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好敵手の条件 ⑤
しおりを挟む僕はまじまじと、彼の細腕に付けられた腕輪を見つめた。魔術ってそんなことも出来るのかという感心はもちろんだけれど、王子からのそこまで強い執着がなんだか凄く怖い気もする。
「ジャノメ様と。第一王子はとても仲が宜しいのですね。」
踏み込んでい良いのだろうかと思いつつ、好奇心には勝てなくてつい聞いてしまった。そんな僕に特に厭そうな顔もしないままジャノメは一口スープを飲んで、何でもないように言った。
「あたしと王子は身体だけの関係なのよねぇ。だからこれは彼の所有印みたいなものかしら、本当ならこの腕輪外すことも出来るんだけど、それはどうしてもしたくないのよ。」
ええっ!でも第一王子には婚約者が居たような?
「いるわねぇ。隣の国の第三王女よ。可愛らしくて素敵な方だわ。でもね、恋は理屈じゃないのよ。ダメだって分かっているほど燃えるものなの、それに彼はあたしの初恋の人だから、彼が結婚をして完全にあたしのことを捨ててしまうまで、体だけは繋がっていたいとか情けないけど思っちゃったのよね。」
それでも、自分に監禁紛いな事をした王子の事は許せなかったらしい。毎日ベッドの上に組敷かれて、仕事にも行かせて貰えず、お前だけは離さないというかのように酷く抱かれて、このままでは王子が駄目になってしまうと危機を覚え、王子が居ない間を見計らって浮遊魔術を使い逃げて来たのだとか。
「ボロボロのままグラデウスの屋敷に飛び込んじゃったから、グラデウスにもあそこの使用人たちにも迷惑をかけちゃって、しかもグラデウス、あたしの事捨て猫なんて呼ぶのよ、全く失礼しちゃうわ。あたしはちゃんと腕輪付きの飼い猫なんだから、今はちょっと家出してるだけ。でもまぁ、そこも不器用なグラデウスらしいけど。」
「グラデウス様はジャノメ様と王子の関係をご存じなのですの?」
「知ってるわよぉ、だって学生にころからの事だし、まぁ彼はある意味被害者だけどね。王子の中ではあたしはグラデウスと王子に二股掛けて弄んでる、性悪ビッチになってるから、それに王宮騎士達の事もつまみ食いしてるって思っているだろうしね。」
でも、そう思わせておいた方があたしにも都合がいいの。
へたくそな笑みを浮かべてジャノメは言う。
「もちろん、あたしとグラデウスは唯の親友、でもグラデウスは優しいからあたしの悪い噂を否定もしないし肯定もしない、そうしないと最悪の事が起こったときに王子はあたしを捨てられないでしょ。男狂いの魔術師に遊ばれていた可哀想な王子様、彼は情が深いからあたしを切り離すのに戸惑ってしまうわ、でも国の為にも彼の為にも、最後にあたしを選ぶって選択肢は無くしてほしいのよ。」
それがきっと、あたしの償いだから。
ぼそりと吐き出された言葉は、彼の本音の様な気がした。
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