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161.悪阻
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翌朝もいつもの時間に目が覚めた。ベッドに起き上がってみるが今日は昨日より良い。そっと移動を開始するとエヴァも起き上がってきて私を引き留めた。
「朝食ならオレが支度するから、もう少しゆっくりしてて」
「ありがとう、でも大丈夫。昨日より気分が良いし」
「そう?じゃあ一緒にする?」
「うん」
ちゅっ、とキスして着替え始めると、もぞもぞと動いていたレオンが体を起こす。
「キラ…大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫」
「…ん、なら良いが…気分悪くなったら無理すんなよ」
「ん…ありがとう」
私はまだ寝惚け眼のレオンと軽くキスを交わしてからキッチンへ行った。
⬛︎
食後、コテージを出た私たちは街を見て回っていた。夫たちに『気分が悪くなったらすぐに言え』と念を押されての外出です。
この街は港街よりも小規模ながら大きな森林や川など豊かな自然の恵みが近くにある。その為店の数も多く実に様々な品が並んでいた。他大陸では探さないと見つからなかった米やミソ、しょうゆなども目立つ場所に売っている。やはりそれだけ需要があるのだろう。
そんな中で見つけたのが手芸屋にあった毛糸。これはロームシープという魔物の冬毛で、採れるのは冬のみという季節ものだったのだ。道理で手に入らない訳だ。
私は編み棒と毛糸を何色か買って店を出た。
これを複製しておいてレオンとエヴァのセーター編もう。スノウとサニー、サックスはネックウォーマーが良いかな。スレートはマフラーも帽子も脱げそうだから…手袋とかかな?
とか色々考えながら歩いていると両隣りから笑い声が。
「くくっ、楽しそうだな」
「だね、フフッ。何か編んでくれるの?」
「うん、もちろん。ね、セーターならVネックとクルーネックどっちが良い?」
「俺はVネックだな」
「オレはどっちでも良いよ」
そこへスノウが飛んできて自己主張した。
(スノウは?スノウにもきいて?)
「ふふ。スノウは何が良い?」
(んとね、せーたーってなに?)
「くくっ…そこからかよ」
「セーターっていうのは、暖かい糸で出来た服だよ」
(…ふくなの?)
「セーターじゃないけどスノウにもちゃんと作るよ」
(ありがとなの!たのしみなの!)
基本的に服を着ないスノウは落ち込んだが、一瞬で復活してサニーたちの所へ飛んでいった。
私たちは昼頃コテージに戻ってきた。今までこういう時は店で昼食を摂ってくる事が多かったけど、しばらく外食は控える事にしたのだ。その理由は私の悪阻。さっき屋台が並ぶ道を通った途端、色々な食べ物の匂いが押し寄せてきて急に気持ち悪くなってしまった。
「お待たせ、キラ」
「ありがとう」
ソファーで休んでいた私にエヴァがカップを手渡してくれる。中身は温かいレモネードだ。特にすっぱいものが食べたいという訳ではないが、こういうサッパリした飲み物は飲むとホッとする。
「…ふぅ…美味しい…」
「…少しは良くなったか?」
レオンが私の頭を撫でながら言う。両隣に座っている2人だけでなく、通常なら遊び回っているスノウとスレートも心配気にしている。
「うん、街中にいた時よりだいぶ良いよ。心配かけてごめんね」
「そんな事気にすんな」
「そうだよキラ。妊娠は病気じゃないし、心配し過ぎるのも良くないってオレたちも分かってる。でも…青い顔してるのを見るとどうしてもね」
「ああ。もっとどっしり構えていられりゃ良いんだが、つい、な」
正直に思っていることを話してくれるレオンとエヴァ。そんな2人にほんの少しだけ申し訳ない気持ちを感じつつも、前世では出来なかった事がまたひとつ叶おうとしている今の状況を幸せに思った。
「…ありがとう」
私たちは小さくキスを交わした。
⬛️
その夜、悪阻が治まるまでの期間をどこで過ごすか相談した。いつもならコーヒーを飲むのだが、今は量を1日1、2杯に控えているので私はレモネードだ。2人もコーヒー好きの私を気遣ってお茶にしてくれている。
「今日の感じからすると街中はやめたほうが良いかもね」
「ああ、そうだな。キラはどうだ?どういう場所が良いとか、希望はねえか?」
聞かれて暫し考える。確かに街中は色々便利だろうけど、あまり外に出る気にはならなそうだ。しかしいくら冬でも家に閉じこもりっきりは良くない。
「…家の周りを散歩出来るような場所が良いかな」
「散歩か…そうだね。気分転換も重要だ」
「…ならいっそのこと森の中にするか?」
「あ、それは良いかも。ここの近くの森なら1日で街と往復出来そうだし、後はスペースさえ見つかれば」
「もり!スノウももりがいいの!」
レオンの案にエヴァはもちろんスノウも翼を広げて即賛成している。
「よし、明日俺が森の様子を見てくる。まあ余程の事が無けりゃ大丈夫だろうが、念のため決定はその後だな」
「だね。キラもそれで良い?」
「うん、もちろん」
決定は持ち越されたけれど、私は早くも森の中のコテージ生活が楽しみになった。
それから2日後、私たちは森の中にコテージを移した。
「朝食ならオレが支度するから、もう少しゆっくりしてて」
「ありがとう、でも大丈夫。昨日より気分が良いし」
「そう?じゃあ一緒にする?」
「うん」
ちゅっ、とキスして着替え始めると、もぞもぞと動いていたレオンが体を起こす。
「キラ…大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫」
「…ん、なら良いが…気分悪くなったら無理すんなよ」
「ん…ありがとう」
私はまだ寝惚け眼のレオンと軽くキスを交わしてからキッチンへ行った。
⬛︎
食後、コテージを出た私たちは街を見て回っていた。夫たちに『気分が悪くなったらすぐに言え』と念を押されての外出です。
この街は港街よりも小規模ながら大きな森林や川など豊かな自然の恵みが近くにある。その為店の数も多く実に様々な品が並んでいた。他大陸では探さないと見つからなかった米やミソ、しょうゆなども目立つ場所に売っている。やはりそれだけ需要があるのだろう。
そんな中で見つけたのが手芸屋にあった毛糸。これはロームシープという魔物の冬毛で、採れるのは冬のみという季節ものだったのだ。道理で手に入らない訳だ。
私は編み棒と毛糸を何色か買って店を出た。
これを複製しておいてレオンとエヴァのセーター編もう。スノウとサニー、サックスはネックウォーマーが良いかな。スレートはマフラーも帽子も脱げそうだから…手袋とかかな?
