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レイナの提案3
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キルジア卿が信じられない者を見るように言った。
「れ、レイナ殿。あなたはなぜそこまでするのですか?」
「はい?」
「ハリス一家はあなたにとって、ただの他国の人間でしょう。普通の領主なら放り出すか、下手をすれば始末してしまうところです。なのにあなたは違う。完璧な計画を用意し、サザーランド国王まで巻き込んで、オーゲルス領の民たちを救おうとした。……なぜそんなことを?」
なぜ私がハリスさんたちを助けようとしたか、ですか。
理由はいっぱいあるけど……一言で言うなら。
「目の前の人を幸せにすることが、私の信念だからです」
「信念、ですか?」
「はい。私は慈善事業者ではありません。ですが……領主の娘という立場からできることはたくさんあります。そういう力を使って、多くの人が幸せに生きられるようにしたいんです」
私が告げたのは私が思い描く理想だ。
簡単に言うと、私は困っている目の前の人をあっさり見捨てるような人間になりたくないというだけである。
「それが他国の民でもですか?」
「私にとってハリスさんたちは、勤勉で真面目な、尊敬に値する方でしたから」
「……迷いはないのですね」
静かにキルジア卿は告げた。
それからキルジア卿は柔らかく微笑んだ。
「あなたのような領主に治められる領民は幸せですね」
「あ、いえ、私はまだ領主の娘なので」
「いずれは領地を継ぐのでしょう? きっと素晴らしい領地になるでしょう。……ふふ、あなたのような貴族は初めて見ました。いずれ私もあなたと共同で事業がしたいものです」
「こ、光栄です」
予想外に褒められて私は焦る。キルジア卿のような有能そうな人物にこう言われるのは嬉しくはあるけれど、なんだか緊張してしまう。
「話はわかりました。それではこの件は大公閣下にお伝えしましょう。必ず正式に受諾させてみせますよ」
「よろしくお願いします」
キルジア卿はそう言って請け負ってくれるのだった。
▽
この後の顛末を話しておくと……
キルジア卿はきちんと約束通りに条約を大公閣下に認めさせてくれた。
これで冬の間、ハリスさんたちはミドルダム領などでユキバミ芋の品種改良に協力してくれることになる。
ハリスさん以外のオーゲルス領民たちも協力的で、とても助かっている。
ちなみに、領民に重税を課していたオーゲルス卿だけど……
「うおおおおお! なぜこの俺が農業なんぞしなきゃならんのだ!」
「おいこら新入り! 桑捌きがなってねえぞ! さっさとしろ!」
「うがああ! 俺に命令するなあああ!」
……という感じで、農民に混ざってユキバミ芋の栽培にいそしんでいる。
現在オーゲルス卿は『元男爵』という立ち位置の平民だ。
重税の一件をきっかけにキルジア卿が調査したところ、他にもいろいろな不正の証拠が出てきたらしい。
結果、大公閣下の愛情もさすがに尽きたようで、領地も爵位も没収。
そんなわけで、今はミドルダム領でハリスさんたちと一緒に頑張っている。
オーゲルス領民たちが参加したことで品種改良の作業はどんどん進んでいるので、ユキバミ芋の味がよくなっていくのも時間の問題だろう。
そんな感じでしばらく過ごしている。
今年の冬は賑やかだなあ。
……あ、そういえばフィリエル殿下のお泊まりの件がまだだ。
フィリエル殿下、ロードリン公国から帰ったら『ごめん急に仕事が入った……!』と悔しそうに王都にすぐに戻ってしまったのだ。
なんでも衛兵たちが探していた違法薬物の密売人? が見つかったとかなんとか。
その関係でフィリエル殿下は忙しくなってしまったようなのだ。
フィリエル殿下はぼそりと『これで僕の計画はさらに進む』なんて呟いていたけれど、それも合わせて気になる。
それにしても。
