異世界ライフは前途洋々

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135.緊急措置

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 “緊急措置”――――それはドラゴンダンジョン内でのみ適用される、冒険者救済とダンジョン攻略の為の特例規定。

 何だか仰々しく聞こえるが内容は単純で、双方の合意があればその場で臨時の合同パーティーが組めるというもの。ドラゴンダンジョンは攻略が困難なうえ上級パーティーしか挑めないが、攻略者が出なければ周囲の街は壊滅。ならば上級同士で手を組んでボスを倒して貰おうというわけだ。この措置を取る事でボス討伐に成功すれば、街も守れるし上級パーティーも竜素材や膨大な経験値を得られる。




「…おれたちと臨時パーティーを?しかし…お前たちなら自分らだけでイケるんじゃないか?」
「ああ。…だが、俺らはあんたらガーディアンを確実にバリリアに帰したい。それにはこの方法を取るのが一番良い。こっちからいくつか条件も付けさせてもらうが、損な話ではねえ筈だ」
「…なぜだ?そっちは旅のパーティーで、おれたちとも昨日会ったばっかりだ。なのになぜそんな…」

 レオンは短く息を吐いてから口を開く。

「さっきも言っただろ、あんたらを助けてくれと頼まれたって。それにガーディアンはバリリアに無くてはならないパーティーだ。ギルマスやここの管理人から話を聞いてそう思ったからだ」

 続いてエヴァも話した。

「バリリアは小さいけれどとても豊かな街だと思う。それは緑や水の豊富さだけじゃ無く、人々の表情や暮らしぶりからも分かったよ。今までそれを守って来たのはガーディアンだろう?」
「「「「…」」」」

 彼らはまだ驚きから解放されずに呆けているが、レオンは構わずに条件を話し始める。

「条件は2つ。まず、戦いは俺らに任せてガーディアンはサブメンバーに回ってもらう。後は、あんたらが目にする俺らの戦いを他言しねえ事だ」

 臨時パーティーを組む場合、両方が共に攻撃するパターンと途中交代するパターン、それに片方が控えに回って参加しないパターンの3つがある。殆どは前2つのパターンで、私たちが提示したのはこの中で最も珍しい最後のパターンだ。このやり方はどちらかがまともに戦えない、本当の緊急時に使うもの。要するに協力ではなく救助なのだ。

 今回これを選んだ理由は、彼らが既に挑戦済みである事と会ったばかりで連携が取れない事にある。他の魔物ならいざ知らず相手はドラゴン、しかもボス戦だ。少しでも不安要素を無くして盤石の態勢で向かいたい。分かってくれると良いのだけど。

「…ちょっと、頭を整理したい。少し時間をくれ」
「ああ。心が決まったらコテージに来てくれ」
「分かった」

 リーダーが他のメンバーを促し、4人は外へと出て行った。

「どうくるかな?」
「あのリーダーは中々柔軟な思考を持ってるみてえだからな、了承するとは思うが…」
「問題は参謀のアイシクルかな?彼は割と険しい顔つきしてたしね。スノウ、どうだった?」
(なんもかんじないの)

 眠そうにしていたスノウはふるふると首を横に振る。

「そうか。まあ、常に冷静な奴がいるパーティーってのはバランスが取れてて良い」
「冒険者には無頼漢が多いからね」
(…おはなしまだあるの?)

 そう尋ねて『くぁ~っ』と可愛いあくびをする。飽きてます。

「話はあるが行動開始はおそらく明日だ。飽きたなら表に行っても良いぜ」
(やったぁなの!さにーとさっくとあそんでていいの?)
「ああ。だがコテージからあんまり離れるなよ」
(はいなの!)

 さっきまでの眠気は何処へやら、張り切って外へ飛んでいきました。

「さて、コーヒーのお代わり淹れようか」
「俺はエスプレッソが良い」
「キラもそれで良い?」
「うん。手伝う」

 確認しながら立ち上がるエヴァ。私も一緒にキッチンへ向かった。











 結局ガーディアンは私たちの条件をのみ、共に最下層へ降りる事になった。

 その後臨時パーティー結成のため、儀式的な作業を行う。それはギルドから発行されたドラゴンダンジョン挑戦許可証を使うのだが、面倒な事は無い。相手パーティーの許可証に血判を押すだけで終わりだ。

 後は細かな話し合い。まずは臨時パーティーのリーダーで、これはレオンに決定。今日は休養し、挑戦は明日に決まった。

「ボスはエンシェントドラゴン、しかも属性は闇だ」




 エンシェントドラゴン―――古龍。

 魔物のランクがF~Sまでとなっているにも関わらず、唯一特例でSSランクが認められている。ランク付けの無い幻獣を除けば間違いなく最強の魔物である。

 古龍は他のドラゴンが永い時を経て稀に進化することで現れる。そのため決まった属性は無い。全長は40~50mもあり、その体躯は2重の防御が成されている。内側は自身の鱗、外側は生息地の環境に沿った防具だ。エンシェントドラゴンは森林に棲めば草花や木、岩山に棲めば岩や鉱石で鱗の外側を覆う。最強であり、敵などいない筈の古龍が何故そのようなことをするのか。それは圧倒的に数が少ないが故の自己防衛だとする説が有力だが、本当の所は判明していない。

 2重防具の所為で実際戦ってみるまで属性が分からない。このことがエンシェントドラゴン討伐の難易度を格段にアップさせているのは間違いなかった。しかもここのボスは全属性中最難関とされている闇、更にこれはガーディアンが挑戦して初めて判明した事だ。如何に上級ランクの冒険者と雖も尻込みしてしまうと思うのが普通だろう。

 だがレックスのリーダー、レオハーヴェンは不敵な笑みを浮かべた。

「…くくくっ…闇か、なるほどな」
「…何か策があるのか?」
「まあな。対処法はある」

 笑みを崩さず答えるレオハーヴェン。エヴァントとキラの表情にも焦りは見えない。

「マジか…凄いな…」
「外は何だった?」
「あ、ああ…草花や木だったな。だから外側は剝がせたんだがそれ以上は無理だった」
「そうか、分かった。教えてくれて助かったぜ」
「ああ…」

 レックスの予想外の反応に、ゴルドを始めとするガーディアンのメンバーはただ驚くばかりだった。











 その夜。

 私たちは一緒に夕食を摂ったガーディアンがテントに戻ってから会議をしていた。議題は当然明日の古龍戦の対策だ。

「闇の古龍か、オレたちにとっては他の属性よりやりやすいね」
「ああ、唯一真面に効く攻撃法を持ってるからな」

 古龍というのは他のドラゴンより更に防御力が高く、中でも闇属性はかなり厄介らしい。デミリッチと同じで通常の物理攻撃は効かず、魔法耐性も高くて光魔法と聖水、浄化での攻撃だけが真面なダメージを与えられるのだとか。

 聖水を仕込んだ武器がまた役に立ちます。私も浄化で攻撃と防御ができる。

(スノウは?もやしていい?)
「良いぜ。古龍が現れたらまずはキラとスノウの火魔法で外側を剥がす。相手は最強の魔物だからな、思いっきりヤれ」
(わかったの!)

 スノウが張り切って返事する。

 綿密な打ち合わせはその後も続いた。

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