とか色々考えながら歩いていると両隣りから笑い声が。
「くくっ、楽しそうだな」
「だね、フフッ。何か編んでくれるの?」
「うん、もちろん。ね、セーターならVネックとクルーネックどっちが良い?」
「俺はVネックだな」
「オレはどっちでも良いよ」
そこへスノウが飛んできて自己主張した。
(スノウは?スノウにもきいて?)
「ふふ。スノウは何が良い?」
(んとね、せーたーってなに?)
「くくっ…そこからかよ」
「セーターっていうのは、暖かい糸で出来た服だよ」
(…ふくなの?)
「セーターじゃないけどスノウにもちゃんと作るよ」
(ありがとなの!たのしみなの!)
基本的に服を着ないスノウは落ち込んだが、一瞬で復活してサニーたちの所へ飛んでいった。
私たちは昼頃コテージに戻ってきた。今までこういう時は店で昼食を摂ってくる事が多かったけど、しばらく外食は控える事にしたのだ。その理由は私の悪阻。さっき屋台が並ぶ道を通った途端、色々な食べ物の匂いが押し寄せてきて急に気持ち悪くなってしまった。
「お待たせ、キラ」
「ありがとう」
ソファーで休んでいた私にエヴァがカップを手渡してくれる。中身は温かいレモネードだ。特にすっぱいものが食べたいという訳ではないが、こういうサッパリした飲み物は飲むとホッとする。
「…ふぅ…美味しい…」
「…少しは良くなったか?」
レオンが私の頭を撫でながら言う。両隣に座っている2人だけでなく、通常なら遊び回っているスノウとスレートも心配気にしている。
「うん、街中にいた時よりだいぶ良いよ。心配かけてごめんね」
「そんな事気にすんな」
「そうだよキラ。妊娠は病気じゃないし、心配し過ぎるのも良くないってオレたちも分かってる。でも…青い顔してるのを見るとどうしてもね」
「ああ。もっとどっしり構えていられりゃ良いんだが、つい、な」
正直に思っていることを話してくれるレオンとエヴァ。そんな2人にほんの少しだけ申し訳ない気持ちを感じつつも、前世では出来なかった事がまたひとつ叶おうとしている今の状況を幸せに思った。
「…ありがとう」
私たちは小さくキスを交わした。
⬛️
その夜、悪阻が治まるまでの期間をどこで過ごすか相談した。いつもならコーヒーを飲むのだが、今は量を1日1、2杯に控えているので私はレモネードだ。2人もコーヒー好きの私を気遣ってお茶にしてくれている。
「今日の感じからすると街中はやめたほうが良いかもね」
「ああ、そうだな。キラはどうだ?どういう場所が良いとか、希望はねえか?」
聞かれて暫し考える。確かに街中は色々便利だろうけど、あまり外に出る気にはならなそうだ。しかしいくら冬でも家に閉じこもりっきりは良くない。
「…家の周りを散歩出来るような場所が良いかな」
「散歩か…そうだね。気分転換も重要だ」
「…ならいっそのこと森の中にするか?」
「あ、それは良いかも。ここの近くの森なら1日で街と往復出来そうだし、後はスペースさえ見つかれば」
「もり!スノウももりがいいの!」
レオンの案にエヴァはもちろんスノウも翼を広げて即賛成している。
「よし、明日俺が森の様子を見てくる。まあ余程の事が無けりゃ大丈夫だろうが、念のため決定はその後だな」
「だね。キラもそれで良い?」
「うん、もちろん」
決定は持ち越されたけれど、私は早くも森の中のコテージ生活が楽しみになった。
それから2日後、私たちは森の中にコテージを移した。
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