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173.新たな海鮮食材
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スレートが超ミニ化してから6日後の昼過ぎ、漁師街に到着した。
門をくぐって街に入ると道は左右と正面の3方向に分かれていた。ここから直進すると市場、右折すると冒険者ギルド、左折すると商業ギルドがあるらしい。私たちはまず冒険者ギルドへ行く事にした。
この街は海鮮市場が有名で、他ではお目にかかれないような海の幸が手に入る。それらを仕入れに来る商人も多く、決して大きくない街の規模から考えると商業ギルドは立派だ。海の魔物を相手にしている冒険者ギルドも同様である。
「サニー、サックス、お前らはここで待ってろな」
((ハイ))
ギルド前に着いてレオンがそう言うと、2頭は声を揃えて返事する。するとスノウとスレートが鳴いた。
(きょーはスノウたちもここでまってるの)
(マツ)
「そう?なら大人しくしてるんだよ」
(はいなの)
(オケ)
「すぐ戻るからね」
私たちはスノウたちに見送られながら中に入った。
木造2階建てのギルド内は広く、最も暇であろう時間帯でも結構な数の冒険者が居た。あまり見慣れない恰好の人もチラホラいて冒険者たちと話している。
まずは依頼ボードをチェック。
「漁船の護衛が多いな」
「漁師街ならではってところかな」
「普通の討伐依頼はあんまりないんだね。魔物少ないのかな?」
「そうかもな。この辺りは魔物の棲みつきやすそうな場所も少ねえみてえだし」
「だろうね。だからこういうのが成り立つんじゃない?」
こういうの、と言ってエヴァが指さしたのは隣にあった掲示板。そこにはパートナー募集の張り紙がたくさん張られていた。
「パートナー?」
「漁師と専属契約して漁に同行、必要な時は船を出してくれるみたいだよ」
「なるほどな。漁の時は護衛、自分が討伐に行く時は足になってくれるってことか」
「へえ…」
確かにこれなら双方の欠点を補いつつ上手くやっていけるかも。
「まあ俺らが討伐で海に出る事はあまり無いと思うが…」
「だね、こういう対処法があるって心に留めておくくらいで良いかな」
「ああ、そうだな」
「うん、分かった」
その後私たちは必要な情報を集めたのだが、その中に気になる物があった。それは昨年の12月半ばに沖の方で水竜、ブルードラゴンが目撃されたという情報。竜はもの凄い勢いで泳ぎ去ったらしく、目撃した漁師も無事だったようだ。
だが…
「…気になるな」
「だね。クラーケンの件に関係ある可能性は高いよね」
「ああ。もしそうだとしたら…沖とはいえ、滅多に人前に姿を現さないドラゴンが何故クラーケンを追っていたのか…ただの縄張り争いとはどこか違う気がする」
ブルードラゴンというのはドラゴン種のなかでは割合冷静な性質だという。縄張り争いとはいえ、人目も気にせず相手を追ったのには他に理由があるのかもしれない。
「…約4カ月前の事だけど、これは気にしておいた方が良いね」
「そうだな。キラも分かったな?」
「うん。スノウたちにも言っておかなきゃね」
「だね」
「ああ」
これについては夜伝える事にしてスノウたちの元へ戻った。
■
翌日は午前中のうちに買い物を済ませようと朝食後に街に入った。私は海鮮市場に行くのを楽しみにしていた。持っていない海産物があったらぜひ欲しい。
門から通りを真っ直ぐ進むと、程なくして海鮮市場と書かれた大きな看板が見えた。その看板から先はたくさんの店が軒を連ねていて、店主たちが店先で威勢の良い声を上げている。まだ早い時間であるにも拘わらず既に多くのお客さんが来ていた。活気ある雰囲気は如何にも漁業の街といった感じ。
「普通の市場ともまた違った雰囲気だな」
「だね。店の数で言えばヴェスタの方が多かったけど、この活気は凄いよ。キラ、人に酔わない?」
