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第2章 傀儡の王太子妃
45.直談判
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ルイトポルトが何度か香を使ってパトリツィアを抱いた振りをした後、父王アルフレッドが急死した。愛人の1人と睦み合っている時に媚薬の使い過ぎで2人とも死んだと言う。国王夫妻の長年の放蕩により王室への信頼が低下している折、国王の死の真相を公表する訳にはいかず、ルイトポルトは緘口令を敷いた。
ところがその真相がなぜか市中をめぐった。それどころか『放蕩王の息子』ルイトポルトも結婚していながら侍女の愛人と淫らな生活を送っていると噂が王都中に広がった。実際には、アントンの部下とのハニートラップ対策をしていただけなのだが、何者かに買収された王宮の使用人もしくはスパイから噂が広まったようだ。
王国民は貞節に厳しい教会の信者が多い上、重税や不景気で苦しんでいる。民衆はそんな最中の国王と王太子の放蕩ぶりに怒り狂い、民主派活動家が民衆を扇動して王室をなくせとシュプレヒコールを叫びながら王宮に押し寄せた。アルフレッドの異母弟ヨアヒムはルイトポルトが矢面に出ない方がよいと助言し、自らが表立って民主派と協議した。だがその実、ヨアヒムの裏では宰相ベネディクトが糸を引いていた。
民主派は議会への平民議員の加入と備蓄食糧の放出、貧民街の環境改善を要求した。ヨアヒムは教会と協力して備蓄食料での炊き出しを約束し、他の問題はすぐには回答できないが早急に議会に諮って検討すると回答した。民主派は納得いかない様子だったが、ヨアヒムはこのままでは我が国が弱体化して近隣諸国に蹂躙されると説得した。
アントンはルイトポルトが半幽閉状態にある中、アルフレッドの死の真相を探った。死んだ愛人の使った『媚薬』はアルフレッドの他の愛人達にも配られ、ある愛人がそれを使ったせいで秘密の恋人との情事の最中に死んだ事も判明した。『媚薬』の出所とそれを配った女の正体も分かり、宰相が点と線で繋がった。他の宰相派の貴族の横領などの罪の証拠固めもできて反宰相派の貴族の結束も固まり、宰相断罪の機がいよいよ熟した。
だが、その前にアントンはルイトポルトに内緒でパトリツィアに会見を願い出た。彼女はルイトポルトの妃でも曲がりなりにも宰相の娘であるので、軟禁下には置かれていない。パトリツィアは、特にアントンとの接見を禁止されている訳でもないし、ルイトポルトを案じていたので、すぐにアントンを応接室に通した。
「マンダーシャイド伯爵令息、王太子殿下のご様子はどうなの? いつ解放されるの?」
「恐れながら、殿下を軟禁しているのは妃殿下のお父上です」
「王弟殿下のご指示ではないの?」
「いいえ、あの方には元々、そんな政治力はありませんでした。彼は今や妃殿下のお父上の傀儡です」
「そうなの……私も同じね……」
「いえ、妃殿下にもできる事がございます。妃殿下が王太子殿下の不利になることをなさらないと見込んでのお願いです。どうかこのまま王太子殿下に会わずに王宮を出てくださいませんか? これから殿下は何があろうと、妃殿下のお父上がどうなろうと、妃殿下を守るつもりです。ですが、妃殿下がそのまま王太子殿下の妃としてあり続けるとしたら、またそうでなくとも何の罰も受けずに隠棲するだけであれば、殿下を直接支える臣下も民も納得しないでしょう。これから内政を立て直さなければならない殿下には大変な負担になります。妃殿下には酷なお願いをしていると承知しています。ですが、殿下を愛しているのでしたら、身を引いていただけませんか?」
アントンの願った事は、パトリツィアも迷いながらもずっと考えていた事だった。だがいつもルイトポルトがパトリツィアに微笑みかけてくれると、その決意がぐらつき、もうちょっとだけルイトポルトと一緒にいたいと思ってしまっていた。
