171 / 213
156.東大陸
しおりを挟む
クラーケンに遭遇するというアクシデントはあったものの、2度目の船旅も無事終わりを迎えようとしていた。
船が進むにつれて気温が下がって肌寒くなり、寒いのが苦手なスノウは甲板に出なくなった。サニーとサックスの元へ行く時もレオンの胸ポケットに収まっておとなしくしている。鳥は寒いと膨らむ印象があるけどそれはスノウも同じで、元からまるっとしている体が更にもふもふして何とも可愛い。でも運動不足になりそうなのが心配です。サニー、サックス、スレートは平気みたいです。
到着を明日に控えた夜、数日ぶりに恒例の会議。
「明日、あまり遅くならないうちに着くと良いんだけど」
「ああ。20時が完全閉門だって話だから18時には着いて欲しいが…微妙なところだな」
「宿は多いみたいだけど出来ればコテージで休みたいよね」
「うん。お風呂で温まりたいな」
(スノウもおふろはいってぽかぽかしたいの…)
本来ならば昼過ぎ到着予定だったがクラーケン出現の影響で遅れている。スターリンさんに聞いたところ、東大陸は20時に完全閉門する街が多いのだとか。明日着く港街はそこそこ大きくて両ギルドや教会、公衆浴場、中型契約獣OKの宿も揃っているらしいがやはりコテージが恋しい。
「よし。時間にもよるが、着いたら街を出てコテージ直行で良いな?」
「うん、良いよ」
「私も」
(スノウも!)
みんなが同意し、全会一致で予定が決まった。
⬛︎
翌日。
船は予定より6時間遅れの19時に到着した。日はとうに沈み、船着場からは遠目に街灯や家々のランプの灯りが見える。
私たちはスターリンさんたちに別れを告げ、メイン通りを真っ直ぐ進んで門に向かった。
そこそこ大きいと聞いていた通りメインストリートは大きな馬車がすれ違える広さだ。街灯に照らされる街並みはレンガや石造りの建物が多く、道は形の整った石が敷かれている。厳しいというほどでも無いがやはり海風で肌寒く、行き交う人々も上着の襟を立てて風を凌いでいる。商店は閉まっているが、食堂兼酒場のような店からは暖かそうな灯りが漏れて吸い寄せられる様に客が入っていく。南大陸ではあまり秋を感じられなかったので、夏からいきなり冬になった気がする。
同じ船から降りた人たちは宿を探していたが、私たちはそのまま街を出てコテージを設置した。
「あったかいの…」
赤々と薪が燃えている暖炉にこれでもかというくらい近付いて暖まっているスノウは、羽を広げてだらっとしている。その横に並んだスレートも、炎を見つめながら溶けかかったアイスのようにぐてんとしていた。スレートも寒かったのかな?と思ったけど違ったようで、ただスノウのマネをしているだけらしい。
「スノウ、スレート、あんまり火に近付くと危ないよ」
「焼き鳥と焼きスライムになるぞ」
全然暖炉から離れないスノウたちにレオンとエヴァが注意する。
「む!スノウふぇにっくすだからやけないの!」
「スノウは焼けなくても火が移ったら家が燃えるよ」
「むぅ…それはこまるの」
「だろ?部屋はすぐに暖まるから少しだけ我慢しろ」
「わかったの」
そのやり取りを聞きながら食事の支度をしていた私は、会話終わりを見計らって声を掛けた。
「ふふ。ほら、ご飯だよ」
「ごはんたべるの!」
ご飯、と聞いたスノウは元気良く返事をした。
食後はコーヒーを飲みながら明日からの予定を相談。
「明日はまずギルドで手続きだな。その後街を見て回るか?」
「そうだね、良いんじゃない?どう?キラ」
「うん。もちろん良いよ、買い物したいし。明後日からは冬支度?」