「うん、大丈夫」
「じゃあ行こうか」
「うん」
私たちは市場を見て回るべく看板の先に足を踏み出した。
店には実に様々な魚や貝、海藻などが並んでいた。一尾丸々のものや切り身にされているもの、そして刺身まで売っている。冷蔵が必要な事もネックになっているのだろうが、西と南の大陸では魚を生で食べる習慣がない。
レオンとエヴァが刺身を見て不思議そうな顔をしていたので説明すると、聞いていた店の男性が感心したように声を掛けてきた。
「良く知ってるねぇ、お客さん!刺身はこの辺りより北方の漁師街でしか食べられてないのに!刺身好きかい?」
「ええ、好きです。何がおススメですか?」
「今が旬のサワラとタイかな。後は時期はちょっとズレたが良いマグロがあるよ、どうだい?」
「え、マグロがあるんですか?欲しいです!出来れば一本のままが良いんですけど」
「ああ、まだ解体してないのがあるけど…本当に一本丸々かい?」
「はい」
「良い買いっぷりだねぇ、おまけに美人さんだし。よし、このワサビ付けてやるよ、刺身には欠かせないからな」
「わ、良いんですか?ありがとうございます」
こうして私はマグロとワサビをゲットした。
丸々買ったのは色んな部位を楽しみたいから。刺身はヅケにしても良いしネギトロも食べたい。他にもカルパッチョやステーキ、竜田揚げ、ツナなどにも出来る。中でもツナは野菜と炒めても美味しいし、ツナマヨにしてサンドイッチやおにぎりの具にも…とにかくマグロがあると分かった途端食べたくなってしまった。ワサビも手に入って良かった。
その後他も回ってアサリやイカなども購入し、ホクホク顔でコテージに戻った。
◼️
マグロは帰った後エヴァに手伝ってもらいながらありとあらゆる部位に切り分け、早速夕食に出した。まずはなんといっても刺身で、食べ比べ出来るように赤身、中トロ、大トロを並べた。あとは食べやすそうなところで竜田揚げ、おみそ汁はアサリと豆腐で。私以外はマグロ初体験だし、妊婦にはあまり良くないという話を聞いたことがあるので他の料理も準備した。
いざ実食。
私は少々緊張しながらレオンとエヴァの感想を待つ。
「へぇ…もっと生臭い感じがするかと思ったけどあまり感じないね。ショウユとワサビにマグロが凄く合ってて美味しいよ」
「このワサビは良い辛さだな、味が締まる。飯が進むし、美味いぜ。俺は大トロが好みだ」
「オレは中トロが良いかな。赤身も捨てがたいけど」
「良かった。マグロは色々な部位が楽しめるから、また今度違うのを出すね」
2人の言葉にホッとしてそう返すと、サビ抜きのお刺身と竜田揚げをちょっとずつ食べていたスノウが顔を上げた。
「…スノウはたったあげがいいの」
若干顰めっ面をしているところを見るとお刺身はお気に召さなかったようだ。逆にスノウサイズになって一緒に食べていたスレートは、ワサビ付きのマグロを次々口に入れている。
「お、スレートはワサビ平気なんだな」
「そうみたいだね。スレートって食の好みが割と大人だよね」
「コレ オイシイ スキ」
あっという間に皿を空にして満足気に言う。他人が聞いても抑揚など無い声だろうが、私たちからすれば前より感情が分かりやすくなった。
「しかしフォークで食べるスライムとは…凄えな」
「だね。ここまで器用だとは思わなかったよ」
2人の言う通り、スレートは進化後器用度が増してフォークやスプーンを使って食べる様になったのだ。10㎝の金色スライムがフォークでお刺身を食べる光景などおそらくここでしか見られないだろう。
「近いうちに専用の食器を作ってやるか」
「それが良いね。普通のフォークじゃ大きいし」
「センヨ ウレシイ」
「ふふ、良かったねスレート」
スノウ用はずっと前にレオンが作ってくれたが、スレートのはまだだった。小さな食器はおままごとの道具みたいで可愛く、見た目も楽しめる。
「さて、刺身をサニーとサックスにも持っていってみようか」
「そうだな」
「うん」
