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21.襲撃
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ノスティツ子爵家には馬車がない。天気が悪い時は、ラルフは王宮まで辻馬車に乗るが、節約のためほとんど歩きで通っていた。
ゴットフリートがラルフの仕事を引き継ぐことが正式に決まり、ずっと家にいたゴットフリートが歩きで王宮に通うのはきついだろうということで、引き継ぎ期間中は辻馬車で行くことにしていた。だが、ゴットフリートは外の世界に出て行く踏ん切りがまだつかず、この日もラルフは1人で王宮へ向かって歩いていた。
道中、ガタイのよいが人相は悪い男がラルフの正面から近づいてきた。ラルフがよけようとして横にそれた途端、その男は太い腕でラルフの首を締め、ナイフを首に突き付けて騒ぐなと耳元で伝えた。
いつの間にか横につけられていた馬車にラルフが乗せられようとしたその瞬間、すらりとした人影が素早くならず者の脇腹を蹴った。ラルフを拘束する腕が緩んだところでその男はぼこぼこに殴られ、ラルフは解放された。すぐに護衛騎士のようなたくましい男達が現れてその男と御者を縄で縛って捕らえていた。
ラルフはしばらく放心状態だったから、気付いた時には犯人達は連れ去られた後で、妙に色気のある見目麗しい若い男だけがその場に残っていた。
「助けていただいてありがとうございます。私はラルフ・フォン・ノスティツと申します。貴方のお名前をお伺いしても?」
「貴方のことは存じています。私はコーブルク公爵家から派遣されたヨナスです。家名はないものと思ってくださって結構ですので、ヨナスとお呼びください」
「私のことをご存知なのですか? どうしてまた貴方がコーブルク公爵家から派遣されたのでしょうか?」
「貴方は公爵家乗っ取り勢力に狙われています。今日から外出時は私が護衛します。コーブルク公爵家から馬車を寄こしますので、歩きで通勤するのは止めてください」
「もう犯人は捕まりましたし、自分だけで通勤して大丈夫ですよ」
「危機感が足りませんよ。昨日はゾフィー嬢が誘拐されかかりました」
ならず者達が捕らえられて安堵したラルフの表情は一変した。
「えっ! 彼女とお腹の中の子供は無事ですか?」
「無事です。とある場所で公爵家が結婚式まで匿っています」
ラルフはゾフィーを見舞いたいと訴えたが、彼女の居場所が犯人に知られる可能性が高いと言われ、断念せざるを得なかった。
「昨日と今日、捕まったのは実行犯だけです。主犯は推測がついていますが、まだ主犯を捕まえるには証拠が足りません。主犯が逮捕されるまでは、隠れ家が見つかることは避けたいのです。それと貴方の家に私が住み込みで在宅時も護衛しますが、よろしいですか?」
「貴方じゃなくて別の方に来てもらうわけにいきませんか?」
「なぜ?」
「貴方は、そのー、あのー、危険なんです……」
ヨナスがノスティツ家に来たら、ラルフの母カタリナが厚化粧をもっとけばけばしくしてヨナスにしなだりかかること請け合いだろう。ラルフとしてはそんなものを家で見たくもない。ヨナスも閨の教師役や男娼を伊達に何年もやっているわけではないので、ラルフが何を危惧しているかすぐにわかった。
「お約束しましょう、お宅のレディに手は出しません」
「ぷっ……うちにレディはいませんよ。古狸のつがいもどきがいますけどね」
「ご冗談がうまいですね。ラルフ様が王宮に着かれたら、私はさっそくお宅へ向かいます。私がお宅を離れる場合に備えてもう1人別の護衛も公爵家から派遣します」
その日の夜、ラルフが仕事を終えて帰宅すると、疲れがどっと出る光景を目にしてしまった。いくらヨナスが距離をとろうが、母カタリナはぐいぐい来ていた。それを目の当たりにした父フランツは、もてる男にやっかみもあるのだろう、普段愛人とイチャコラしているくせに面白くなくて怒りを爆発させていた。
------
狸は、この小説がモデルにしている時代(19世紀半ばから末ぐらいで考えています)にはヨーロッパで自然繁殖してませんでしたが、そこは「ナーロッパ」(私の場合は近世のつもり)ってことでご勘弁お願いします。