「ああ。発つのはしっかり支度を済ませて大まかな長期予定を立ててからだな」
長期の予定とは出産後までの計画だ。悪阻の時期は移動がキツイかもしれないし、出産前後は今までに無い長期滞在になる。そういう事を色々踏まえて計画を練るのだ。
「ウチには寒がりがいるし、冬支度はきちんとしておかないとね。そういえばキラは寒いの大丈夫?」
「うん、雪国育ちだから大丈夫」
「へえ、雪国か。初めて聞いたな」
「豪雪地帯ではないけど、それなりに降るところだったよ」
私がそう答えた時、スノウが焦れたように鳴く。
「はやくおふろはいりたいの!」
「フフ、ゴメンゴメン。入ろうか」
「くくっ…そうだな、風呂で暖まるか」
「うん」
「おふろー!」
スノウはスレートと一緒にバスルームへ急ぐ。私たちは顔を見合わせて小さくキスを交わしてから後に続いた。
⬛︎
翌日は朝イチで冒険者ギルドに行った。当然だが冬は日暮れが早い分店も営業時間が短い。ギルドでそう時間が掛かるとは思わないが、のんびりしていて後で慌てて買い物、なんて事が無いように念の為。
建物は石造りの2階建てで、隣には物見台と馬車や契約獣の待機場所があった。サニーとサックスにはそこで待っててもらい、中へ。
冒険者ギルドは大抵朝が1番混む。帰ってくる時間はまちまちでも発つのは皆朝早いからだ。それは東大陸も同様で多くの冒険者が依頼ボードやカウンターに詰めかけていた。中の作りも各大陸共通で他と変わりはなく、冒険者の雰囲気や女性の数も西大陸と同じように感じる。しかし酒場は割と狭くて宿としての部屋数は少なそうだった。
まずは依頼ボードへ。
「依頼の中身は西と似てるな」
「だね。報酬は…少し割安かな?」
「そうだな」
レオンとエヴァの言う通り、見慣れた魔物の名前が記されている。気候が似ていると生息する魔物も似るのかもしれない。
「発つ前にひとつくらい熟したいところだが…」
「やっぱりSランクの依頼は無いね」
「仕方ねえな。手続きに行くか」
「うん」
その後、カウンターで手続きを済ませ私たちは買い物に向かった。
手続きの際受付嬢はかなり驚いていたが、レックスの面々はそういう反応には慣れたもので冷静だった。
その手続きとは南大陸でも最初に行った他国活動の許可証を確認してもらう作業。当然その許可証にはロンワン統括の魔印、そして冒険者カードは全てSランク、これで驚くなと言うのは酷な話である。
船が進むにつれて気温が下がって肌寒くなり、寒いのが苦手なスノウは甲板に出なくなった。サニーとサックスの元へ行く時もレオンの胸ポケットに収まっておとなしくしている。鳥は寒いと膨らむ印象があるけどそれはスノウも同じで、元からまるっとしている体が更にもふもふして何とも可愛い。でも運動不足になりそうなのが心配です。サニー、サックス、スレートは平気みたいです。
到着を明日に控えた夜、数日ぶりに恒例の会議。
「明日、あまり遅くならないうちに着くと良いんだけど」
「ああ。20時が完全閉門だって話だから18時には着いて欲しいが…微妙なところだな」
「宿は多いみたいだけど出来ればコテージで休みたいよね」
「うん。お風呂で温まりたいな」
(スノウもおふろはいってぽかぽかしたいの…)
本来ならば昼過ぎ到着予定だったがクラーケン出現の影響で遅れている。スターリンさんに聞いたところ、東大陸は20時に完全閉門する街が多いのだとか。明日着く港街はそこそこ大きくて両ギルドや教会、公衆浴場、中型契約獣OKの宿も揃っているらしいがやはりコテージが恋しい。
「よし。時間にもよるが、着いたら街を出てコテージ直行で良いな?」
「うん、良いよ」
「私も」
(スノウも!)
