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魔術師のお弟子さん ③
しおりを挟む物に溢れた部屋の最奥部から、人がもぞもぞ動く気配がする、服や本を踏まないようゆっくりと気配のする方に進んでいくと、床に芋虫の様に毛布にくるまった師匠(仮)がいた。本来ベッドであったであろう場所は、分厚い本が一面に並べてあって寝床の機能を失っていた。だからと言って床で寝ていいという訳では無いけれど。
グラデウスが食料を持っていけと言った意味が良く分かった、この状況ではご飯どころではないもんね。
毛布から桃色の髪ははみ出させて、芋虫は未だ冬眠中だ。この状態の中で寝れるって凄い根性してる。魔術師って精神的にタフじゃないと慣れないのだろうか、そうであって欲しくはない。
「ジャノメ様!シャシュカです。約束の時間になりましたわよ!起きて下さいませ!」
結構強い力で揺すっても起きやしない。駄目だこりゃ。
僕は辺りを見回し、ため息を付く。これから毎日このゴミ溜めに師匠を呼びに来なきゃいけないのは断固拒否する!
それに僕は埃が多いと、くしゃみが…
「くしゅ!」
あぁやっぱり、もう無理!
僕は速足で外に出て深呼吸をし新鮮な空気を吸い込んだ。
「ハンス。」
「はい、なんでしょう?」
「今からこの家の掃除をします。掃除道具を屋敷から持ってきて頂戴!」
「アイ・サー」
ハンスは手で軽く敬礼をして、屋敷に戻って行った。
「取りあえず、歩く場所作ろう。」
散らばっていた服を纏め開いて居た箱に入れた。
[あいつが床に投げている者は基本要らないものだから、どんどん捨てればいい。]
掃除道具を持って帰って来たハンスは、グラデウスからそんな伝言を受けたらしい。
「いいのかしら。」
「良いんじゃないですか?この人着道楽だけど、一度着ると感心もたなくなるそうですし。」
「でも、勝手に捨てるのは少し可哀想なので、全部畳んで聞いてからにしましょうか。」
取りあえず明らかにゴミである物を片付けて、キッチンに溜まっているお皿や食器を洗う。その間ハンスは重い本を本棚にしまう作業をする。
これだけでも、床は見えるようになったし、少し空気も良くなった。
しかし僕が、家事スキルのある令息で良かった。普通なら使用人の仕事だもん出来る訳が無い。
でも、自分の身の回りの事が出来ないと、騎士学校に行ったとき絶対に困るぞと思って、使用人達にコツを聞きながら必死に覚えたんだ、まさか今役に立つ何て、人生に必要のない学びなんて無いんだなぁ。
そういえば、シャシュカは寮生活どうしているんだろう、家事とか出来るのかな、まぁあの子は自分で出来なくても他人にやって貰えるように、誘導できる要領のいい子だから心配は無いか。
そういえば、この家の住人も騎士学校出身のはず。学生時代のこの人の生活事情知りたいような知りたく無いような。
こうして僕の最初の魔術師修行は、掃除をして終わってしまった。まぁどうせ明日も残りをやるんだけど。
本に埋もれていたテーブルを発掘して、バスケットを包んでいたランチョンマットを上に敷き、綺麗になったキッチンでお湯を沸かし部屋にあったコーヒーを勝手に淹れていると、匂いに誘われたのか、部屋の端に転がっていた芋虫がやっと冬眠から目覚めて顔を出し、寝ぼけた瞳で僕の方を見た。
ぱちりと前が合うとジャノメは慌てて起き上がり、「ごめんなさい!二度寝しちゃったの!」手を合わせ謝って来た。
「あら?お部屋が綺麗になってる。というか貴方どうやってここに入ったの?」
「グラデウス様が合鍵を渡してくれましたの。」
「ああ、そういえばこの家は、グラデウスの管理下だったわね。」
はぁとため息を付いてジャノメは更に頭を下げた。
「6時の鐘を突き終わった後、時間があるからって一休みしちゃって。昨日は貴方にどんな魔法を教えようか、悩んでたら、楽しくなって本を引っ張り出したりしてたらこの様よ。」
ベッドの上に並んでいた本は、に教える為の教本だったらしい。
「時間無駄にさせちゃったわねぇ。」
しょんぼりするジャノメに僕は首を振り、淹れたてのコーヒーを渡した。
「わたくし、大掃除というものの知識はありましたけど、実線は今日が初めてでしたの。でも中々綺麗にできて大満足です。それにわたくしの為に本を選んで下さったその気持ち、とても嬉しいですわ。師弟なんですもの。これからお互い学び合っていけばいいのではないでしょうか?」
「ありがとう、貴方優しいのね。」
漸く笑顔になったジャノメは、コーヒーを一口飲んで「あら、美味しい!」嬉しそうな声を上げた。
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