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25.可愛さ余って憎さ百倍
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アンゲラは、夜会でフェルディナントに袖にされ、レオポルティーナにも彼女の親友ウルスラの茶会で恥をかかされた。その後もフェルディナントの行きそうな夜会に懲りずにまた行って話しかけて再び相手にもされなかった。アンゲラは仕方なくフェルディナントに手紙を送って何度も観劇やお茶会の誘いをかけたが、返事すらなかった。
(どうしてよ?! 返事すらくれないなんて……酷いわ!)
次第に彼女のフェルディナントへの思慕は憎しみへ変わっていった。その憎しみは時間と共にどんどん大きくなり、復讐を考えるほどだ。復讐計画を練るアンゲラの顔は鬼気に迫り、元々はそれなりに美しかったのに今や般若のようにしか見えない。
(あいつら、よくも私をコケにしてくれたわね! 許せない! 地獄に叩き落してやる! 何か弱みはないかしら……)
アンゲラは自分の護衛騎士の1人を呼び、フェルディナントとレオポルティーナの周辺を探るように命じた。彼女の家の騎士の一部は護衛だけでなく、後ろ暗い諜報活動もしている。
それから数日後、ロプコヴィッツ侯爵に新入りの従騎士が迎えられた。彼は人懐っこい少年ですぐに他の従騎士達と仲良くなり、先輩騎士達にもかわいがられるようになった。
騎士達の訓練にはヨハンはしょっちゅう参加している。フェルディナントは身体が弱いためにあまり訓練に来ないが、その日はたまたまヨハンとフェルディナントが練習試合をしていた。2人の試合が白熱してくると、皆手を止めて勝負の行く先を見つめる。最初はフェルディナントも素早い動きで善戦していたが、2人の体格差と体力の差はどうしようもなく、フェルディナントの剣がヨハンに飛ばされて勝負がついた。敗者をねぎらう勝者の目が優しく気遣うものであることは、他の者にも見てとれた。
『ヨハン様はやっぱりすごい』と感嘆する騎士達の中に例の新人従騎士もいた。
「ヨハン様って強いんですね」
「ああ、お前は初めて見るんだったっけ?」
「フェルディナント様相手じゃなかったら、もっと早く決着がついたはずだぜ」
もう1人の騎士が2人の会話に割り込んだ。
「やっぱりヨハン様も主人相手じゃ加減するってことですか?」
会話に割り込んだ騎士はわいわい大声で話している周囲の騎士達を見回して新人従騎士にささやいた。
「いや、ここだけの話、主人だから加減してるわけじゃないって噂だぜ」
「それってどういうことですか?」
「ヨハンがフェルディナント様に特別な感情を……」
「おい! 滅多なことを言うなよ! どこから旦那様の耳に入るかわからないんだからな」
新人従騎士と最初に話していた騎士が慌ててたしなめた。
「おい、フェルディナント様の練習試合に感嘆するのはもういい加減にして自分達の練習を再開しろ!」
伯爵家の騎士団長がそう怒鳴ると、騎士達は慌てて練習に戻った。その後、新人従騎士は噂話をした騎士にもう一度聞いてみたが、彼は二度とその噂話を口にしなかった。
ある朝、新人従騎士はいつものように他の従騎士と共に馬の世話と馬小屋の掃除をしていた。そこにフェルディナントとヨハンがやってきて自分達の馬を連れ出した。2人が騎乗して去って行く姿を眺めながら、新人従騎士は同僚に尋ねた。
「こんな朝から2人でどこへ行くんだ?」
「ああ、いつもの遠乗りだろうな」
「遠乗りっていつも2人で行ってるの?」
「そうみたい。ヨハン様はフェルディナント様の従者だけど、子供の頃から付いているから幼馴染みたいに仲がいいんだよ」
「どこへ遠乗りに行ってるんだろう? この辺にいい場所あるの?」
「さあな、俺はお二人がどこへ行ってるか知らないけど、侯爵家の森が割と近くにあるからそこかもな。あそこは侯爵家の狩猟場所で休憩用の館もあるそうだから」
「行ったことある?」
「いや、ないよ。先代の時は狩猟でよく使ったって聞いたけど、今の旦那様は狩猟しないし、騎士団でも訓練で使わないから」
そこでフェルディナントの遠乗りについての話は終わった。
馬の世話が終わると、訓練の前に朝の休憩が入る。新人従騎士は同僚からそっと離れて人気のない場所へ行くと、近寄ってきた鳩の脚に紙きれを結び付けて放した。
一方、遠乗りに2人きりで出かけたフェルディナントとヨハンは幸せいっぱい、爽快な気分で乗馬を楽しんでいた。いつもの通りに森の中の狩猟の館に着くと、手に手を取って家の中へ入って行き、抱き合って唇を貪り合い、身体を繋げた。お互いに夢中になっていた2人は彼らを見つめる不穏な視線に気付かなかった。
(どうしてよ?! 返事すらくれないなんて……酷いわ!)
