女装令嬢奮闘記

小鳥 あめ

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習うより慣れろ ②

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 庭師の少年は、枝切りバサミの刃をこちらに向けたまま、警戒心を隠そうともせずジロジロと不審な目で僕たちを観察し始めた。

 長い黒髪を軽く耳元で結っただけの、ラフな服装をした中性的な人間に、その後ろにはがっしりとした体つきの笑顔だけは、爽やかな青年が腰に物騒な剣を下げたまま従っている。
  
 これ前情報が無いと、かなり不審人物かも。
  
 にこやかな顔をしているくせに、手が思わず剣に伸びそうになるハンスを視線で抑える。(子供に暴力駄目絶対!)全くこれだから好戦的な人間は~。もちろん威嚇だって分かっているけど、大人がそんな態度出しちゃダメダメ。
 しかし、このままにらみ合っていたらいつか怯えて叫ばれて、屋敷の主人を呼ばれてしまうかもしれない。
 
 流石にそれは不味い訳で。
 
 ならば仕様が無いと、僕はとっさに優雅に礼を取り、にこりと貴族の淑女らしい笑みを浮かべた。

「ワタクシ、昨日からこの屋敷に滞在することになった。シャシュカ・ベイレードと申しますの。貴方たちの主人であるグラデウス様の婚約者ですわ。後ろにいるのは護衛のハンスです。」
 
 だから、その枝切りバサミを降ろして欲しいな切実に、そんな願いを込めて挨拶をすれば。少年はあれっと呟き、枝切りバサミの刃を下ろす。

「ご主人の婚約者?あーなんか父ちゃんがそんなこと言ってたかも?」
 
と首を傾げつつも、一応不審者では無いと理解してくれたようで。心優しい少年は「勘違いして騒いで悪かった 

な。」と気恥ずかしそうに言って頭を掻いた。

「しっかし、あんた令嬢なのになんで男みたいな恰好してんだ?そんなんだからてっきり俺は、旦那様が野良猫を家に入れたのかと思っちまって...。」
「野良猫?」

 僕が思わず聞き返すと,少年ははっと焦ったように手をバタバタとさせ、何でもない何でもないと誤魔化した。
 その慌てように、僕とハンスは何の話だと首を傾げる。

 どうゆうこと?グラデウス様隠れネコ派なのかな。何処かでこっそり飼ってるの?屋敷の主人なのに。

少年はゴホゴホと、ワザとらしくせき込んだ後。

「まぁでも、令嬢だっていうんなら。もうちょっと上品でお淑やかな恰好をするべきなんじゃねぇの?旦那様が良いって言ったなら別だけどさぁ、一応周りの視線ってのもあるし、旦那様はモテるから、そんなお転婆が婚約者なら私がって、変に自信のあるやつらが立候補しに来たら困るんだけど。」

 確かにこの少年の言うことも最もだ、家ではシャシュカも似たような恰好をしてるから、町の人に見られても平気かなと思っていたけれど、将来の嫁っていう名目があるんだもんな。
 でも、ドレスだと走りにくいし、転んだら嫌だし。これは後々、グラデウス様の機嫌が良さそうなときに相談してみた方がいいのかも。

 僕がうーん面倒だなぁと、考え込んでいると。そこまでドレスを着たく無い思ったのか、

「そんなに、走りたいんなら。俺が外からは見えない場所を案内してやるよ!」

 と、少々呆れながらも、屋敷の案内人を買って出てくれた。

「それは有り難いのだけれど、お仕事の途中なのに邪魔じゃないかしら?」
「へーき、へーき、だってあんた未来の奥方様だろ?そんなら、今の内から媚び売っておけって母ちゃんなら絶対言うね。」

 なんとも正直な子だ。しかし、その素直さは幼いが為の純粋さにも取れて、別に不快な気はしない。

「それならお願いするわね。」

 フフフと一応女の子らしく笑うと、少年は任しとけ!と胸を拳で叩いた。
「俺は庭師の息子の、アルテミール、気軽にアルって呼んでくれよな。奥様!。」

 既に奥様と呼んで来るとは、やっぱりちゃっかりしてるな、この子。

 僕はやれやれとため息が出そうになるのを抑え、楽しそうに案内を開始するアルの後ろに続いたのだった。

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