「私が王宮をこっそり出て行方不明になるということね?」
「いいえ、事を成した後、妃殿下は幽閉の末に病死したと発表することにします。了承していただけるのなら、私が逃亡をお助けして新しい身元を作ります。もう貴族には戻れませんが、修道女になるか、ほとぼりが冷めたら遠くでひっそりと平民と再婚して新しい家族を作ることもできるでしょう。幸い、妃殿下はまだ純潔でお若く美しいので、その気になれば再婚相手は困らないでしょう」
パトリツィアはアントンの言った事が信じられなかった。
「純潔? 私がまだ純潔だと言うの?」
「恐れながら……そうです」
パトリツィアは再び騙されていた事に胸が痛くなった。その上、そんな繊細な夫婦の性事情まで側近が知っていて恥ずかしくて堪らなくなった。でもルイトポルトがやり遂げたい事を考えれば、当然と思うより仕方がない、そう思うしかない。
「そう……私が王宮を出た後の手助けはいりません。その代わり、弟のラファエルも一緒に連れ出してくれませんか?」
「彼が宰相の家にいる以上、無理です」
「じゃあ、私が王宮に連れてくるわ」
「止めて下さい! 王太子殿下の計画が宰相に洩れてしまいます」
「でも今までだってあの子が王宮に来ることもあったわ」
「今は非常時ですよ。幼い後継ぎを騒乱の最中の王宮に連れていくのは不自然極まりないでしょう」
「確かにそうですね……あの、それでは父に万が一があった場合、弟はどうなるのでしょうか?」
「弟君は幼くとも男性で後継ぎです。宰相派復活の旗印になる恐れがありますので、無罪放免とはいかないでしょう」
「でも命の危険はないですよね?」
「私も善処しますが、去勢の上で神職につく以上によい条件は用意できないかと思います」
「去勢?! そんな……」
「力及ばず申し訳ありません……」
「そうですか……では仕方がないのですね……」
パトリツィアはアントンの手前『仕方ない』とは言ったが、弟をそのまま見捨てる気はなかった。それに今生の別れになる前にもう1度だけルイトポルトに会いたかった。
「せめて王宮を出て行く前に殿下にもう1度だけ会わせていただけませんか?」
アントンは渋ったが、王宮を出て行く事をルイトポルトに黙っているのを条件にパトリツィアはもう1度ルイトポルトと会えることになった。
ところがその真相がなぜか市中をめぐった。それどころか『放蕩王の息子』ルイトポルトも結婚していながら侍女の愛人と淫らな生活を送っていると噂が王都中に広がった。実際には、アントンの部下とのハニートラップ対策をしていただけなのだが、何者かに買収された王宮の使用人もしくはスパイから噂が広まったようだ。
王国民は貞節に厳しい教会の信者が多い上、重税や不景気で苦しんでいる。民衆はそんな最中の国王と王太子の放蕩ぶりに怒り狂い、民主派活動家が民衆を扇動して王室をなくせとシュプレヒコールを叫びながら王宮に押し寄せた。アルフレッドの異母弟ヨアヒムはルイトポルトが矢面に出ない方がよいと助言し、自らが表立って民主派と協議した。だがその実、ヨアヒムの裏では宰相ベネディクトが糸を引いていた。
民主派は議会への平民議員の加入と備蓄食糧の放出、貧民街の環境改善を要求した。ヨアヒムは教会と協力して備蓄食料での炊き出しを約束し、他の問題はすぐには回答できないが早急に議会に諮って検討すると回答した。民主派は納得いかない様子だったが、ヨアヒムはこのままでは我が国が弱体化して近隣諸国に蹂躙されると説得した。
アントンはルイトポルトが半幽閉状態にある中、アルフレッドの死の真相を探った。死んだ愛人の使った『媚薬』はアルフレッドの他の愛人達にも配られ、ある愛人がそれを使ったせいで秘密の恋人との情事の最中に死んだ事も判明した。『媚薬』の出所とそれを配った女の正体も分かり、宰相が点と線で繋がった。他の宰相派の貴族の横領などの罪の証拠固めもできて反宰相派の貴族の結束も固まり、宰相断罪の機がいよいよ熟した。
