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第2章 前世を思い出す前

5.もやもやの正体

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 アニカの側仕えがかなわなかったウルフは、他の孤児院の子供達と同じように、孤児院から義務教育の幼年学校に通った。

 モニカは同じ屋根の下に住む利点を最大限に使って、チャンスがあればいつでもウルフにべったりだった。でもウルフにとってモニカは孤児院に一緒に住んでいる子供以上の存在ではなかった。それどころか、いつもべたべたしてくるモニカが段々苦痛になってきていた。

 ある日、母親と孤児院に来ていたアニカはキョロキョロと辺りを見回してウルフを探していた。

 (あ、いた、いた!)

 「ウル・・・」

 視線の先にはウルフとモニカがいた。ウルフは気が付かなかったが、モニカはアニカに気付いて、すぐにウルフの腕をとってにっとしながらアニカを見た。それを見たアニカはびっくりしてしまって何も言えなくなってしまった。

 ウルフがようやくモニカから解放された時、アニカはもう帰宅しなければならない時間になっていた。

 「アニカ!」

 「お母様がもう帰るって。私も行かなきゃ。次はゆっくり話そうね」

 「うん、ごめん・・・」

 「どうして謝るの?」

 「アニカと話せなかったから」

 「じゃあ、今度話せるようにしてくれたらいいよ」

 その日、結局アニカがウルフと話せたのはそれだけだった。

 だが、その後もアニカが孤児院に遊びに来る度に、モニカがウルフにべったりでろくに2人で話せなくて悶々としていた。口下手なウルフはアニカを好きなことをアニカに言えず、アニカもプライドと照れが邪魔してモニカがウルフにべたべたするのが嫌とウルフに伝えられず、2人の仲は進展しなかった。モニカにとっては、正に敵失、ラッキー!だった。

 ウルフは義務教育の幼年学校を規定通り12歳で卒業し、ディートリヒシュタイン伯爵家の奨学金を得て商業学校に入学した。奨学生はディートリヒシュタイン商会に最優先に入社できるが、ウルフは、それが無理だったら首都のどこかの商会で働くことを目標にしていた。

 ウルフとアニカにとって運の悪いことに-モニカにとっては幸運だったけど-モニカも成績がよくて伯爵家の奨学金をもらえることになり、同じ学校に入った。

 アニカは上流階級や富裕層の子弟が通う私立のエスカレーター式幼年学校から内部進学した。アニカは、ウルフとモニカが同じ孤児院に住んで同じ学校に通うことにもやもやしていたが、これまた照れとプライドが邪魔してウルフに不安を訴えられなかった。
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