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好敵手の条件 ⑥
しおりを挟む暫く3人でのんびりと、おやつに持って来たスコーンまでも取り出して食べながら、学生時代のグラデウスの話を聞たりしていたが、ふとジャノメが時計のある方へ視線を向け言った。
「もうすぐ時間ね。」
そう呟いてジャノメは立ち上がり、僕とハンスについてきなさいなと手招きをする。もうすぐ12時お昼の時間だ。僕はさっき食べたばかりだけど、のんびりしていたらこんな時間になっていたんだな。
そういえば、グラデウスにはピクニックに行くと言って出て来たんだった。別に僕の事心配なんてしていないだろうけれど、僕は彼がお昼を抜いて居ないかちょっと不安。帰ったらシェフとメイドに確認しておかないとね。
ジャノメは教会の外に出ると、礼拝堂の隣に建てられている小さい塔の階段を昇って行く。教会の尖り屋根よりは大きいその塔の上には銀色に輝く鐘が一つ吊るされていた。
「3,2,1 はい。」
掛け声のあと、ジャノメは持っていた先の丸い棒の様な物で、鐘を三回叩いた。
[カーン カーン カーン ]
あっこれ、毎日屋敷にまで聞こえていた鐘の音だ。この教会から鳴らしていたんだな。もしかして僕の故郷でも絶えず、同じ時間に鐘の音が聴こえていたけれど、あれももしかしたら教会の鐘だったのかもしれない。外に出て初めて知ることは本当に多い。僕は箱入りだったから尚更そう感じるのかも。
鐘を叩いた後、ジャノメは息を深く吸い、喉を震わせ、歌い始めた。美しいその歌は風に乗り遠くまで音色を運んでいく。
何語で歌っているのかが分から無いから、魔術師の言葉で出来た歌なのかも。彼らは魔術語という言葉を作り、一般の人の目に触れないようにしていると聞いたことはあったけど本当だったんだな。
不思議な言葉の羅列、しかし美しい歌声で奏でられるそれは、僕の耳に気持ちよく入り、体中を清々しい気分にさせて去って行った。
「さっき、食べたばかりですのに、何故かお腹が空きますわ。」
「そりゃそうよ、さっきの歌はご飯を美味しく食べられる歌ですもの。」
もちろんあたしのオリジナルよー。
ウインクを一つしてジャノメは塔の内部にある、細い螺旋階段を降りてゆく。
ドレスの裾を踏まないように慎重に階段を降りる僕に、ジャノメは言った。
「シャシュカは、いつもこの時間暇なのかしら?」
「えっと、そうですわね。編み物などをすることが多いですが、グラデウス様は好きにしろと言って下さっています。」
「それならちょうどいいわ、貴方魔術を覚えてみる気なぁい?」
魔術?と聞いて僕は飛び上がる。王宮に務める最高の魔術師から魔術を教えて貰えるなら有り難いことだけれど。
「で、でも。わたくしには扱える程の魔力はありませんわ。教会でそういわれましたもの。」
8歳になると、子供たちは全員教会に集められ魔力の適性があるかを調べられる、そこで魔術を使いこなすのに十分だと認められれば、王宮で魔術の基礎を学び、成長するとさらに高度な魔術を使いこなせるように、王都の魔術学院に通うことになるのだ。
残念ながら、僕と妹には魔術の適性は無く、教会はもちろんの事、学院からも入学の誘いは無かった。
「そう、一見無いように感じるのよねぇ、貴方、でも能々魔力の源を覗いてみれば、何か制限されている感じがするのよ。ねぇシャシュカ、貴方少し人より体力が無かったり、熱が出やすかったり、寝込みやすくないかしら。」
「ど、どうして分かるんですの?」
「あら、やっぱりね。魔力の存在能力があるにも関わらず、健康状態が不安定だと魔力も本来の力を出せないのよ、特に幼いころはね。だから最初の検査では適正無しとみられても、成長したり、成人を越えてから魔力が扱えるようになるというのは、結構ある事例なのよ。だ・か・ら、あなたも鍛えれば魔力を扱えるようになるわ。この王宮魔術師ジャノメ様が保証します。もし、あなたが魔術を使いこなせるようになりたいのなら、特別にあたしの弟子にしてあげてもいいわ。」
本当わね。ジャノメが言葉を続ける。
「グラデウスを取りあうライバルとして、貴方と対峙しようと思ってたんだけど、想像と違ってガッツも勇気もあるお嬢様だったから。あたしもなんだか、嬉しくなっちゃった。グラデウスを貴方に任せてみたいなーんてそんなこと、あたしが思うなんてね。でもでも、彼を守りたい、傍に居たいと思うなら、弱くっちゃ駄目よ。彼には敵が多い、城の中にも外にもね。それでも彼を諦めたく無いと、願うならあたしが手を貸してあげる。」
「魔術があれば、グラデウス様を守れるんですの?」
「
そうよぉ、努力して身に着けた魔術は時として、天性の魔術力を上回ることもあるの。」
ジャノメの瞳がキラリと光り。今まで僕がずっと求めていた言葉をくれた。
「貴方は強くなれるわ。この世界の誰よりも。」
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