フィリエル殿下はたびたび忙しそうにしているけれど……本当に、あの人はどうしてあんなに忙しそうなのにうちの領地にしょっちゅう来てくれるんだろう。
謎だ。
「れ、レイナ殿。あなたはなぜそこまでするのですか?」
「はい?」
「ハリス一家はあなたにとって、ただの他国の人間でしょう。普通の領主なら放り出すか、下手をすれば始末してしまうところです。なのにあなたは違う。完璧な計画を用意し、サザーランド国王まで巻き込んで、オーゲルス領の民たちを救おうとした。……なぜそんなことを?」
なぜ私がハリスさんたちを助けようとしたか、ですか。
理由はいっぱいあるけど……一言で言うなら。
「目の前の人を幸せにすることが、私の信念だからです」
「信念、ですか?」
「はい。私は慈善事業者ではありません。ですが……領主の娘という立場からできることはたくさんあります。そういう力を使って、多くの人が幸せに生きられるようにしたいんです」
私が告げたのは私が思い描く理想だ。
簡単に言うと、私は困っている目の前の人をあっさり見捨てるような人間になりたくないというだけである。
「それが他国の民でもですか?」
「私にとってハリスさんたちは、勤勉で真面目な、尊敬に値する方でしたから」
「……迷いはないのですね」
静かにキルジア卿は告げた。
それからキルジア卿は柔らかく微笑んだ。
「あなたのような領主に治められる領民は幸せですね」
「あ、いえ、私はまだ領主の娘なので」
「いずれは領地を継ぐのでしょう? きっと素晴らしい領地になるでしょう。……ふふ、あなたのような貴族は初めて見ました。いずれ私もあなたと共同で事業がしたいものです」
「こ、光栄です」
予想外に褒められて私は焦る。キルジア卿のような有能そうな人物にこう言われるのは嬉しくはあるけれど、なんだか緊張してしまう。
「話はわかりました。それではこの件は大公閣下にお伝えしましょう。必ず正式に受諾させてみせますよ」
「よろしくお願いします」
キルジア卿はそう言って請け負ってくれるのだった。
▽
この後の顛末を話しておくと……
キルジア卿はきちんと約束通りに条約を大公閣下に認めさせてくれた。
これで冬の間、ハリスさんたちはミドルダム領などでユキバミ芋の品種改良に協力してくれることになる。
ハリスさん以外のオーゲルス領民たちも協力的で、とても助かっている。
ちなみに、領民に重税を課していたオーゲルス卿だけど……
「うおおおおお! なぜこの俺が農業なんぞしなきゃならんのだ!」
「おいこら新入り! 桑捌きがなってねえぞ! さっさとしろ!」
「うがああ! 俺に命令するなあああ!」
……という感じで、農民に混ざってユキバミ芋の栽培にいそしんでいる。
現在オーゲルス卿は『元男爵』という立ち位置の平民だ。
重税の一件をきっかけにキルジア卿が調査したところ、他にもいろいろな不正の証拠が出てきたらしい。
結果、大公閣下の愛情もさすがに尽きたようで、領地も爵位も没収。
そんなわけで、今はミドルダム領でハリスさんたちと一緒に頑張っている。
オーゲルス領民たちが参加したことで品種改良の作業はどんどん進んでいるので、ユキバミ芋の味がよくなっていくのも時間の問題だろう。
そんな感じでしばらく過ごしている。
今年の冬は賑やかだなあ。
……あ、そういえばフィリエル殿下のお泊まりの件がまだだ。
フィリエル殿下、ロードリン公国から帰ったら『ごめん急に仕事が入った……!』と悔しそうに王都にすぐに戻ってしまったのだ。
なんでも衛兵たちが探していた違法薬物の密売人? が見つかったとかなんとか。
その関係でフィリエル殿下は忙しくなってしまったようなのだ。
フィリエル殿下はぼそりと『これで僕の計画はさらに進む』なんて呟いていたけれど、それも合わせて気になる。
それにしても。
フィリエル殿下はたびたび忙しそうにしているけれど……本当に、あの人はどうしてあんなに忙しそうなのにうちの領地にしょっちゅう来てくれるんだろう。
謎だ。
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