「さにーとさっくのとこいくの!」
「ン 。イク」
私たちは料理を持って2頭の元に向かった。
門をくぐって街に入ると道は左右と正面の3方向に分かれていた。ここから直進すると市場、右折すると冒険者ギルド、左折すると商業ギルドがあるらしい。私たちはまず冒険者ギルドへ行く事にした。
この街は海鮮市場が有名で、他ではお目にかかれないような海の幸が手に入る。それらを仕入れに来る商人も多く、決して大きくない街の規模から考えると商業ギルドは立派だ。海の魔物を相手にしている冒険者ギルドも同様である。
「サニー、サックス、お前らはここで待ってろな」
((ハイ))
ギルド前に着いてレオンがそう言うと、2頭は声を揃えて返事する。するとスノウとスレートが鳴いた。
(きょーはスノウたちもここでまってるの)
(マツ)
「そう?なら大人しくしてるんだよ」
(はいなの)
(オケ)
「すぐ戻るからね」
私たちはスノウたちに見送られながら中に入った。
木造2階建てのギルド内は広く、最も暇であろう時間帯でも結構な数の冒険者が居た。あまり見慣れない恰好の人もチラホラいて冒険者たちと話している。
まずは依頼ボードをチェック。
「漁船の護衛が多いな」
「漁師街ならではってところかな」
「普通の討伐依頼はあんまりないんだね。魔物少ないのかな?」
「そうかもな。この辺りは魔物の棲みつきやすそうな場所も少ねえみてえだし」
「だろうね。だからこういうのが成り立つんじゃない?」
こういうの、と言ってエヴァが指さしたのは隣にあった掲示板。そこにはパートナー募集の張り紙がたくさん張られていた。
「パートナー?」
「漁師と専属契約して漁に同行、必要な時は船を出してくれるみたいだよ」
「なるほどな。漁の時は護衛、自分が討伐に行く時は足になってくれるってことか」
「へえ…」
確かにこれなら双方の欠点を補いつつ上手くやっていけるかも。
「まあ俺らが討伐で海に出る事はあまり無いと思うが…」
「だね、こういう対処法があるって心に留めておくくらいで良いかな」
「ああ、そうだな」
「うん、分かった」
その後私たちは必要な情報を集めたのだが、その中に気になる物があった。それは昨年の12月半ばに沖の方で水竜、ブルードラゴンが目撃されたという情報。竜はもの凄い勢いで泳ぎ去ったらしく、目撃した漁師も無事だったようだ。
だが…
「…気になるな」
「だね。クラーケンの件に関係ある可能性は高いよね」
「ああ。もしそうだとしたら…沖とはいえ、滅多に人前に姿を現さないドラゴンが何故クラーケンを追っていたのか…ただの縄張り争いとはどこか違う気がする」
ブルードラゴンというのはドラゴン種のなかでは割合冷静な性質だという。縄張り争いとはいえ、人目も気にせず相手を追ったのには他に理由があるのかもしれない。
「…約4カ月前の事だけど、これは気にしておいた方が良いね」
「そうだな。キラも分かったな?」
「うん。スノウたちにも言っておかなきゃね」
「だね」
「ああ」
これについては夜伝える事にしてスノウたちの元へ戻った。
■
翌日は午前中のうちに買い物を済ませようと朝食後に街に入った。私は海鮮市場に行くのを楽しみにしていた。持っていない海産物があったらぜひ欲しい。
門から通りを真っ直ぐ進むと、程なくして海鮮市場と書かれた大きな看板が見えた。その看板から先はたくさんの店が軒を連ねていて、店主たちが店先で威勢の良い声を上げている。まだ早い時間であるにも拘わらず既に多くのお客さんが来ていた。活気ある雰囲気は如何にも漁業の街といった感じ。
「普通の市場ともまた違った雰囲気だな」
「だね。店の数で言えばヴェスタの方が多かったけど、この活気は凄いよ。キラ、人に酔わない?」
「うん、大丈夫」
「じゃあ行こうか」
「うん」
私たちは市場を見て回るべく看板の先に足を踏み出した。
店には実に様々な魚や貝、海藻などが並んでいた。一尾丸々のものや切り身にされているもの、そして刺身まで売っている。冷蔵が必要な事もネックになっているのだろうが、西と南の大陸では魚を生で食べる習慣がない。
レオンとエヴァが刺身を見て不思議そうな顔をしていたので説明すると、聞いていた店の男性が感心したように声を掛けてきた。
「良く知ってるねぇ、お客さん!刺身はこの辺りより北方の漁師街でしか食べられてないのに!刺身好きかい?」
「ええ、好きです。何がおススメですか?」
「今が旬のサワラとタイかな。後は時期はちょっとズレたが良いマグロがあるよ、どうだい?」
「え、マグロがあるんですか?欲しいです!出来れば一本のままが良いんですけど」
「ああ、まだ解体してないのがあるけど…本当に一本丸々かい?」
「はい」
「良い買いっぷりだねぇ、おまけに美人さんだし。よし、このワサビ付けてやるよ、刺身には欠かせないからな」
「わ、良いんですか?ありがとうございます」
こうして私はマグロとワサビをゲットした。
丸々買ったのは色んな部位を楽しみたいから。刺身はヅケにしても良いしネギトロも食べたい。他にもカルパッチョやステーキ、竜田揚げ、ツナなどにも出来る。中でもツナは野菜と炒めても美味しいし、ツナマヨにしてサンドイッチやおにぎりの具にも…とにかくマグロがあると分かった途端食べたくなってしまった。ワサビも手に入って良かった。
その後他も回ってアサリやイカなども購入し、ホクホク顔でコテージに戻った。
◼️
マグロは帰った後エヴァに手伝ってもらいながらありとあらゆる部位に切り分け、早速夕食に出した。まずはなんといっても刺身で、食べ比べ出来るように赤身、中トロ、大トロを並べた。あとは食べやすそうなところで竜田揚げ、おみそ汁はアサリと豆腐で。私以外はマグロ初体験だし、妊婦にはあまり良くないという話を聞いたことがあるので他の料理も準備した。
いざ実食。
私は少々緊張しながらレオンとエヴァの感想を待つ。
「へぇ…もっと生臭い感じがするかと思ったけどあまり感じないね。ショウユとワサビにマグロが凄く合ってて美味しいよ」
「このワサビは良い辛さだな、味が締まる。飯が進むし、美味いぜ。俺は大トロが好みだ」
「オレは中トロが良いかな。赤身も捨てがたいけど」
「良かった。マグロは色々な部位が楽しめるから、また今度違うのを出すね」
2人の言葉にホッとしてそう返すと、サビ抜きのお刺身と竜田揚げをちょっとずつ食べていたスノウが顔を上げた。
「…スノウはたったあげがいいの」
若干顰めっ面をしているところを見るとお刺身はお気に召さなかったようだ。逆にスノウサイズになって一緒に食べていたスレートは、ワサビ付きのマグロを次々口に入れている。
「お、スレートはワサビ平気なんだな」
「そうみたいだね。スレートって食の好みが割と大人だよね」
「コレ オイシイ スキ」
あっという間に皿を空にして満足気に言う。他人が聞いても抑揚など無い声だろうが、私たちからすれば前より感情が分かりやすくなった。
「しかしフォークで食べるスライムとは…凄えな」
「だね。ここまで器用だとは思わなかったよ」
2人の言う通り、スレートは進化後器用度が増してフォークやスプーンを使って食べる様になったのだ。10㎝の金色スライムがフォークでお刺身を食べる光景などおそらくここでしか見られないだろう。
「近いうちに専用の食器を作ってやるか」
「それが良いね。普通のフォークじゃ大きいし」
「センヨ ウレシイ」
「ふふ、良かったねスレート」
スノウ用はずっと前にレオンが作ってくれたが、スレートのはまだだった。小さな食器はおままごとの道具みたいで可愛く、見た目も楽しめる。
「さて、刺身をサニーとサックスにも持っていってみようか」
「そうだな」
「うん」
「さにーとさっくのとこいくの!」
「ン 。イク」
私たちは料理を持って2頭の元に向かった。
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