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習うより慣れろ ①
しおりを挟むステラが部屋まで運んできた食事で軽く夕食を済ませ、風呂で汗を流してさっさと眠ることにする。シャシュカがお揃いが良いと言った為に腰まで伸ばしていた長い髪を、ステラが乾かした後、丁寧に梳いてくれていた。僕の黒髪は癖が無い分、寝癖でぼさぼさになると整えるのがメンドクサイ、実家にいた頃は寝癖が付いても無造作に結ってごまかしていたけれど、ここでは一応淑女を演じないといけないので手入れが大変だ、僕一人では貴族の令嬢を演出など出来なかっただろう。本当についてきてくれたステラには感謝しかない。
「そういえば、ハンスは部屋どうするの?」
ドアの傍に立ち警護をしてくれている青年に問えば「カールさんに部屋を用意して貰いました。」とのこと。
今更返す訳にもいかないもんね。それに女嫌いの当主のせいで、ここはかなり人手不足のようだし。そういえばハンス位の青年も居ないのはどうしてなんだろう。護衛は先ほどの厳つい眼帯の人しかいないのだろうか?
いやいや、まさかね。
用意して貰った部屋はかなり広いし、ベッドも大きくてフカフカだ、枕元には何故か可愛らしいクマのぬいぐるみが置いてある。12歳の子供が婚約者だと聞いて態々置いてくれたのだろうか?僕も妹もこういった可愛いモノには余り縁の無い人間なので、ちょっと新鮮。世間一般から見たらまだまだ僕らは幼いのだなとも感じさせられる。ここはもう幼さを全開に利用して屋敷の人間を懐柔していく方が早そうだな。
知らぬ間に屋敷の者が全て僕側に付いたら、あの冷徹な表情の彼も驚きをかくせないだろう、そうした少しは僕の気も晴れそうだ。
せっかくなのでこの青いリボンのついたクマを抱きしめて眠ことにする。この子の名前はどうしようかな。そんなことをうつらうつらとしながら考えて居たら、いつの間にかぐっすりと深い眠りについていた。
「シャシュカ様、シャシュカ様。」
乳母ステラの優しい声が僕の意識を眠りから引き戻す。あれそもそもなんでステラの声が聞こえるんだろう?いつもなら屋敷の護衛隊長が「坊ちゃまぁ!朝ですぞ!訓練ですぞー!」といってドアをガンガンと叩いてくるのに。
目を覚ますと知らない豪華な天井が見える、天井に妹が空けた穴が無いだと!ここはいったい何処だ!
ガバリと体を起こすと驚いた表情のステラと、眠そうに欠伸をしているハンスの姿が見える。
そうでした。僕はワルツ家に来ていて婚約者の振りをすることになったんだ。妹の振りして婚約者の振りをするとかどんだけ振り切ってるんだよ。冗談じゃないよ。何だかくらくらしそうで額に手を当ていると、「熱ですか?大丈夫ですか?」二人揃ってオロオロとするので顔を上げて大丈夫だよと微笑む。このままベッドの住人にされてはかなわない。我が家の使用人達は僕に過保護が過ぎるのだ。
よし!
僕は立ち上がり、ステラがフリフリのドレスを差し出してくるのを手で差し止めて、新品のクローゼットからいつも身に着けている白いシャツと黒いズボンを取り出しついでに乗馬用の靴も用意した。
「ちょっと走ってくるから、ステラ髪が邪魔にならないように結ってくれる?」
ステラとハンスは目を合わせ、全くしょうがないなと苦笑いをした。
日の出と共に走り、訓練中の護衛たちに混ざって剣を振る。腹筋を付ける為にもちろん筋トレも抜かしてはいけない。
これが次期領主であることを期待されていた僕の、毎日のルーティーンだ。それは何処に居ようとも揺るがない。筋肉は一日にしてならず。我が家の家訓は何よりも重いものなのだ。
因みに元気な妹はこれに加え、愛馬に跨り領地の見回りを行っていた。彼女は馬をと領地の人を何よりも愛している。それはもちろん僕も。
裏口からこっそり外に出る、表玄関は通いのメイドさん来るかもしれないから驚かせたくないし。それにしてもワルツ家の庭はとても広いなぁ、それなのに手入れもしっかりとされている。ここにはたしか庭師のご夫婦と、その息子さんがいるんだっけと思いながらハンスを従わせて、軽く走りながら庭を眺めていると、キャスケット帽をかぶったそばかすが可愛い、目をくりくりとさせた少年が、枝切りバサミを持ったまま口をポカンと開けてこちらを見ていた。そして僕に向かって指を差し焦ったように叫ぶ。
「お、お前、誰だ!」
まぁ、そうなるよねぇ。
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