ゴットフリートがラルフの仕事を引き継ぐことが正式に決まり、ずっと家にいたゴットフリートが歩きで王宮に通うのはきついだろうということで、引き継ぎ期間中は辻馬車で行くことにしていた。だが、ゴットフリートは外の世界に出て行く踏ん切りがまだつかず、この日もラルフは1人で王宮へ向かって歩いていた。
道中、ガタイのよいが人相は悪い男がラルフの正面から近づいてきた。ラルフがよけようとして横にそれた途端、その男は太い腕でラルフの首を締め、ナイフを首に突き付けて騒ぐなと耳元で伝えた。
いつの間にか横につけられていた馬車にラルフが乗せられようとしたその瞬間、すらりとした人影が素早くならず者の脇腹を蹴った。ラルフを拘束する腕が緩んだところでその男はぼこぼこに殴られ、ラルフは解放された。すぐに護衛騎士のようなたくましい男達が現れてその男と御者を縄で縛って捕らえていた。
ラルフはしばらく放心状態だったから、気付いた時には犯人達は連れ去られた後で、妙に色気のある見目麗しい若い男だけがその場に残っていた。
「助けていただいてありがとうございます。私はラルフ・フォン・ノスティツと申します。貴方のお名前をお伺いしても?」
「貴方のことは存じています。私はコーブルク公爵家から派遣されたヨナスです。家名はないものと思ってくださって結構ですので、ヨナスとお呼びください」
「私のことをご存知なのですか? どうしてまた貴方がコーブルク公爵家から派遣されたのでしょうか?」
「貴方は公爵家乗っ取り勢力に狙われています。今日から外出時は私が護衛します。コーブルク公爵家から馬車を寄こしますので、歩きで通勤するのは止めてください」
「もう犯人は捕まりましたし、自分だけで通勤して大丈夫ですよ」
「危機感が足りませんよ。昨日はゾフィー嬢が誘拐されかかりました」
ならず者達が捕らえられて安堵したラルフの表情は一変した。
「えっ! 彼女とお腹の中の子供は無事ですか?」
「無事です。とある場所で公爵家が結婚式まで匿っています」
ラルフはゾフィーを見舞いたいと訴えたが、彼女の居場所が犯人に知られる可能性が高いと言われ、断念せざるを得なかった。
「昨日と今日、捕まったのは実行犯だけです。主犯は推測がついていますが、まだ主犯を捕まえるには証拠が足りません。主犯が逮捕されるまでは、隠れ家が見つかることは避けたいのです。それと貴方の家に私が住み込みで在宅時も護衛しますが、よろしいですか?」
「貴方じゃなくて別の方に来てもらうわけにいきませんか?」
「なぜ?」
「貴方は、そのー、あのー、危険なんです……」
ヨナスがノスティツ家に来たら、ラルフの母カタリナが厚化粧をもっとけばけばしくしてヨナスにしなだりかかること請け合いだろう。ラルフとしてはそんなものを家で見たくもない。ヨナスも閨の教師役や男娼を伊達に何年もやっているわけではないので、ラルフが何を危惧しているかすぐにわかった。
「お約束しましょう、お宅のレディに手は出しません」
「ぷっ……うちにレディはいませんよ。古狸のつがいもどきがいますけどね」
「ご冗談がうまいですね。ラルフ様が王宮に着かれたら、私はさっそくお宅へ向かいます。私がお宅を離れる場合に備えてもう1人別の護衛も公爵家から派遣します」
その日の夜、ラルフが仕事を終えて帰宅すると、疲れがどっと出る光景を目にしてしまった。いくらヨナスが距離をとろうが、母カタリナはぐいぐい来ていた。それを目の当たりにした父フランツは、もてる男にやっかみもあるのだろう、普段愛人とイチャコラしているくせに面白くなくて怒りを爆発させていた。
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狸は、この小説がモデルにしている時代(19世紀半ばから末ぐらいで考えています)にはヨーロッパで自然繁殖してませんでしたが、そこは「ナーロッパ」(私の場合は近世のつもり)ってことでご勘弁お願いします。
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