キラ、解析頼む」
「う、うん…」


【名前】スノウ
【種族】フェニックス(亜種)
【年齢】0才

【レベル】8
【体力】391
【魔力】970
【攻撃力】95
【防御力】80
【素早さ】140

【スキル】火魔法(B)・風魔法(B)・癒しの涙(C)・真眼(C)

【称号】幻獣・キラの契約獣


「…」
「レベル8でこの数値なんて末恐ろしい。さすが幻獣だね」
「魔力が凄えな」
「わいばーんやってもいいい?」

 …あれ、ビックリしてたの私だけ?レオンさんとエヴァさんの適応力ハンパないね…。

「ワイバーンは火耐性があるが…この魔力でBランク火魔法使ったら、皮は使い物になんねえぞ?」
「風なら大丈夫じゃない?」
「え~、スノウふぇにっくすなの。はじめてはひがいいの」
「…何体か居ても1体だけに攻撃できるか?」
「できるの!」
「山とか森とか燃やしたら大惨事だよ?」
「だいじょぶなの、わいばーんだけもやすの」

 2人はスノウの主張に顔を見合わせ息を吐く。

「…仕方ねえな…1体だけだぞ?」
「うん!やったぁ、なの!」

 レオンさんの頭上で羽を広げて喜ぶスノウ。…驚いている間に話し合いは終わってしまいました。

「「キラ」」

 呼ばれて顔を上げると2人の手が差し出される。

「ここから道が悪くなる」
「手繋いで行こう?」
「それとも抱っこがイイか?」
「おんぶでもイイよ?」

 冗談っぽく聞こえるけど目がマジで思わず笑ってしまう。

「ふふ、手が良いな」

 私はそう返して彼らの手を取った。











 出発時は緑が多かった山は登るにつれて岩場が目立ってきた。昼休憩を挟んで登り続け、そろそろ出現予想地に着くという時、スノウがヒョッ、と首を伸ばす。

「あ、いたの。きのうのべあーよりつよそうなの」
「ワイバーンだね」
「ああ。スノウ、どの位いる」
「んっとねー…ご!」
「よし。いいか、ワイバーンは基本的に地上に降りてこねえから空中戦だ。エヴァとキラは魔法攻撃、スノウは1体だぞ。キラ、あまり前に出るなよ?」
「了解」
「はい」
「はいなのー!」

 少し進むと危機察知に反応があり、目でも確認できた。

「…モタついてると先制を喰らう、ここからは一気に行くぞ。射程距離入ったら素早く攻撃だ。スノウ、お前はあの端のヤツ狙え」

 低く話す声にみんな頷いて返す。そして彼のGOサインと共に一斉に飛び出した。




 走り込んでくる者に気が付いた1体が戦闘開始のゴングように咆哮を上げる。ドラゴンの頭、コウモリの翼、ワシの脚、ヘビの尾を持った空を飛ぶ竜が次々と冒険者に襲いかからんとする。そんなワイバーンに真っ先に攻撃したのはエヴァント。

「【シャドウアロー】」

 落ち着いた声色で詠唱した彼の掌から、2本の巨大な漆黒の矢が放たれた。矢はそれぞれの標的目掛けて猛烈な勢いで飛び、その体躯に杭の如く穿たれる。地に堕ちた2体のワイバーンにはぽっかりと大きな穴が空いていた。



 彼に一瞬遅れて攻撃したのはキラ。

「【ウォータージェット!】」

 高密度な超高圧水が彼女の手から続けざまに噴射され、堅牢な鱗を突き破って空へ消える。エヴァントの矢に比べれば頼りない細さだったそれは、頭や首、胴体に命中して魔物の命の火を消した。



 そして―――青い空をヒュンッ、と飛んでいく白い球体、スノウ。大胆にもワイバーンの近くでホバリングする。竜の頭が大きな口から鋭い牙を見せた、その瞬間。

 かぱっ、と開いたちっちゃな口から…

 ゴッ!!!

 と自らの100倍はありそうな巨大な炎を吐いて敵を業火に包む。火耐性を持っているはずのワイバーンは、瞬く間に黒焦げになって墜落した。




 最後の1体。

 剣を持ち、小高い岩壁の上に登っていたレオハーヴェンはメンバーの戦いを見て不敵な笑みを浮かべた。

「【身体強化】」

 唱えた途端、ブワッと魔力が彼を包む。地を蹴って弾丸の如く飛び出し、岩壁からワイバーンに向かって跳躍する。

「【薪割り】」

 人のものとは思えないような凄まじい勢いのまま振るわれた剣は、下級竜を薪のように呆気なく真っ二つにした。




 ズウゥン…

 最後の1体が倒れ、辺りはワイバーンの巨体だらけになった。レオンさんとエヴァさんが笑顔でパンッ、と手を合わせる。そして念のためワイバーンの生死を確認してから集合。

「エヴァは当然だが、キラ、それにスノウも良くやった」
「うん。キラの水魔法は凄かったね、あんな使い方初めて見た。スノウもさすがフェニックスだったよ」
「わーい、ほめられたの。スノウえらい?」

 私の肩にいるスノウは2人に褒められて嬉しそうだ。

「ああ、偉いぞ」

 レオンさんが指でくりくりとスノウを撫でたので私も一緒に撫でる。

「スノウが近くに飛んでったのが見えた時はハラハラしちゃったけど、無事で良かった。凄かったね」
「偉い偉い」

 そこにエヴァさんも加わってみんなにくりくりされ、至福の表情で小さな体をくねくねさせている。

「みんなでくりくりきもちいいの…もっとなの」
「「「…」」」

 なんとなくアレっぽく聞こえるセリフに、全員ぴたっとくりくりをやめる。

「え、えーと…そうだ、2人とも凄く強くてカッコ良かった」
「…そう?ありがとう。…具体的に教えて欲しいな?」
「そうだな…どうなんだ?」

 雰囲気を変えようとして言ったのに2人はグイッと迫ってきて私の腰や肩を抱く。…ワイバーンの死骸のそばでこれはちょっと。

「え…あの…その…あ、後で言うから…」
「よし、片付けるぜ」
「うん、言質は取ったしね」
「…」

 私は眠ってしまったスノウを手に抱きながら、彼らの変わり身の早さに息を吐いたのだった。

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