傀儡妃は幼馴染の王太子をひたすら愛する

田鶴

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第1章 疑似兄妹

24.いとことしての交流

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 現国王アルフレッドの異母弟ヨアヒムの母親は、宰相ベネディクトの後妻カロリーネの父の妹で先代国王の愛妾でもあった。彼女の生家は、王宮で開催されるデビュタントボールに娘を出席させてやれない程の貧乏男爵家であったが、彼女は先代王の視察中に偶然見初められて王宮にあがった。ただ国王が気の強い王妃に気兼ねし、同じ王宮敷地内にあっても何代も前の国王の愛妾が使っていた『離宮』と呼ばれる古い別棟に若い愛妾は住まう事になった。

 先代王の在位中、カロリーネは叔母を訪ねて彼女の離宮に滞在し、2歳下の従弟ヨアヒムともよく遊んでいた。彼女の男爵家には王都にタウンハウスを持つ余裕も、王都から離れた領地から王都に来て滞在する余裕もなかったが、叔母の費用持ちで初めて招待された時、カロリーネは王都や王宮の煌びやかな雰囲気にすっかり舞い上がってしまった。

 普通の王侯貴族にはうらびれた様子に見える愛妾の離宮だったが、田舎男爵令嬢のカロリーネにとっては素敵なお城に見えた。ましてや、それ以外の王宮の建物は絢爛豪華でまるでおとぎ話に出てくる夢のお城のようであった。元々、カロリーネはそういう華やかな物に憧れていたのだが、堅実な両親や兄は地に足のついていないカロリーネの性格を良く思っていなかった。

 カロリーネは王都から帰宅すると、自分の家の貧乏振りが鼻につき、またすぐに王都に行きたくなった。可愛がってくれる叔母や、『従姉《ねえ》様』と慕って自分の後ろをくっついてまわる従弟にまた会いたい気持ちもなくはなかったが、どちらかと言うと、叔母の歳費で作ってもらえるドレスや美味しい食事、王都で見聞きできる最新の流行の方が魅力的だった。

 だが父が再度の王都行きを中々許してくれないため、業を煮やしたカロリーネは叔母であるヨアヒムの母に直接手紙を書いた。叔母は王妃の目を盗んでやって来る国王以外、人付き合いがなくひっそりと暮らしていたので、自分達を慕ってくれる姪を殊更かわいがり、その時だけでなく、何度も旅費を負担してカロリーネを離宮に招待してくれた。

 だが先代国王の崩御で状況は一変した。ヨアヒム親子はそれ以前から王宮で微妙な立場にあったものの、目に見えて迫害されていた訳ではなかった。だが先代国王崩御後はあからさまに冷遇され、ヨアヒムの母はみるみるうちに萎れて病死した。ヨアヒムも命の危険を感じる事すらあったが、まもなく異母兄アルフレッドが即位し、暗殺まがいの行為はぱったりと止んだ。ヨアヒムは、父王の生前に叙爵された領地なしの伯爵位を保持できるだけでなく、王弟としての敬称を得て歳費を支給される事になったが、その歳費で王族としての品位を保った生活ができるか微妙な額であった。それらの条件と引き換えに、ヨアヒムは王位継承権を剥奪されて離宮から追い出され、13歳の時から王弟にしては小さな屋敷で暮らし始めた。

 ヨアヒムの伯父――カロリーネの父――は、当時未成年だったヨアヒムを引き取る事もできなくはなかったが、王家の顔色を窺ってそうしなかった。だが、引退した男爵家の執事セバスチャンをまだ若いヨアヒムの所にこっそり派遣して屋敷の采配をするように手配した。

 ヨアヒムが小さな屋敷に移っても、仮にも王弟なのだからそれなりの生活はしているとカロリーネは思い込み、叔母に代わって今度は従弟に王都行きを強請った。父親は渋ったが、王弟が費用を負担して招待すると言えば断れず、仕方なく娘を送り出した。

 ヨアヒムは、慕っていた従姉が来てくれるのが嬉しくて少ない歳費をやりくりしてカロリーネの旅費を工面した。カロリーネは予想外に質素なヨアヒムの生活振りに驚いたが、それでも貧乏男爵家の実家よりはましな上に、彼の屋敷は中心地ではないものの、一応王都にある。

 カロリーネは当時15歳で通常なら社交界デビューする年であったが、ヨアヒムの母同様、逼迫した男爵家の財政のせいで社交界デビューの予定も婚約話もなかった。そこでカロリーネは、ヨアヒムの後ろ盾を受けて社交して結婚相手を見つけると父親に言い張って彼の屋敷に留まろうとした。

 当然の事ながら、未成年で微妙な立場のヨアヒムがカロリーネの後ろ盾になれるはずもない。カロリーネの父はそんな甥に借りを作りたくなくて娘の計画を阻止しようとしたが、カロリーネは華やかな王都にいたくてどうしようもなく、『王弟殿下の屋敷で行儀見習い』をするという名目でヨアヒムの屋敷に滞在する事を押し通した。本当は、女主人のいない家で貴族令嬢が行儀見習いをするのはあり得ないのだが、父親がそう言ってもカロリーネは突っぱねた。
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