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本編 テレザとアドルフとステファン

13.愛人の子

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アドルフの長年の愛人エファは、テレザの次男クリストフと10歳差でベルンハルトを出産した。

元々、アドルフは正妻テレザと約束したように、愛人と子供を作るつもりはなかった。それは正妻に操を立てたからというわけではなく、愛人に子供ができれば別れる時に面倒なことになるからだった。

エファは奇特なことに、アドルフに惚れていて何年も別れずにいたが、次から次へと2人目の愛人をとっかえひっかえするアドルフに不安を持っていた。だから子供がいれば繋ぎとめておけるかと思って、アドルフを騙して避妊効果のある薬草茶を飲まずに中出しさせた。正妻のテレザに子供が2人もいることも彼女の焦りに輪をかけた。

だが皮肉なことに、それは逆効果だった。エファの出産後、アドルフは彼女のところに通わなくなった。アドルフが来なくなったのは実際には、そろそろ長年の愛人に飽きてきただけでなく、約束を違えたことに嫌気をさしたことにあった。でもエファはアドルフの心変わりを信じたくなくて、ベルンハルトのせいだと思うようになり、幼児の息子を次第に折檻するようになった。

「何だい、その反抗的な目は!そんなだから、アドルフ様が愛想をつかしたんだ!」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」

「何度ごめんなさいって言えばいいんだい?!本当に卑屈な子だね!」

バシッ、バシッ、バシッ、バシッ、バシッ!

「ママ、痛い、止めて!」

「止めるわけにはいかないよ!お前が悪い子だから、アドルフ様が来なくなったんだ!悪い魂を叩いて出してやる!」

エファは、顔を叩かずに服で隠れる所だけ叩いていた。だから、男爵家のタウンハウスの執事セバスチャンが、月に1回様子伺いと手当を渡しに来ていたのに、虐待の事実に気付くのが遅くなってしまった。

セバスチャンから報告を受けたテレザは、アドルフを説得して7歳になっていたベルンハルトをカントリーハウスに引き取った。だが、ベルンハルトは長期間の虐待に心を閉ざしてテレザと打ち解けなかった。

その頃には、テレザの息子達は既に寄宿学校に入っていたので、彼と会うことはほとんどなかったが、異母弟のことを卑しい愛人の子と蔑んでいた。彼らは父親に似てしまってまだ学生にもかかわらず女遊びにギャンブルと放蕩しまくっていた。

エファは、洗濯や掃除をする下女としてなら仕事を紹介できるとテレザに言われ、かっときた。でもそれも無理はなく、エファは侍女として働いたことがなかった。経験の浅い侍女としては、たいてい見目のいい若い娘が望まれる。

エファは、テレザがやっと見つけたカフェに女給として就職したが、若い同僚の中で辛かったのか、愛人生活から勤労生活への切り替えが難しかったのかわからないが、しばらくして姿を消した。
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