みんなが同意し、全会一致で予定が決まった。
⬛︎
翌日。
船は予定より6時間遅れの19時に到着した。日はとうに沈み、船着場からは遠目に街灯や家々のランプの灯りが見える。
私たちはスターリンさんたちに別れを告げ、メイン通りを真っ直ぐ進んで門に向かった。
そこそこ大きいと聞いていた通りメインストリートは大きな馬車がすれ違える広さだ。街灯に照らされる街並みはレンガや石造りの建物が多く、道は形の整った石が敷かれている。厳しいというほどでも無いがやはり海風で肌寒く、行き交う人々も上着の襟を立てて風を凌いでいる。商店は閉まっているが、食堂兼酒場のような店からは暖かそうな灯りが漏れて吸い寄せられる様に客が入っていく。南大陸ではあまり秋を感じられなかったので、夏からいきなり冬になった気がする。
同じ船から降りた人たちは宿を探していたが、私たちはそのまま街を出てコテージを設置した。
「あったかいの…」
赤々と薪が燃えている暖炉にこれでもかというくらい近付いて暖まっているスノウは、羽を広げてだらっとしている。その横に並んだスレートも、炎を見つめながら溶けかかったアイスのようにぐてんとしていた。スレートも寒かったのかな?と思ったけど違ったようで、ただスノウのマネをしているだけらしい。
「スノウ、スレート、あんまり火に近付くと危ないよ」
「焼き鳥と焼きスライムになるぞ」
全然暖炉から離れないスノウたちにレオンとエヴァが注意する。
「む!スノウふぇにっくすだからやけないの!」
「スノウは焼けなくても火が移ったら家が燃えるよ」
「むぅ…それはこまるの」
「だろ?部屋はすぐに暖まるから少しだけ我慢しろ」
「わかったの」
そのやり取りを聞きながら食事の支度をしていた私は、会話終わりを見計らって声を掛けた。
「ふふ。ほら、ご飯だよ」
「ごはんたべるの!」
ご飯、と聞いたスノウは元気良く返事をした。
食後はコーヒーを飲みながら明日からの予定を相談。
「明日はまずギルドで手続きだな。その後街を見て回るか?」
「そうだね、良いんじゃない?どう?キラ」
「うん。もちろん良いよ、買い物したいし。明後日からは冬支度?」
「ああ。発つのはしっかり支度を済ませて大まかな長期予定を立ててからだな」
長期の予定とは出産後までの計画だ。悪阻の時期は移動がキツイかもしれないし、出産前後は今までに無い長期滞在になる。そういう事を色々踏まえて計画を練るのだ。
「ウチには寒がりがいるし、冬支度はきちんとしておかないとね。そういえばキラは寒いの大丈夫?」
「うん、雪国育ちだから大丈夫」
「へえ、雪国か。初めて聞いたな」
「豪雪地帯ではないけど、それなりに降るところだったよ」
私がそう答えた時、スノウが焦れたように鳴く。
「はやくおふろはいりたいの!」
「フフ、ゴメンゴメン。入ろうか」
「くくっ…そうだな、風呂で暖まるか」
「うん」
「おふろー!」
スノウはスレートと一緒にバスルームへ急ぐ。私たちは顔を見合わせて小さくキスを交わしてから後に続いた。
⬛︎
翌日は朝イチで冒険者ギルドに行った。当然だが冬は日暮れが早い分店も営業時間が短い。ギルドでそう時間が掛かるとは思わないが、のんびりしていて後で慌てて買い物、なんて事が無いように念の為。
建物は石造りの2階建てで、隣には物見台と馬車や契約獣の待機場所があった。サニーとサックスにはそこで待っててもらい、中へ。
冒険者ギルドは大抵朝が1番混む。帰ってくる時間はまちまちでも発つのは皆朝早いからだ。それは東大陸も同様で多くの冒険者が依頼ボードやカウンターに詰めかけていた。中の作りも各大陸共通で他と変わりはなく、冒険者の雰囲気や女性の数も西大陸と同じように感じる。しかし酒場は割と狭くて宿としての部屋数は少なそうだった。
まずは依頼ボードへ。
「依頼の中身は西と似てるな」
「だね。報酬は…少し割安かな?」
「そうだな」
レオンとエヴァの言う通り、見慣れた魔物の名前が記されている。気候が似ていると生息する魔物も似るのかもしれない。
「発つ前にひとつくらい熟したいところだが…」
「やっぱりSランクの依頼は無いね」
「仕方ねえな。手続きに行くか」
「うん」
その後、カウンターで手続きを済ませ私たちは買い物に向かった。
手続きの際受付嬢はかなり驚いていたが、レックスの面々はそういう反応には慣れたもので冷静だった。
その手続きとは南大陸でも最初に行った他国活動の許可証を確認してもらう作業。当然その許可証にはロンワン統括の魔印、そして冒険者カードは全てSランク、これで驚くなと言うのは酷な話である。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4,850
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる