女装令嬢奮闘記

小鳥 あめ

文字の大きさ
7 / 50

習うより慣れろ ①

しおりを挟む

 ステラが部屋まで運んできた食事で軽く夕食を済ませ、風呂で汗を流してさっさと眠ることにする。シャシュカがお揃いが良いと言った為に腰まで伸ばしていた長い髪を、ステラが乾かした後、丁寧に梳いてくれていた。僕の黒髪は癖が無い分、寝癖でぼさぼさになると整えるのがメンドクサイ、実家にいた頃は寝癖が付いても無造作に結ってごまかしていたけれど、ここでは一応淑女を演じないといけないので手入れが大変だ、僕一人では貴族の令嬢を演出など出来なかっただろう。本当についてきてくれたステラには感謝しかない。

「そういえば、ハンスは部屋どうするの?」

 ドアの傍に立ち警護をしてくれている青年に問えば「カールさんに部屋を用意して貰いました。」とのこと。

 今更返す訳にもいかないもんね。それに女嫌いの当主のせいで、ここはかなり人手不足のようだし。そういえばハンス位の青年も居ないのはどうしてなんだろう。護衛は先ほどの厳つい眼帯の人しかいないのだろうか?
 
 いやいや、まさかね。

 用意して貰った部屋はかなり広いし、ベッドも大きくてフカフカだ、枕元には何故か可愛らしいクマのぬいぐるみが置いてある。12歳の子供が婚約者だと聞いて態々置いてくれたのだろうか?僕も妹もこういった可愛いモノには余り縁の無い人間なので、ちょっと新鮮。世間一般から見たらまだまだ僕らは幼いのだなとも感じさせられる。ここはもう幼さを全開に利用して屋敷の人間を懐柔していく方が早そうだな。
 
 知らぬ間に屋敷の者が全て僕側に付いたら、あの冷徹な表情の彼も驚きをかくせないだろう、そうした少しは僕の気も晴れそうだ。

 せっかくなのでこの青いリボンのついたクマを抱きしめて眠ことにする。この子の名前はどうしようかな。そんなことをうつらうつらとしながら考えて居たら、いつの間にかぐっすりと深い眠りについていた。

「シャシュカ様、シャシュカ様。」

 乳母ステラの優しい声が僕の意識を眠りから引き戻す。あれそもそもなんでステラの声が聞こえるんだろう?いつもなら屋敷の護衛隊長が「坊ちゃまぁ!朝ですぞ!訓練ですぞー!」といってドアをガンガンと叩いてくるのに。

 目を覚ますと知らない豪華な天井が見える、天井に妹が空けた穴が無いだと!ここはいったい何処だ!

 ガバリと体を起こすと驚いた表情のステラと、眠そうに欠伸をしているハンスの姿が見える。

 そうでした。僕はワルツ家に来ていて婚約者の振りをすることになったんだ。妹の振りして婚約者の振りをするとかどんだけ振り切ってるんだよ。冗談じゃないよ。何だかくらくらしそうで額に手を当ていると、「熱ですか?大丈夫ですか?」二人揃ってオロオロとするので顔を上げて大丈夫だよと微笑む。このままベッドの住人にされてはかなわない。我が家の使用人達は僕に過保護が過ぎるのだ。

 よし!
 
 僕は立ち上がり、ステラがフリフリのドレスを差し出してくるのを手で差し止めて、新品のクローゼットからいつも身に着けている白いシャツと黒いズボンを取り出しついでに乗馬用の靴も用意した。

「ちょっと走ってくるから、ステラ髪が邪魔にならないように結ってくれる?」

 ステラとハンスは目を合わせ、全くしょうがないなと苦笑いをした。

 

 日の出と共に走り、訓練中の護衛たちに混ざって剣を振る。腹筋を付ける為にもちろん筋トレも抜かしてはいけない。
 これが次期領主であることを期待されていた僕の、毎日のルーティーンだ。それは何処に居ようとも揺るがない。筋肉は一日にしてならず。我が家の家訓は何よりも重いものなのだ。

 因みに元気な妹はこれに加え、愛馬に跨り領地の見回りを行っていた。彼女は馬をと領地の人を何よりも愛している。それはもちろん僕も。

 裏口からこっそり外に出る、表玄関は通いのメイドさん来るかもしれないから驚かせたくないし。それにしてもワルツ家の庭はとても広いなぁ、それなのに手入れもしっかりとされている。ここにはたしか庭師のご夫婦と、その息子さんがいるんだっけと思いながらハンスを従わせて、軽く走りながら庭を眺めていると、キャスケット帽をかぶったそばかすが可愛い、目をくりくりとさせた少年が、枝切りバサミを持ったまま口をポカンと開けてこちらを見ていた。そして僕に向かって指を差し焦ったように叫ぶ。

「お、お前、誰だ!」

 まぁ、そうなるよねぇ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

俺の居場所を探して

夜野
BL
 小林響也は炎天下の中辿り着き、自宅のドアを開けた瞬間眩しい光に包まれお約束的に異世界にたどり着いてしまう。 そこには怪しい人達と自分と犬猿の仲の弟の姿があった。 そこで弟は聖女、自分は弟の付き人と決められ、、、 このお話しは響也と弟が対立し、こじれて決別してそれぞれお互い的に幸せを探す話しです。 シリアスで暗めなので読み手を選ぶかもしれません。 遅筆なので不定期に投稿します。 初投稿です。

この手に抱くぬくもりは

R
BL
幼い頃から孤独を強いられてきたルシアン。 子どもたちの笑顔、温かな手、そして寄り添う背中―― 彼にとって、初めての居場所だった。 過去の痛みを抱えながらも、彼は幸せを願い、小さな一歩を踏み出していく。

大嫌いなこの世界で

十時(如月皐)
BL
嫌いなもの。豪華な調度品、山のような美食、惜しげなく晒される媚態……そして、縋り甘えるしかできない弱さ。 豊かな国、ディーディアの王宮で働く凪は笑顔を見せることのない冷たい男だと言われていた。 昔は豊かな暮らしをしていて、傅かれる立場から傅く立場になったのが不満なのだろう、とか、 母親が王の寵妃となり、生まれた娘は王女として暮らしているのに、自分は使用人であるのが我慢ならないのだろうと人々は噂する。 そんな中、凪はひとつの事件に巻き込まれて……。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

処理中です...