だが、その前にアントンはルイトポルトに内緒でパトリツィアに会見を願い出た。彼女はルイトポルトの妃でも曲がりなりにも宰相の娘であるので、軟禁下には置かれていない。パトリツィアは、特にアントンとの接見を禁止されている訳でもないし、ルイトポルトを案じていたので、すぐにアントンを応接室に通した。
「マンダーシャイド伯爵令息、王太子殿下のご様子はどうなの? いつ解放されるの?」
「恐れながら、殿下を軟禁しているのは妃殿下のお父上です」
「王弟殿下のご指示ではないの?」
「いいえ、あの方には元々、そんな政治力はありませんでした。彼は今や妃殿下のお父上の傀儡です」
「そうなの……私も同じね……」
「いえ、妃殿下にもできる事がございます。妃殿下が王太子殿下の不利になることをなさらないと見込んでのお願いです。どうかこのまま王太子殿下に会わずに王宮を出てくださいませんか? これから殿下は何があろうと、妃殿下のお父上がどうなろうと、妃殿下を守るつもりです。ですが、妃殿下がそのまま王太子殿下の妃としてあり続けるとしたら、またそうでなくとも何の罰も受けずに隠棲するだけであれば、殿下を直接支える臣下も民も納得しないでしょう。これから内政を立て直さなければならない殿下には大変な負担になります。妃殿下には酷なお願いをしていると承知しています。ですが、殿下を愛しているのでしたら、身を引いていただけませんか?」
アントンの願った事は、パトリツィアも迷いながらもずっと考えていた事だった。だがいつもルイトポルトがパトリツィアに微笑みかけてくれると、その決意がぐらつき、もうちょっとだけルイトポルトと一緒にいたいと思ってしまっていた。
「私が王宮をこっそり出て行方不明になるということね?」
「いいえ、事を成した後、妃殿下は幽閉の末に病死したと発表することにします。了承していただけるのなら、私が逃亡をお助けして新しい身元を作ります。もう貴族には戻れませんが、修道女になるか、ほとぼりが冷めたら遠くでひっそりと平民と再婚して新しい家族を作ることもできるでしょう。幸い、妃殿下はまだ純潔でお若く美しいので、その気になれば再婚相手は困らないでしょう」
パトリツィアはアントンの言った事が信じられなかった。
「純潔? 私がまだ純潔だと言うの?」
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パトリツィアは再び騙されていた事に胸が痛くなった。その上、そんな繊細な夫婦の性事情まで側近が知っていて恥ずかしくて堪らなくなった。でもルイトポルトがやり遂げたい事を考えれば、当然と思うより仕方がない、そう思うしかない。
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「じゃあ、私が王宮に連れてくるわ」
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「今は非常時ですよ。幼い後継ぎを騒乱の最中の王宮に連れていくのは不自然極まりないでしょう」
「確かにそうですね……あの、それでは父に万が一があった場合、弟はどうなるのでしょうか?」
「弟君は幼くとも男性で後継ぎです。宰相派復活の旗印になる恐れがありますので、無罪放免とはいかないでしょう」
「でも命の危険はないですよね?」
「私も善処しますが、去勢の上で神職につく以上によい条件は用意できないかと思います」
「去勢?! そんな……」
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「そうですか……では仕方がないのですね……」
パトリツィアはアントンの手前『仕方ない』とは言ったが、弟をそのまま見捨てる気はなかった。それに今生の別れになる前にもう1度だけルイトポルトに会いたかった。
「せめて王宮を出て行く前に殿下にもう1度だけ会わせていただけませんか?」
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