女装令嬢奮闘記

小鳥 あめ

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王家の秘め事 ②

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 魔術師という職が古くからこの国には存在している。魔術と魔力には深い関係性があり、この国の人々はそれぞれ身に魔力を宿してはいるが、扱えきれる者は一握りも居ないと聞く、魔力を魔術や医術に変換できるものはとても貴重で、能力が発揮次第国で優秀な人材として教育され、管理されることになるのだが、時折その能力を悪いことに使おうと企むものが出てくる。
 特に魔術師は呪いに関しては凄まじい知識を持っている。正しく使えば危機を回避できる能力になるのだが、そう例えば毒を毒で制すというような場合であるとか。しかし、一度優秀な魔術師が悪の道に落ちてしまうと己を正すことは難しい、権力、闘争、立身出世、平和な世になろうともどこかで水面下の争いは起きている、その為呪いや、毒などの情報に関しては王家もかなり慎重に管理してはいるのだが、まぁ蛇の道は蛇ということな訳で、学ぼうと思えば学べてしまう、この世から悪が消えない限り、新たな悪を生み出すのは全く容易であるのだ。


「魔獣の研究は先々代の王が指導して行っていたはずですが、今は北の国との友好条約も結ばれ、屈強な門番を置く必要も無いだろうと、廃止になったと聞いていたのですが。」
 
 近隣諸国と境界線を巡り常に諍いが絶えなかった我が国は、強靭な守りを置く為に、魔力を極限まで注いだ獣、要するに魔獣の作成にいそしんでいた。何匹かは成功し実際に、戦に投入されたこともあった様だが、制御の利かない獣は扱いが難しく、敵どころか見方まで多数の被害が出たそうで、結局実験はそこで終わりになったはずである。
 しかし、僕が知っている事実はあくまで歴史書の中でのことだけ、今更被害が新たに出てきたということは、恐らく。
 思い悩む僕を見てグラデウスが言葉を引き継いで進めた。

「王家に隠れて、魔獣の研究を進めていた魔術師達がいたという訳だ、奴らは何処からか金を貰い独自に研究を進めていた、そして今や研究を成功させ、国家の転覆を躯んでいる。」
「すでに、グラデウス様が被害にあっておりますわ、このまま野放しにして置いたら、王子だけでは無く、王や王妃にまで魔の手が伸びるかもしれません。」
 それは絶対に避けなければいけない事だ、しかし宮廷騎士たちも馬鹿ではない、すぐさま全魔術師を拘束、尋問したらしいが未だに主犯が割れないのだとか。


「王子を襲った魔獣は一見可愛らしい野犬の外見をしていたが、私の肩を噛むと醜い形相の魔獣に変化し、そのまま苦しんで死んだ、元々野犬だったものに、魔術を使い毒と呪いをかけたのだろう、死体を検分してみたが、体の殆どが毒に侵され酷い有様だった。」
「それは、なんて残酷な。」


 外見が野犬であったのなら、王子も護衛たちもあまり警戒はしなかったであろう、いくら第一王子が心優しく聡明であったとしても、こんな事態を予想できるはずもない。


「城には悪意が潜んでおりますわね。せめて首謀者が分かれば良いのですけれど。」
「俺もこの地に居ながらではあるが、地方貴族たちの動向を見張っている。魔獣の研究は金と場所が掛かる、絶対に援助をしている者がいるはずだからな。」


 すぐにでも探りを入れたい気持ちは分かるが、こんな状態で無理をさせたくはない、今は自分の体を直して貰わないと、今にでも起き上がりそうなグラデウスを制すように、ポンポンと優しく腕を叩き、「もう一度眠りましょうか。」と提案する。
 
 興奮してしゃべりすぎたせいで、また少し体温が上がっているのが見て取れた。
 宮廷医師が渡した解毒剤があるというので、飲んでもらう。少しずつ体に入り込んだ毒を中和しておかないと体力が持たない。
 呪いの方も何とかできればいいけれど、術師の知り合いもいないしどうしたものかな。


薬を飲むと途端に眠くなる効果があるらしくグラデウスは、フカフカとした枕に頭を埋めると、眠たそうに長い金色の睫毛を瞬かせた。


「君は屋敷に来たときに猫を被っていたようだから、本当はこの婚約に納得していないのかと思っていたが、俺の勘違いだったようだな。」
眠そうな声でそんなことを言う。
はて、猫かぶりとは?


「俺にあんな事を言われて、大人しくしていたから不思議だった。君だったら近寄るなと言われた時点で、切りかかってくると思っていたからな。しかし、今の君は初めて会ったときと変わらない、強気と強引さで少し安心したよ。君の様な豪胆な人間にも、婚約者との対面は緊張するという感情があるんだな。」

「え~っと、夜会でのわたしくしは、そんな豪胆な令嬢でしたかしら。」

「ははは、今更俺の前で令嬢ぶられても困る、夜会で強引に令嬢を庭に連れ出し襲おうとしていた貴族を、拳一発で気絶させ、庭の池に投げ入れていたところまで見ていたんだぞ、しかも俺に向かってこのことを話したら、命は保証しませんと脅しまでかけて来た。」
「えっ、そんなことしましたかしらぁ。記憶にございませんわぁ。」


 シャシュカ何してんのー!お前夜会では常に淑女でいるとか言ってただろうが!
 やめてー!唯でさえ周辺領地から脳金貴族とか言われてるのに、拍車をかけるような事するのほんとやめてくれ!


「こら今更白を切るな、しかし、俺はそんな所が気に入った。」
「ふえっ。」
 グラデウスは優しい瞳で僕を見て、ふわりと微笑む。うわ、美形の笑みは眩しすぎる!
「俺は夜会での出来事の隠蔽と黙秘を条件に、俺との婚約を君の父君から取り付けるようにと言った。断られるかと思ったが、君は少しきょとんとした後、有能な男は嫌いじゃないと言って。条件を飲んだ。」


 もう一度手を握ってもいいかと、グラデウスが言ったので僕はおずおずと手を差し出した。いつもは白い手袋をつけていたけれど、今は素手になっている。男の手だとばれないだろうかとドキドキしていると、グラデウスは僕の指先や手のひらを、自分の指で確かめる様に撫でて、嬉しそうに笑った。


「やはり、剣だこや切り傷が出来ている。貴族の令嬢の手とは思えない武骨さだな、しかし、君の手は誰かを守れる剣士の手だ、俺は同じ騎士として、そのことがとても嬉しくて、君を女性でなく同じ志を持つ同志として欲しいと思ったんだ。」


 そういうと、またきつく僕の手を握ったままグラデウスは眠りについた。


僕と言えば、妹の暴挙に目を白黒させてパニックになっていたが、彼がシャシュカを女性ではなく一人の剣士として認めてくれたことに、喜びが抑えきれなかった。それに僕の手を触って騎士の手だって言ってくれた。いつも寝込んでばかりで、皆に迷惑を掛けてばかりだった僕の手を、守りの手だって。
 自分の弱さを克服できるように剣の鍛錬だけは、誰にも負けたくない気持ちで取り組んできていたから、歴代王家の中でも最強の剣士と言われる彼に、僕の努力を誉められて嬉しくないわけが無い。
 握られた手は熱く、もうどちらの体温のせいなのかもわからない。心臓はドキドキしているし、顔だって耳まで真っ赤だ。


 好きだなぁと思った、人として彼の事が。


 だから、僕が彼を守りたい、自分を犠牲にしてばかりのこの人の事、一番近くで守れるのは僕だけなんだから。
 
 絶対に呪いだろうが、なんだろうが僕がなんとかしてやるんだ。

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