次第に彼女のフェルディナントへの思慕は憎しみへ変わっていった。その憎しみは時間と共にどんどん大きくなり、復讐を考えるほどだ。復讐計画を練るアンゲラの顔は鬼気に迫り、元々はそれなりに美しかったのに今や般若のようにしか見えない。
(あいつら、よくも私をコケにしてくれたわね! 許せない! 地獄に叩き落してやる! 何か弱みはないかしら……)
アンゲラは自分の護衛騎士の1人を呼び、フェルディナントとレオポルティーナの周辺を探るように命じた。彼女の家の騎士の一部は護衛だけでなく、後ろ暗い諜報活動もしている。
それから数日後、ロプコヴィッツ侯爵に新入りの従騎士が迎えられた。彼は人懐っこい少年ですぐに他の従騎士達と仲良くなり、先輩騎士達にもかわいがられるようになった。
騎士達の訓練にはヨハンはしょっちゅう参加している。フェルディナントは身体が弱いためにあまり訓練に来ないが、その日はたまたまヨハンとフェルディナントが練習試合をしていた。2人の試合が白熱してくると、皆手を止めて勝負の行く先を見つめる。最初はフェルディナントも素早い動きで善戦していたが、2人の体格差と体力の差はどうしようもなく、フェルディナントの剣がヨハンに飛ばされて勝負がついた。敗者をねぎらう勝者の目が優しく気遣うものであることは、他の者にも見てとれた。
『ヨハン様はやっぱりすごい』と感嘆する騎士達の中に例の新人従騎士もいた。
「ヨハン様って強いんですね」
「ああ、お前は初めて見るんだったっけ?」
「フェルディナント様相手じゃなかったら、もっと早く決着がついたはずだぜ」
もう1人の騎士が2人の会話に割り込んだ。
「やっぱりヨハン様も主人相手じゃ加減するってことですか?」
会話に割り込んだ騎士はわいわい大声で話している周囲の騎士達を見回して新人従騎士にささやいた。
「いや、ここだけの話、主人だから加減してるわけじゃないって噂だぜ」
「それってどういうことですか?」
「ヨハンがフェルディナント様に特別な感情を……」
「おい! 滅多なことを言うなよ! どこから旦那様の耳に入るかわからないんだからな」
新人従騎士と最初に話していた騎士が慌ててたしなめた。
「おい、フェルディナント様の練習試合に感嘆するのはもういい加減にして自分達の練習を再開しろ!」
伯爵家の騎士団長がそう怒鳴ると、騎士達は慌てて練習に戻った。その後、新人従騎士は噂話をした騎士にもう一度聞いてみたが、彼は二度とその噂話を口にしなかった。
ある朝、新人従騎士はいつものように他の従騎士と共に馬の世話と馬小屋の掃除をしていた。そこにフェルディナントとヨハンがやってきて自分達の馬を連れ出した。2人が騎乗して去って行く姿を眺めながら、新人従騎士は同僚に尋ねた。
「こんな朝から2人でどこへ行くんだ?」
「ああ、いつもの遠乗りだろうな」
「遠乗りっていつも2人で行ってるの?」
「そうみたい。ヨハン様はフェルディナント様の従者だけど、子供の頃から付いているから幼馴染みたいに仲がいいんだよ」
「どこへ遠乗りに行ってるんだろう? この辺にいい場所あるの?」
「さあな、俺はお二人がどこへ行ってるか知らないけど、侯爵家の森が割と近くにあるからそこかもな。あそこは侯爵家の狩猟場所で休憩用の館もあるそうだから」
「行ったことある?」
「いや、ないよ。先代の時は狩猟でよく使ったって聞いたけど、今の旦那様は狩猟しないし、騎士団でも訓練で使わないから」
そこでフェルディナントの遠乗りについての話は終わった。
馬の世話が終わると、訓練の前に朝の休憩が入る。新人従騎士は同僚からそっと離れて人気のない場所へ行くと、近寄ってきた鳩の脚に紙きれを結び付けて放した。
一方、遠乗りに2人きりで出かけたフェルディナントとヨハンは幸せいっぱい、爽快な気分で乗馬を楽しんでいた。いつもの通りに森の中の狩猟の館に着くと、手に手を取って家の中へ入って行き、抱き合って唇を貪り合い、身体を繋げた。お互いに夢中になっていた2人は彼らを見つめる不穏な視線に気付かなかった。
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